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鈴屋さんとゆるふわっ!〈中編〉

あたたかな連休ですね。

ワタクシバリバリ出てますけども…気分転換に合間でなんとか書いております。

とりあえず中編になります。

話があまり進まず終われなかったです。(笑)


ではワンドリンク片手に、お気楽なワイバーン編後日譚をどうぞ。

「アークさみゃぁ~~こっちにゃ!」


 やたらテンションの高いシメオネが『黒猫の長靴亭』の前で、手をぶんぶんと振りながら飛び跳ねていた。

 いつものチャイナ服(と言い切ってしまおう)装備で、ぴょんぴょんと飛び跳ねるもんだから、お兄さんは目のやり場に困っているんだぞと、一言もの申したい。

 そして鈴屋さんとハチ子の顔を思い出し、駄目だ駄目だと頭をふり邪念を払う。


「よう、数日ぶり……って……」


 シメオネが、するりと腕に絡みついてくる。

 ついで、ふわっと石鹸の香りと柔らかであたたかな感触が伝わってくる。


 ……柔らかいってのは、断じて胸のことを言っているわけではない……

 一瞬で俺の邪念を呼び戻すその行為。

 まさか計算じゃあるまいな、と勘ぐってしまう。


「あれ、ラスターは一緒じゃないの?」

「兄様は、アークさみゃが一緒なら心配ないって言ってたにゃ。大姉様だけじゃなく、兄様からも信頼されるなんて、さすがアークさみゃにゃ!」

「うへぇ、そいつぁ怖いわ……」


 シメオネは気づいていないだろうが、それはいろんな意味で睨みが効いてるぜ。

 俺がシメオネを泣かすようなことをしたら、あの二人が報復にくるのか。


 ……死ねる……百回は死ねる……


 まさかと思うけど、監視でもしてるんじゃないかと周囲に目を配る。

 また背後から「しょうねぇ~ん」とか言われそうで怖いぜ。


「どうしたにゃ、アークさみゃ?」

「いや、なんでもない……です」


 そんな余計な心配をしている間に、俺たちは夜のラット・シーへと足を踏み入れた。

 俺はシメオネのマントを引っ張ってフードをかぶせると、海上ウッドデッキを足早に進む。

 こんな時間に、猫を鼠の巣窟に入れるのは危険だからな。耳くらいは隠しておかねばなるまいよ。

 とは言え、外にはそれほど人がいない。

 その代わり建物内から活気が伝わってくる。

 ここには酒場らしい酒場がない。彼らは家呑みが主流だ。

 これなら、難なくシェリーさんのところまで辿り着けそうだ。


「これで交換してもらえれば、ミッションコンプリートだな」

「……大丈夫かにゃぁ。こんなちょっと熱いだけのダガーで。しかもこれ、ナマクラにゃ」

「あぁ、それはダガーの形をした別の道具だから。そのへんは大丈夫さ」


 シェリーのアフロを思い浮かべる。

 あれだけ髪型に情熱を燃やしているんだ。

 ヘアアイロンの使い方を覚えれば、面白がるに決まってる。


「にゅぅぅん……まぁ、アークさみゃがそう言うのにゃら」


 シメオネはそれでも、一抹の不安を感じているようだった。


「……あぁ~それでにゃ、アークさみゃ」

「ん?」

「お礼をしたいにゃ。シメオネは、たくさんお世話になったにゃ」


 シメオネが顔を真っ赤にしながら下を向く。


「礼なんざ、いらんよ」

「そうはいかないにゃ。なんでも言ってほしいにゃ!」


 ……なんでも、だと……って何考えてんだ、俺は……


「じゃあ……こないだ話してた、気闘法ってのを教えてくれるか?」


 ぴょこっと耳が動く。思いのほか嬉しいらしい。


「お安い御用にゃ。シメオネは毎朝練習してるから、そのついでにアークさみゃのところまでいくにゃ」

「おぉ~有難いね」


 これで気闘法を少しでも使えるようになれば、もう少し戦闘で貢献できるだろう。

 テレポートダガーだけだと、DPSが低すぎて困ってたんだ。


「気闘法の基本は一に練気、二に練気にゃ。毎日、毎時、常に意識するにゃ」

「それはまた、先の長い話になりそうだな」

「コツを掴めば、あとは反復して体で覚えるだけにゃ」

「だといいんだけどよ……あの蹴り技とか、ステップも気闘法なの?」

「あれは、エイジアン・アーツっていう格闘術にゃ。もちろんそれも同時に教えていくにゃ~。ふふぅぅん~~♪」


 小さな先生様が俺の腕を開放すると、鼻歌を交えながら踊るようにステップを踏んでいく。

 黒竜戦で見せていた、低い姿勢で緩急をつけながら大きく揺れ動くアレだ。

 まさに、蜂のように舞っているという表現がぴったりだろう。

 俺とやり合った時は屋根の上だったから、このステップは使えなかったんだな。

 この状態のシメオネに、果たして俺の攻撃が当たるのか……と考えてしまう。

 そう言えば、フェリシモの姉さんもやたら姿勢を低く構えていた。

 キャットテイル特有の動きでもあるのだろうか。

 ……と、まさに俺があの怖い姉さんの冷笑を思い浮かべている時だ。

 唐突に「ドボン」と何か大きなものが海に落ちる音がした。


「……んん?」


 ついで、視界からシメオネの姿がなくなったことに気づく。


「あ……あぁーーーーっ、シメオネっ!!」


 シメオネは狭いデッキから足を踏み外し、そのまま海に転落したようだ。

 どんだけアホなのだ。


「びゃっ……アー……さっ、びゃっ!」

「お前なぁ……」


 俺は呆れながらも、そのドジっ子ぶりに思わず吹き出してしまう。


「おっ……びゃっ……」

「……まさか、泳げないのか!」


 俺はすぐさまテレポートダガーをデッキに放り投げて、そのまま海へと跳び込んだ。


 ……海はあたしらのゴミ箱だからね……という、シェリーさんの嫌な台詞を思い出しながら……




「……ただいま……」


 時間にして夜10時ごろ、俺は無事にシェリーさんとの交渉を終えて碧の月亭にもどってきていた。

 この時間の碧の月亭はまさに喧騒の渦となっていて、一日の中で最も騒がしい。


「あー君?」


 いち早く俺が帰ってきたことに気づいた鈴屋さんが、怪訝な表情を浮かべている。


 ……そうでしょうとも……


 なにせ今の俺は、シメオネを助けるために海に飛び込んでしまい、髪が下におりてしまっている。

 ツンツンヘッジホッグヘアーしか知らない鈴屋さんには、誰この人状態だろう。

 加えて言うなら、全身濡れ鼠の状態だ。


「あー君……えっと、色々と説明してほしいんだけど」


 ……そうでしょうとも……


 なにせ俺の横には、踊り子風の服に着替えたシメオネが立っているのだ。

 しかも髪が少し濡れており、見ようによっては「先にシャワー浴びちゃったにゃ」状態だ。

 加えて言うなら、露出度も相当高い。 


 ……オーライ、俺はこんな時こそ冷静だ……


 こうなることを予想して、ここに来るまでに頭のなかで何度もシュミレーションをしてきたのだ。

 俺は焦ることなくカウンターでホットミルクを頼むと、それを持って2人の待つテーブルへと向かう。

 そしてそれを鈴屋さんの前に置くと、シメオネとともに対面に座った。


「いやぁ、参ったよ。シメオネがさぁ、足を踏み外して海に落っこちたんだ」


 まずは先制で説明をしてしまう。

 誤解の半分は、これで解消できたはずだ。

 鈴屋さんはちらりとハチ子に視線を送ると、マグカップをズズッと引き寄せる。


「……ふぅん……で……シメオネは、なんでそんな格好なのかな?」


 ……次は、踊り子風の格好についてですね。

 まぁ、ほぼ水着じゃん! って言いたくなるような露出度ですしね。

 気になりますよね。


「あぁ、ヒートダガーと猫の爪を無事交換して、その後、シメオネの宿に寄って行ったんだけど」


 ちらりとシメオネに目をやる。

 というよりも露骨に助け舟を求めたのだけども、シメオネはというと、ずっとニコニコしている。


「うぉい、シメオネも説明しろよ」

「んにゃぁ……仕方ないにゃぁ。宿に戻ってにゃ、猫の爪をしまってにゃ、濡れた服を着替える時にひとつ思いついたんだにゃ」

「なにをかな?」

「せっかくだから、これを着てアークさみゃにご奉仕するんだにゃ!」

「…………」


 おぉぅ……鈴屋さんとハチ子さんから、殺気めいたものが感じる。

 天然ってこわい。


「ち、違うからな。シメオネ、ちゃんと話してよ」

「ん~~。説明するより、実践したほうが早いにゃぁ。じゃあ今から、みんなにまとめてお礼をするにゃ!」


 シメオネはそう言うと、紐にくるみ大くらいの鈴が2つ付いた道具を4つを取り出す。

 そして器用に両手首、両足首にそれをくくりつけていった。


「何が始まるのですか、アーク殿」

「ん~~。俺もよくわからないんだが……」

「いいから、始めるにゃ!」


 シメオネがとびきりの笑顔を見せながらウインクをひとつして、カウンターに向かう。

 そして身軽な動きでカウンターの上に飛びのると、その場でさらに大きく飛び上がり「シャン」と鈴の音を大きく鳴らした。


 一瞬にしてその場が、喧騒から静寂へと移り変わる。


 この場にいる客の目は全て、小麦色の肌をした健康的なネコ娘へと向けられている。

 シメオネは目を閉じると、ゆっくりとした動きで両の手を前に差し出し、もう一度「シャン」と鈴を鳴らした。


 そして流れるような動きで、華麗に舞いはじめる。

 指先まで意識された動きは繊細にして流麗で、それでもどこか情熱的な動きだ。

 太陽のような彼女が、この場のすべての空気を飲み込んで強く輝いていく。

 その踊りは、純粋で真っすぐな性格が現れているかの如く澄んで美しいものだった。

 シメオネはリズムを作るように鈴を鳴らしては、しなやかに全身で自身の中にある美を表現していく。

 やがて、それを眺めていた吟遊詩人のひとりがリュートを鳴らし始めた。

 つられるように、さらに他の吟遊詩人の歌声も加わり、酒場のすべてがシメオネを中心に熱を帯びていった。


 これがあの能天気ねこ娘なのかと思ってしまう。


「素晴らしいです……シメオネ……」


 ついには、ハチ子も名前を呼んで感嘆のため息を漏らしていた。


「あー君……すごいね」

「……あぁ……」


 その踊りは、ヒートダガーの報酬として、たしかに対価以上の物だと俺たちは思えていた。

ワイバーン編後日譚であり、怪盗団編の総括でもあります。


ここで終わってもいいんだけど…ゆるふわはどうしたってなりますね。(笑)

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