鈴屋さんとドサマギッ!〈後編〉
ものすごく短い後編になります。
というのも、このあとの話が長くなりそうなので分けることにしました。
さくっとどうぞ。
「シェリーさん、いるかい?」
わざと陽気な声色を使って、店の中に入る。
室内では、顔と同じくらいの大きさをした真っ赤なアフロヘアーのシェリーさんが、巨大な両手持ちのハサミに寄り掛かっていた。
褐色の肌が妙に威圧的に感じ、くわえタバコが不機嫌の様相を呈している。
「いよぅ……色男。こっぴどくやられたって聞いてたけど、存外、元気そうじゃねぇか」
「……アハハ。本当に、こっぴどくやられたよ。俺も、まだまだってことだね」
「まぁ、あたしの得物を守ってくれたことは感謝してんぜ」
目を合わせることもなく、ぷかぁと煙草の煙を吹かしている。
やっぱり、少し怖い。
どう切り出せばいいんだ、これ。
「なんかシェリーさん、機嫌悪い?」
おぉ、とシェリーさんが顔をニヤつかせて、こっちを見る。
「わかるのかい、ロメオ!」
え、ほんとに機嫌悪いの?
ちょっと気持ちが重くなるぞ、それは。
「いや、なんとなくね。どうかしたのか?」
「今日はな。女の子にとって面倒な、あの日ってやつなんだよ」
「……えっと……」
「なんだよ~、わかってんだろ~? そういう日は、彼女も不機嫌だろ?」
無意識に鈴屋さんのほうへと、目を向けてしまう。
そしてそれが良くないことだと瞬時に理解し、猛烈に後悔する。
「わ……私はネカマだからねっ! そういうの、わからないからっ!」
そんなに顔を真赤にして否定されたら、俺まで赤くなっちゃう。
「なに~彼女~。あんたも今日なのかい?」
おいやめろ、ニヤニヤしながら鈴屋さんに、生々しいセクハラをするんじゃない。
「違いますからっ!」
「隠すこともないだろ~。大体そういうのは、ちゃんと相方に言わないとさ。魔力がガクンと落ちたり、酷いと魔法も発動しないんだろ? 侮ってるとパーティの生死に関わるぜ?」
「も、もういいですからっ! ネカマには関係ない話なのっ!」
「そのさっきから言ってる、ネカマネカマってなんだい?」
「あぁ、いや……こっちの話。それよりさ、シェリーさん。ちょっと相談があるんだけどさ」
取り乱す鈴屋さんを落ち着かせるためにも、話を強引に変える。
「あぁ~~っと……とりあえず、落ち着いてな。クールに行こう、クールに」
「一体、何の話をしてんだ?」
「うん、じゃあ……お〜い、シメオネとラスター……入ってこいよ」
俺の呼びかけに応じて、申し訳なさそうなシメオネと、相変わらず澄まし顔のラスターが入ってくる。
次の瞬間、シェリーさんの顔色がみるみると変わり、身を預けていた巨大なハサミを持ち上げて、ダンっと大きく踏み込んできた。
とっさにダガーを2本抜き、両手をクロスしながらシメオネの前に飛び込む。
両方のダガーから黄色い火花が散り、自分がハサミに挟まれているとやっと気づいた。
その速さたるや、ハチ子を彷彿させるものがある。
攻撃への判断の速さも、まさに熟練の傭兵のソレだ。
シメオネは動けずに、顔色も真っ青になっている。
ラスターは、サーベルに手をかけて、鋭い目で俺たちを注視していた。
「く……クールに行こうぜ、シェリーさん。話をする前に、俺の首がおさらばしちまうよ」
「……へい、ロメオ。これは一体全体、どんな冗談だい?」
場の空気が凍る。
一触即発ってやつだ。
なにせシェリーさんの首筋には、ハチ子のシミターが向けられているんだから。
心境的には、ガソリンの上でタバコを吸うようなもんだろう。
「と、とりあえず……これ、収めてくんない? ハチ子さんも、俺は大丈夫だから。シェリーさんは、俺を襲ったりしないから」
「それは、その女が得物を収めるのが先です」
「話は平行線だねえ……どうするよ、ロメオ。私も、腕が疲れてきたよ。間違えて、スッパリいっちまいそうだ」
ハサミに、力が込められていく。
完全に筋力負けしている。
「……はち子さん、ほんとに大丈夫だから」
俺が懇願するように言うと、ハチ子はシミターを構えたまま、一歩一歩後ろに下がる。
「あの、シェリーさん。あー君は本当に、場を取り持とうとしただけなんです。話だけでも聞いてくれませんか?」
シェリーさんは、タバコを大きくぷかぁと吹かせたあと、やれやれとハサミを引いて床に突き刺した。
「えっと……まずは、彼女から話すから。内容は謝罪だからさ、聞いてくれよ」
ほら、とシメオネの背中に手をやり優しく前に押す。
「……あの……この間は、ごめんにゃさい……」
「あぁん?」
びくっと、シメオネの耳が大きく震える。
「……その……盗むのとか……にゃ……金持ち相手にしかしないっていうルールにゃのに……私が勝手にやぶってにゃ……その……ごめんにゃさい……ごめんにゃさい」
そのまま大粒の涙を、ボロボロとこぼし始める。
さすがのシェリーさんも、呆れて大きなため息を漏らした。
「……まぁ……結果的には、盗られちゃいないからねぇ」
「ほんとに、ごめんにゃさい……」
「わぁったわよ、もういいわ。あたしはね、ロメオと組んで、なんか企んでたのかと思ったのよ」
なるほど、だから俺ごと斬ろうと……なんて恐ろしい。
「勘弁してくれよ。そんな、マッチポンプみたいなことするかよ」
「盗みに失敗して、それでも正直に謝りにきたってんなら……まぁ、許すしか無いじゃないか」
そこでもう一度、大きくシメオネが頭を下げる。
「それでね、シェリーさん。彼女、どうしてもあの“猫の爪”って武器が欲しくてね。なにか譲ってもらえる方法がないか……あー君が、聞きたいんだって」
絶妙なアシストです、鈴屋さん。
俺が……ってところがミソだね。
「譲って……つってもなぁ……これに変わる面白い武器があれば、それと交換でってのも、やぶさかじゃないけどさ」
……面白い武器……シェリーさん好みで、仕事に使えるものか……
「……あるぜ、そういうの」
思わず、にやりと笑ってしまう。
たしか昔やったクエストに、面白いものがあったはずだ。
「この店にピッタリの、魔法の武器だ。もし気に入ってくれたら、交換してくれる?」
「……まぁロメオの頼みじゃぁねぇ。ただし、私が気に入るかどうかは別の話だよ?」
「あぁ、とびきり面白いの持ってきてやるぜ」
人差し指を立てて突きつける。
それを見てシェリーさんが、楽しそうに笑った。
「ははっ! いいねぇ。面白いってのは大事なことだよ。いいだろう、持ってきてみな!」
「おぅ、楽しみにしててくれよ!」
よし、とりあえず交渉成立だ。
これだけでも、俺の働きは十分なはずだ。
とりあえず振り返ってみると、一同が無言で俺の顔を見ていた。
なんの当てがあるのか、といった表情だ。
「説明はあとだ。さっさとその武器、取りに行くぜ?」
俺は、不安の色を隠しきれていないシメオネに笑顔でそう言った。
「あー君、あー君」
酒場に向かう途中、鈴屋さんがちょいちょいと俺の袖を引っ張る。
「さっきの話……」
鈴屋さんが長いまつ毛をぱちぱちとしながら、我慢しきれずに聞いてくる。
酒場についたら話すつもりだったけど、後ろをついてくるシメオネも気になっているんだろう。
ちなみに、ハチ子とラスターはそんなに興味がなさそうだ。
「うん、じゃあ話しながら。鈴屋さんさ、初期クエのヒートダガー……覚えてる?」
ん~、と鈴屋さんが可愛らしく唸る。
「……たしか、新規さん救済用の魔法の武器だっけ?」
「そうそう、新規プレイヤー向けの火属性武器。性能が、びっみょうなやつ」
「うん、あったね〜。イベで魔法の武器しか効かない敵が出てきてて、とりあえず新規さんも参加できるようにって、運営が用意した初期クエの報酬だよね」
一瞬思い出話に花が咲くが、他のみんなにはそれこそ何の話だと思っていることだろう。
「あれさ、実は他の使い方があってね。あのヒートダガーを理髪屋にもっていくと、特別な髪型に変えれるっていう裏クエがあったんだよ。で、ついたあだ名がヘアアイロン」
ぴょこんと、鈴屋さんの長い耳が反応する。
「……それ初耳」
「でしょ? みんな、初心者クエだからって手を出さなかったから、あまり知られてないんだ。でさ、最近グレイが、それらしきものを発見して……」
グレイがそれらしき魔法の武器を、遺跡で発見したのは数週間前だ。
最初は炎属性の魔法のダガーだと喜んでいたようだが、いざ使ってみると刀身がちょっと熱いだけで枯れ木を燃やせるほどの温度もなく、ダガー自体も羊皮紙すら裂けないナマクラっぷりで……
まぁそれでも、一応は魔法の品だし金になるだろうと持ち帰ろうとしたようだ。
しかし、そこは流石グレイというべきだろう。
遺跡から出たところで、突如現れたワイバーンに強襲されて、魔法の武器をそのまま持っていかれたらしい。
竜族は光り物が好きで収集癖がある。
ワイバーンも一応は飛竜種だし、理由はきっとそんなところだろう。
「ついでに、そのワイバーンね、討伐依頼が出てるけど、いまだに放置されてるんだ」
「えぇ~。じゃぁ、ワイバーンの巣に行けば……」
「そう。まだ、きっとあるはずだ。それにさ、せっかくハチ子さんとシメオネ達がいるんだ。どさくさに紛れて依頼をこなして、報酬をゲットしちゃわない?」
小声で鈴屋さんに言うと、また耳がぴょこぴょこ動く。
「ぷぷぷ。あー君も、人が悪いですなぁ」
そう言う鈴屋さんも、可愛らしいニシシ顔を見せていた。
かくして俺達は、ワイバーン討伐へと向かうことになったのだ。
次回より、ワイバーン討伐編になります。
珍しく冒険者っぽいことします。




