鈴屋さんとドサマギッ!〈中編〉
さくっと中編です。
さくっと読めますので、ワンドリンク片手にどうぞ。
俺たちは、とりあえずシメオネの案内で、『黒猫の長靴亭』という酒場へ逃げるように移動していた。
いつまでもあの場所にいたら、騒ぎを聞きつけた衛兵に詰め所へと連行されただろう。
これ以上争うつもりなどないわけだし、双方よけいな面倒事は避けたかったのだ。
俺や鈴屋さんにとって、『黒猫の長靴亭』は初めて足を踏み入れる酒場だった。
店内は昼過ぎだというのに、少し薄暗い。
ちらほらいる客を見ると、何となく亜種族が多い印象を受ける。
そう考えるとここは、シメオネやラスターにとって居心地のいい場所なのかもしれない。
「んで、話って?」
横長のテーブルに片肘をつき、あからさまに仏頂面を向けてやる。
ちなみに俺の左に鈴屋さん、右にはハチ子が座っていて、まるで俺を守る仁王像のように睨みを利かせている。
それに対し、向かって右に委縮したシメオネ、左にすまし顔のラスターがいた。
ラスターは冷静なサポート役というイメージなんだが、ここまで一言も言葉を発していない。
「あの……ですにゃぁ……」
シメオネが助けを求めるように、隣へと視線を向ける。
「フェリシモ姉さんは、どうしろと言っていた? 一応、兄として隣にはいるけど、話はシメオネがするはずだろ」
ラスターはいつも通り、どちらの味方なんだと言いたくなるほど、冷めた表情を見せていた。
好戦的でどこか人懐っこく見えるシメオネと、冷静・冷徹なラスター。
……なるほど、この2人を足すとフェリシモが出来上がるような気がしてきた。
「ううぅぅ……あのですにゃぁ。あの武器……猫の爪に関しては、シメオネが勝手に予告状を出してしまって……まぁ……出してしまったものは仕方にゃいと言うか……にゃ……」
「長い。シメオネ、もっと簡潔に」
ラスターの厳しい言葉に、シメオネが一層、委縮してしまう。
スパルタな兄と、凶悪な姉とか……なんか、シメオネに同情してしまいそうだ。
「……悪いのはシメオネでにゃ……本当に、ごめんにゃさぃ」
……んん?
思わず、3人で顔を見合わせてしまう。
「えぇっと……それを言いに来たの?」
「……あのにゃ……それでにゃ……………あの………にゃ…………」
「シメオネ、早く話を進めろ」
……なんだろう……この……頑張って謝ろうとする子供に対し、横から偉そうな態度で入ってくる親みたいな……なんか無性に……
「お前さ、こいつが頑張って、謝って話そうとしてんだからさ。ちょっと、黙ってろよ。聞くのは俺らだ」
ラスターが少し不快そうに睨んでくるが、真っ向から受け止めてやる。
人前で偉そうに身内を怒る奴とか、気に入らないんだよ。
「ほら、シメオネ。聞いてやるから、自分のペースで話してみろよ」
「あ……あの……」
「アークでいいぜ。別に今更、シメオネのことを咎めたりしないからさ。ゆっくり、落ち着いて話してみなよ」
「……あーく様ぁ」
ガラス玉のような大きな瞳が、涙で濡れてキラキラしている。
そんなに涙をためて……どんだけテンパってたんだよ、かわいそうに。
「……なるほど、これがアーク殿の悪い癖ってやつですね」
「ほんと、あー君は今日も平常運転だよね~」
なぜだろう。
いいことを言ったはずなのに、左右の仁王像から突き刺さるようなジト目が向けられてくる。
「あの……猫の爪の持ち主にも謝りたくて……にゃ……その……」
あぁ、なるほど、と把握をする。
「ついてきてほしいと? 別にいいぜ?」
「……にゃぁ……やっぱり、こんな都合のいい話、断られて当然……んにゃ?」
「だから、いいぜって。ていうかさ、お前らだけで行ったら、話をする前にぶっ飛ばされると思うぞ」
「あ……あ……」
シメオネがフルフルと震えて、大粒の涙をこぼす。
「あーく様ぁぁにゃぁぁ~!」
涙を撒き散らしながら、シメオネが軽やかな動きでテーブルを乗り越えて、俺の胸に飛びついてくる。
俺はその勢いに成す術もなく、派手な音を立てて椅子ごと後ろに倒されてしまった。
武闘家らしい鋭いタックルからの、鮮やかなマウントポジションだ。
全盛期のグレイシーを思わせる、流れるような動きだった。
一連の動きが洗練されていて、まさに天性の武闘家というところだろう。
シメオネはそのまま跨るように座ると、俺の胸に頬をすり寄せてくる。
「あぁぁくさにゃぁ!」
ふわふわとした髪の毛が鼻の頭にこすれ、ついで日向の匂いがする。
思っていたよりも成長が著しいご様子で、俺は彼女に対して、色々と考え方を改めなければいけないようだ。
そもそもチャイナ服ってのはスリットが深くて、サンタコスに負けないくらい破壊力があるわけで。
無防備に跨ることにより、あらわになった健康的なおみ足に、自然と目がいってしまった俺をだれが責められよう。
「あー君。今日これが終わったら、とりあえず私の部屋に来てくれるかな。鈴屋は話たいことが、いくつかあります」
「アーク殿、私はそんなアーク殿も魅力的に感じてますよ♪」
ハチ子の言葉は嬉しんだけど、それはそれで鈴屋さんが余計に怒ってしまいますので、ここはひとつ自重してほしい。
俺の寿命が縮むだけである。
「ごめんなさい。みんなまとめて、もう好きにしてください……」
俺はシメオネを引き剥がしながら、項垂れるようにして答えた。
そんなこんなで俺たちは今、列をなしてラット・シーの細い路地を通り抜けていた。
「それでにゃ、あーく様には猫の爪を売ってもらえないか、私と一緒に交渉して欲しいんにゃ♪」
「あぁ、正攻法でいこうってことね。最初から、そうすればよかったのに」
「それを言われると、返す言葉もないにゃぁ~」
頭をかくようにしながら、シメオネが笑う。
明るいシメオネは、まるで太陽のようだ。
一方、対照的なラスターは、陰鬱な月という例えがお似合いだ。
……と、なるとフェリシモは闇そのものといったところか……
いったいどんな家族なのか興味が出るが、フェリシモの冷笑を思い出すと、やはり関わり合いたくない気持ちが強くなる。
とにかく今は、どうやってシェリーさんを説得するかだよな。
「どさくさに紛れて、交渉役までやらされることになってますよ、鈴屋」
「あー君のそういうとこ、だらしないよね」
……聞こえておりますよ、お二方……
「こうなったら、私もアーク様のために、にゃにかしたいにゃ」
「鈴屋、どうやら本物の泥棒猫みたいですよ」
「あー君はそのうち、“奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です”とか、ハチ子さんに言われちゃうのかな?」
……いや、お二方……そんな展開、あるわけないじゃないですか……
「アーク様は今、フリーなのかにゃ?」
「ふりぃ?」
「にゃにゃにゃ……や、やっぱり……今の質問はなしにゃ!」
「変な奴だな」
なぜかまた、背中に視線が突き刺さる。
「おぉ、アーク君じゃないか。こりゃまた、かわいい彼女さん連れてきて……ってキャットテイルっ!?」
この通りを歩いているとよく会う、ワーラット族のジュリーさんだ。
なぜかシメオネの耳が、ぴくぴくと動いている。
「やぁ、ジュリーさん。あぁ、えっと……この娘はキャットテイルには違いないけど、別に害はないから大丈夫だよ。そうだよな?」
「はぃ、シメオネは、大人しい雌猫にゃ!」
ジュリーさんは少し警戒しながらも、そうなのかと納得した様子を見せる。
猫とネズミの関係性が、ここでもあるのだろうか。
「まぁ、あまりここでは、1人でうろうろさせない方がいいぞ?」
「やっぱそうだよね。うん、大丈夫。俺がそばにいるから」
俺が小さく肩をすくめると、気をつけてなと言ってジュリーさんは去って行った。
「そういうことだから。窮鼠猫を噛むって言うしな、とりあえず俺から離れるなよ?」
シメオネは話を聞いていないのか、少しぼ~っとした表情で見上げてくる。
「彼女さんって言われたにゃ……」
耳が反応してた理由はそれかよ!
「鈴屋のこれまでの私への態度……ようやく理解できました」
「ありがとう、ハチ子さん」
なんだかよくわからないけど、お二方が仲良くなったようでよかったですよ、俺は。
しかし背後からのプレッシャーが凄すぎて、とても振り向けない。
「あー君、どうやって説得するつもりなの? シェリーさんを、そう簡単に説得できるなんて思えないけど」
「だよねぇ。一筋縄ではいかないだろうなぁ。なんか交換条件とかか。お金で動く人とは思えないしな」
「……そうにゃのか?」
「あぁ、そんなタイプじゃないと思うな。まぁその時はその時だ。どうせだから、手伝うぜ」
シメオネが、ぱぁっと笑顔を見せる。
ほんとに、喜怒哀楽がはっきりしているな。
その豊かな感情表現を、最後尾のラスターにも移してやりたいぜ。
「あー君、それって私も含まれてるのかな?」
「……え。鈴屋さん、手伝ってくれますん?」
「どうしよっかなぁ~」
鈴屋さんが、わざと意地悪な口調で言ってくる。
手を後ろにしてブーツで何かを蹴るようなアクションがたまらなくかわいくて、もっと頂戴と口走ってしまいそうだ。
「いいにゃ、私とアーク様でなんとかできるにゃ」
シメオネが、ぐいっと腕を絡ませてくる。
「ちょ、あんまくっつくなって」
「これで何度目のドサマギかな。サラマンダーでも呼ぼうかな」
「鈴屋……やはりあれは、泥棒猫の類です。斬りましょう。斬っていいですね? 斬らせてください!」
後ろから、物騒な話が聞こえてくる。
鈴屋さんだけならともかく、エブリディ俺の味方だったハチ子にまで怒りを買っていそうで、少し怖くなってきた。
流石にこれはまずいと、絡みつくシメオネを無理やり剥がす。
「あっ……あーく様ぁ」
「わかったから、離れろって。ほら、もう着くぞ」
俺が顎で路地の先をさす。
そこにはもう、シェリーさんの店が見え始めていた。
「さて、まずは謝罪からだ。さっきみたいのでいいから、がんばるんだぞ」
シメオネの表情が、少し強張っていく。
俺自身も、わずかにテンションが高まってきていた。
あのアフロ姉さんも、相当怖い人だからな……無理もないさ。
「俺と鈴屋さんとで先に入るから、とりあえず外で待ってな」
シメオネがこくこくと頷くのを確認し、鈴屋さんの方に視線を向ける。
「もぅ~仕方ないなぁ……」
水色の髪をかき上げながら、ため息を一つし俺の横に並ぶ。
なんだかんだ言って、助けに入ってくれるんだから有り難い。
「じゃあ、行ってみようか」
鈴屋さんが澄んだ声で「うん」と返事をくれる。
俺はそれに応えるように、意を決してシェリーさんの店に足を踏み入れた。
シメオネは昔、別の小説で出していたキャラで、狙い過ぎた猫語尾が真面目な世界観に合わず次第に登場しなくなった不憫な娘です。
今作でもそうなるかなと思いつつ出してみたのですが、案外しっくりきはじめてます。
…というか…そんなつもりはないのですが、あー君どう見てもハーレムですよね。
おかしいな…そういうのにしないように書くつもりだったのに…
【今回の注釈】
・全盛期のグレイシー……ヒクソンのようなレジェンドがいると総合も楽しいんですけどね
・奴はとんでもないものを~……定番のカリオストロ。「何かっこつけてんの、おっさん」と普通の女子ならドン引きです
・手伝ってくれますん……エウレカセブンでの名セリフ「そんなことありますん」と言えば、否定なのか肯定なのかわからなくなる素敵な表現




