表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/504

鈴屋さんと朝食を!

ウルトラライトにさくっと更新。

通常営業のどうでもいい話です。

さくっとどうぞ。

 朝日が差し込む頃には、俺の左肩により掛かる鈴屋さんも大きく船を漕ぎ始めていた。

 夜通し話したとはいえ、内容は他愛もない思い出話しばかりだ。

 それでもそれは、2人で歩いてきたという確かな足跡であり、2人にとってかけがえのない記憶の共有だった。

 なによりも鈴屋さんが嬉しそうに話している様は、見ているだけで幸せというものだ。


「……あーく……ん」


 ……寝言か?

 鈴屋さんが、ついに俺の膝に頭をのせて、スゥスゥと寝息を立て始める。


「あれほど男に、都合よく紳士を求めてはいけないと言ったのに……」


 俺は苦笑しながら、さらに隙だらけとなった鈴屋さんに毛布をかける。


「もう一度、その太ももを目に焼き付けておきたかったけども」


 わざと声に出して言ってみるが、反応はない。

 やはり、眠っているようだ。

 もし狸寝入りでもしていたら「ハラスメントだよ!」と、可愛らしく突っ込むはずである。

 俺は鈴屋さんの頭を、ゆっくりと枕にのせかえる。


「寒いかな?」


 あんな露出度の高い服だったし……と、なんとなく心配になり、赤マフラーを首元にかけてあげる。

 こんなでも「地形ダメージ無効」の効果は発動するんだから、便利な装備だ。

 とりあえず、寒いってことはないはずだ。


「あ……くん」


 もう一度俺の名前を呼びながら、マフラーをぎゅうと握り抱きよせる。

 少し名残惜しい気もするが、ここは目覚めた時に素敵な朝食でも用意しておいてやろう。

 ポイントは、稼げる時に稼いでおくべきだ。

 俺は碧の月亭から出ていくと、とりあえず南無子の家に向かっていった。





「南無子〜、いるか〜?」


 と言いながら、返事も待たずに扉を開けてズカズカと入っていく。


「きゃぁ! なによ、勝手に入ってくるんじゃないわよ!」


 南無さんは、ちょうどパンを大量に焼いているところだったようだ。

 もはや、完全にパン職人である。


「なにがキャアだ。ただの南無じゃねぇか」


 舌打ちをしながら、がっかりとしてやる。


「あ、あんたねぇ〜、まぢでいい加減に……」

「あ〜はいはい、とりあえずこれな」


 迂闊にも大口を開けてる南無に、丸薬を飛ばす。

 ちなみに今のは「礫放し」という、イマイチ使い道のないスキルだったりする。

 本来は石を相手の目に向けて放つ奇襲技なのだが、まさかこんな使い方があるとはな。


「んぐっ……なっ、なに?」


 筋肉髭坊主が喉元を抑えてうろたえているうちに、みるみると南無子になっていく。

 いつ見ても、その変身過程はアメージングそのものだ。


「ちょっと、アーク!」

「おはよう、南無子。やっぱりそっちのがいいね」

「〜〜〜〜っ! 」


 怒っているのか照れているのか、わからない。

 なんとも、表現しがたい表情だ。


「はぁ~~……まったくあんたは……もういいわ、着替えてくるから待ってて」


 南無子が、だるだるの服を引きずるようにして出ていく。

 それはそれで、大きめのシャツ的な隙があっていいのに。


「なぁ~~、待ってる間にパン作ってていい?」

「いいけど。なに? 食べに来たんじゃないの?」

「ん~~、鈴屋さんに食べさせようと思ってさ」

「ふぅん。あんたさぁ、あれからちゃんと寝た?」


 ……うっ、鋭いな。


「いや、寝てないけど。朝まで、鈴屋さんと話してた」

「目覚めの朝に、パンと珈琲とか……あんた、つくづくベタよねぇ」


 ……え、まぢで?

 もしや、 かっこ悪いのか、これは。


「……まぁいいわ。焼くのはやったげるから、好きな形にこねてなさいよ」


 なんだかんだで、やっぱり南無子は優しい。

 俺はパン生地を鈴の形にし、クッキー生地で装飾を作り込んでいく。

 しばらくして、いつもの絶対南無子が現れた。


「ほんと器用ね、あんた」

「んあぁ〜。ステ振り、器用値も、そこそこ上げてたからね」

「ふぅん……まぁいいけど……」


 何がいいのか、全くわからないんだが……相変わらず、含みを持たせるなぁ。


「俺、焼きあがるまで寝てていい? なんか、今さら眠くなってきた」


 言いながら、ベンチチェアにごろんと寝転がる。


「いいけど……そこで寝るの? ベッド使ってもいいわよ?」


 南無子のベッドに些か興味はあったものの、急激に襲い掛かってくる睡魔に耐えられそうにない。


「ん~~あ~~、大丈夫。俺どこでも寝れる派~。てか、南無子こそ寝てないでしょ? そもそも南無子にお礼も……しな……zzz……」

「話しながら寝るってどうなの……」


 薄れる意識の中で、そんな声が聞こえた気がした。




 ふかふかだ。

 なんだっけ、妙にふかふかだ。


「んん~?」


 ゆっくりと目を開ける。

 俺のベッド……じゃないな。

 枕から僅かに、パンの香りがする。

 だとしたら、南無子のベッドだろう。

 わざわざ運んでくれたとか、優しいねぇ~南無っちは……


「ん……ててっ…」


 体が少し痛む。

 昨日の戦闘が関係しているのか。

 なんか、けっこうがっつり寝込んでしまった気がする。

 とりあえず体を起こすと、するりと首に巻かれていたマフラーが落ちた。


「あれ? これ、たしか……鈴屋さんに……」


 一瞬混乱するが、隣の部屋から鈴屋さんの声が聞こえたので、そういうことかと一人納得する。


「てか、俺の朝のポイントアップキャンペーンがっ!」


 思わず大声を上げて、隣の部屋に駆け込んだ。


「わっ……あー君、寝覚め良すぎ!」

「鈴屋さん、なんでいるの! てか、俺どんだけ寝てたのっ!?」

「軽く3時間ってところね。アーク、あんた昨日の夜、相当血を失ってたのよ? 傷は治しても血はもどらないって、前にも言ったでしょ?」

「そうだよ、あー君。ちゃんと寝ないと〜」

「……鈴屋さん。眠れぬ要因でもあった君がそれを言うの?」


 あぁ、てへぺろコツンしてやがる……サンタコスで……

 ……底なしにかわいいな、サンタコス……

 サンタコスっ!?


「鈴屋さん、その恰好で来たのっ!?」

「ちゃんと、コート羽織ったよ? あー君、独占欲強いんだも~ん♪」


 ……おぅ……女神ですか……俺の性分をよくおわかりで……

 この姿を他の男に見せるのは、もったいないと思うのだ。


「あんたら、そういうのさぁ〜、ほんと他所でやってくんない?」

「鈴パン、ありがとうね♪ あー君」

「ん……まぁ……でも結局寝てしまったので。俺のポイントアップキャンペーンは、夢半ばでしたが……」

「ん~ん、ちゃんとポイント激盛りだよ(ハート)」


 また出た、激盛りっ!

 でも可憐な女の子が、その表現はどうかと思うの。


「……あんたらねぇ、人の話聞いてる?」

「ねぇねぇ、聞いてよ、南無っち。あー君たら昨日の夜、私の太腿と会話してたんだよ? ひどくない?」

「人聞きの悪いことをっ! ちゃんと顔見てたしっ! 俺の頑張りを無に帰すようなこと言わないでっ!」

「……あんたらねぇ……」


 怒り半分、呆れ半分の南無子を尻目に、俺と鈴屋さんは仲睦まじく朝食を楽しんでいた。

【今回の注釈】

・絶対南無子……絶対領域姿の名無子の略

・太腿と会話……実際に聞いた言葉です。その表現にバカウケしました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ