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【原作小説版・完結済】ネカマの鈴屋さん【コミカライズ版・販売中】  作者: Ni:
鈴屋さんと猫耳っ!

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33/546

鈴屋さんと怪盗団!〈後編〉

12/24です。

せっかくですしね、それにのっかってあげないとね…と、頑張って間に合わせました。

ただいま19時です。(笑)

更新は2時間後……かなりギリギリでした。(笑)


いつもよりも文量も多めですので……ホットドリンク片手に……もしくはベッドの中でまったりとどうぞ。

週末の夜を幸せに眠れますように、あー君と鈴屋さんのクリスマスイヴをお贈りします。

 足音を立てずに屋根の上を駆けるシメオネは、さすがキャットテイルといったところだろうか。

 まさか足の裏は、肉球じゃあるまいな。

 もしそうなら、後で存分に愛でてやる。

 柔軟でしなやかなその動きは実に野性味が溢れていて、その一つひとつが並の人間には到底真似できないものだった。

 こいつは直情的に、力でねじ伏せてくるタイプだ。

 超近接戦と言えば、飛び込みの速さとラッシュ攻撃、必殺の一撃が高火力……と、相場が決まっている。

 こういった手合は行動が直線的で予想しやすいんだけど、のせてしまうと理屈の向こう側に行ってしまい手に負えなくなってしまう。

 ペースを握らせないってのが鉄則だ。

 少し後ろからついてくるラスターは、シメオネのサポート役なのだろう。

 いかにも冷静そうで、やり辛い相手に思えた。


「行くにゃ! 爆・裂・四連脚っ!」


 おぉ! いきなり必殺技ですか!

 なんか一瞬劇画タッチになって、背後に荒々しい筆文字が見えた気がする。

 しかし、なんてネタバレな……足技が4回来るのか?

 シメオネは白いチャイナ服風の武闘着をはためかせて、勢いそのままに飛び蹴りを放つ。

 生足そのままで羞恥心がないのかと思ってしまうが、目のやり場に困っているとたちまちやられるという、意外とシャレにならないオマケ付きだ。

 なんか鈴屋さんの手前、違う意味でもやりにくいぞ、ちきしょうめ!

 しかも早いっ!

 俺はたまらず、左へと転がって避ける。

 シメオネは着地と同時に地面を蹴って、そのまま俺の方に飛び、体を反らせながら追撃の回し蹴りへとつなげる。

 なんちゅう動きだ……と、素直に感心しながら、さらに後ろへと転がり、ドンッドンッと迫りくる残り2発の蹴り技も回避していく。


「やるにゃ……でも、これで終わりにゃー!」


 シメオネが、小さな体を弓形に反らして拳を引く。


「爆・裂・気弾にゃーっ!」


 うわ、ぜったい飛び道具だろ、それ!

 たまらずダガーとニンジャ刀をクロスさせて受けようとする……が、拳から放たれた気弾は俺の体に当たる前に弾け飛んだ。


「にゃっ!?」


 あからさまに動揺するシメオネ。

 俺自身も何が起きたのかわからなかったが、その答えはすぐに見つかった。

 どこからともなく現れた、金色の鎧に身を包む騎士姿の女性が大きな盾でそれを防いだのだ。

 その背中とくるぶしには、光の翼が生えている。


「……戦乙女(ヴァルキリー)?」


 つぶやいて、鈴屋さんの方に顔を向ける。


「へへー! あー君、私だってやるでしょ?」


 鈴屋さんが満面の笑みを浮かべて、ピースサインを俺に向ける。

 やだ、あんなにはしゃいじゃって……かわいいんだから、もう!


「精霊の加護か。じゃぁ、召喚元を倒せばいいだけだね」


 ラスターが、サーベルを抜いて駆け出す。


「やっぱりあんたの方が、やっかいだぜ」


 シメオネから距離を取りつつ、ラスターに向けてダガーを投げつける。

 しかしラスターは、サーベルで難なくそれを弾いた。


「君……シメオネの前で、よそ見なんかしていいのかな?」

「お前こそ、俺から目をそらすなよ?」


 俺は赤いマフラーをはためかせながら、ラスターの耳元でそうつぶやいた。


「……っっ!」


 かかかっ、その驚く顔が見たかったぜ。

 お前に投げたダガーは、テレポートダガーだ。


「赤の疾風ぅ!」


 ラスターが驚きながらも、サーベルを反転させて俺の首元に突きつける。

 その判断の速さと、無駄のない剣筋の鋭さに戦慄すら覚えた。

 ……こいつはやばい……セブンと同じ人種だ……

 俺はギリギリでかわしながら、ラスターの腕をニンジャ刀で斬りつける。


「……つぅ!」


 くそ、浅すぎるっ!


「はぁぁーーっ! 飛竜・三・連・脚っ!」


 背後から声が聞こえる。

 だめだ、確認している暇はない!

 ここはヴァルキリーの 祝福の加護(ブレッシング)に期待して、俺は先にラスターを……


「シメオネの攻撃は、わかってても無視できない……そうだろ?」


 ヴァルキリーが背後で攻撃を防ぐ音が聞こえたが、ラスターの言う通り完全に無視などできなかった。

 それほどに、シメオネのプレッシャーは強かった。

 そこに生まれたわずかな隙をついて、ラスターが冷たい眼差しのままサーベルを横に薙ぐ。

 脇腹から肉が斬れる音が聞こえ、熱さとともに痛みが走る。

 しかし俺は、かまわず2人の影に向けてダガーとニンジャ刀を投げつけた。


「術式、影縛りっ!」


 痛みに顔をしかめながら術を発動する。


「にゃっ!?」

「なに、足が!」


 2人が驚くと同時に、一瞬世界が止まった。

 ……来たっ!

 これは「赤影のマフラー」の特殊効果でもある、2回行動だ。

 常に発動しているヘイストのバフ(敏捷値が2倍になる)と違い、こっちは低確率で発動というオマケ性能だが、このオマケこそが「赤影のマフラー」のチートたる所以だろう。

 俺だけが動ける世界の中で、ラスターの腹に飛び膝蹴りを思い切り入れる。


「がっはっ!」


 ラスターが苦悶の表情を浮かべて、口からよだれを垂らしながら体をくの字に曲げる。

 そして何が起きたかわからないだろうまま、がっくりと膝を落とした。


「ラスター兄さまっ!」


 シメオネが駆け寄ろうとするが、足は動かない。


「おい……シメオネだっけか。勝負あったろ? 影を縛られた状態では、足技主体のお前に勝ち目はないぜ?」


 脇腹を抑えながら、降伏勧告をしてみる。

 しかし、シメオネの目は全く死んでいなかった。


「舐めんにゃ!」


 言って、シメオネが気を練りながら両拳を引く。

 気闘法の基本動作、練気だ。

 たしかあの状態で攻撃しても「硬気功」とやらが発動していて、革鎧並みの防御力がつくとか……そんなルールあったよな。


「無駄だって。気弾じゃ、ヴァルキリーの加護は抜けないよ」

「はぁぁぁぁっっ超! 絶! 爆・裂・気弾にゃーっ!」


 シメオネが構わず、特大の気弾を放つ。

 しかしそれも、ヴァルキリーの盾で弾かれてしまった。

 ヴァルブレは、一定ダメージを無効にする完璧な盾だ。

 気弾程度の攻撃じゃ、通るわけがない。


「だから、無駄だって。大人しく降伏し……」


 そこで俺の背後に、新たな殺気が生まれる。

 いつから……いつの間に……そんな言葉が脳裏を横切った。

 しかし振り返る時間もないと感じ、とっさにダガーを構えようとする。


「しょうねぇ~ん、得物は先ほど投げていたぞ~?」


 耳元で艶っぽい声がする。

 完全に背後をとられていた。


「油断をしたなぁ、しょうねぇ~ん」


 死の足音がした。

 命を握られたと、本能が理解する。


「あー君っ!」


 鈴屋さんの感情に反応して、ヴァルキリーが 光の投槍(ジャベリン)を作り出す。


「動くなよ~。私の指が滑って、少年が死ぬぞぅ~?」


 その冷酷な声に、俺は指一本動かせなかった。

 こんなにやばいのが、まだ隠れていたとは……


「フェリシモ大姉さまっ!」

「シメオネ~、お前は油断しすぎぃ~」


 女が後ろから、俺の脇腹に向けて手をまわす。


「さて、しょうねぇ~ん」


 肘までの長さのぴったりとした黒いグローブが、艶めかしい動きで体を這ってくる。

 そして脇腹の傷口を指先でいじくりながら、ぺろりと俺の首筋を舐めた。

 恐ろしさのあまりに、声すら出せなかった。 


「3対2とは、こちらとしても気が引けるのだがぁ~ここは降伏してくれないかねぇ~?」


 ……あぁ……くそっ、ここまでか……

 顔を上げると、心配そうにこちらを見つめている鈴屋さんが見えた。

 どんなに最悪の状態でも、守らなくてはいけない人がそこにいた。


「……とりあえず……あっちの女の子の、身の安全が先だ。それが保証できないってんなら、刺し違えてでも……」

「あー君っ!」

「……ふむぅ~。少年、男だな」


 どこか感心した様子で、俺の首元から女が離れた瞬間……


「ぎゃんっ!」


 と、女の声が悲鳴に変わった。


「大姉さまっ!」


 何なんだ、次から次へと。

 訳が分からん……けど……殺気が離れた!

 俺は転がる様に前方に飛び退き、身体を反転させて状況を確認しようとする。

 最初に見えたのは、真っ黒に波打つ長い髪をした妖艶なキャットテイルの女……おそらくこいつがフェリシモだろう。

 そして、彼女を背後から斬り崩すコート姿の人物……

 あぁ、知ってるとも……そいつは、彼女の仕事着だ……

 コート姿の人物は青い剣筋を残しながら、容赦なくフェリシモを追い詰める。


「なんだ、お前はっ!?」

「通りすがりの犬ですよ、わんわんっ!」


 彼女はアサシンらしい鋭くえげつない追撃でフェリシモを追い詰め、そのまま俺の隣に駆け寄ってくる。


「ハチ子さん!」

「あ……どうも、アーク殿の犬、ハチ子です」


 とぼけた表情が、安心感をくれる。


「……犬ぅ~?」


 フェリシモがダガーを構え直す。

 しかし背中に負った傷が、予想以上に深手なのだろう。

 見るからに、怒りよりも痛みの方が大きそうだ。


「……鼠から物を盗むだけなら、ただの泥棒猫として見逃すんですが。私のアーク殿に傷を負わせたとなると……番犬としては、その喉笛を食いちぎるくらいしておかないと、腹の虫がおさまりませんね」


 ハチ子の目が、完全にアサシンモードだ。

 その気迫にフェリシモとシメオネが押し黙る。


「は、ハチ子さん……穏やかに、お願いだから……」

「アーク殿は、この期に及んで……女に甘すぎです。どうせ、本気は出してなかったのでしょう?」


 ……うっ……よくおわかりで……

 でも、モンスター以外を相手に、殺すような攻撃は俺には無理だ。


「まぁいいでしょう……猫ども、アーク殿に感謝をして去るといい」

「……ふん」


 フェリシモが、うずくまったままのラスターに肩を貸し、シメオネに帰れと顎で命令する。

 やれやれ、かなり冷や冷やしたぜ……


「……またな~しょぅねぇ~ん」


 フェリシモが、意味深な言葉と共に冷たい笑みを浮かべ、闇夜に溶け込んでいく。

 俺はそれを確認すると、へなへなとその場に座り込んでしまった。


「サンキュー、ハチ子さん。まぢで助かったぜ」

「アーク殿……すみません。もっと早く駆けつけていれば……」


 よく言うぜ……ハチ子に救われたのはこれで何度目か……


「あー君っ!」


 鈴屋さんが、血相を変えて駆け寄ってきた。


「すぐに南無っちのところに!」

「いや、こんな時間だし……明日の朝にでも……」

「何言ってるの? 命に係わるんだよっ!?」


 大げさだなぁ、鈴屋さんは……と、言いかけて視界がぼやける。

 ……ありゃ?


「私が宿に運びます。鈴屋は彼女を……」


 そこで俺の意識は、途絶えてしまった。




「こんな夜中に血まみれで運ばれてくるとか、私を闇医者か何かと勘違いしてない?」


 筋骨隆々の禿オヤジが、ため息混じりに言う。

 さすがに、夜中は南無さんなんだな。

 かわいいパジャマが、筋肉でムチムチしてて心底気持ち悪い。


「……それを言うなら闇神官だろ?」


 俺は碧の月亭の自室のベッドに寝かされたまま、かかかっと笑う。


「だれがダークプリーストよ。まったく……戦闘になるなら、最初から私を呼んでよね」

「あぁ、ほんとだな。せめて、パジャマの南無子に介抱されたかったぜ」

「……ほんとに、こいつは」


 おっさん少女が、頭を抱える。


「治療は終わったし……私、もう帰るから。明日は、お礼に何かおごってよね」

「おぅ、必ず!」


 俺が手を挙げて返事をする。

 なんだかんだで、南無子は優しいんだよな。


「……あんたも……アークを助けてくれて、ありがと。でも今日は、もう帰りなさい?」


 南無さんは、壁にもたれかかっているハチ子にそう言うと部屋から出て行った。

 さすがに南無さんだと夜道の心配もしないで済むし、むしろ南無子じゃなくて良かったかもしれない。


「ハチ子さん、ほんとにありがとな」

「いえ……アーク殿を守るのは、私の趣味ですので……」


 有難くて涙が出そうな趣味だよ、それ。


「でも、なんであそこに?」


 いくらなんでも、タイミングが神懸りすぎだろう。

 まぁハチ子らしいと言えばハチ子らしいんだけど……

 ハチ子が、少し考える素振りを見せる。

 やがて隣の部屋にいるであろう鈴屋さんに、大きめの声を出した。


「すずやー。アーク殿に話しても?」


 すると、しばらく間を開けてから壁がドンッと一回叩かれる。

 なんだ、このやり取りは……

 ちなみに鈴屋さんは今、なぜか隣の自室にいるようだ。


「先月、鈴屋に変な洋服を作る依頼を受けまして……それが、ようやく完成したのでお持ちしたのですよ。仕事の合間に製作していたので、約束していた日から遅れてしまい……結果、このような時間になってしまい……」


 なんだ、その変な理由。

 しかもすごい律義だ。


「……にしても、よ。よく俺の場所が分かったよね?」

「犬は犬なりの嗅覚があるのですよ、アーク殿♪(はーと)」


 アサシン特有の情報網か何かなんだろうけど、ハチ子のそれは愛情すら感じてしまう。

 本当にありがたい。


 “……あの~、ハチ子さん……”


 隣から、小さな声が聞こえる。


 “これ……その…………頼んでいたやつと長さが……”


「あぁ。せっかくなので、アーク殿好みの長さにしておきました」


 壁が一度、ドンッっと強く叩かれる。

 あれは、怒ってる時の音だな。

 なんでそんな判別がつくようになってるんだ、俺も……


「アーク殿、ハチ子は仕事続きで眠いのです。本当はこのまま添い寝をしたいのですが……これでおいとまします。くれぐれも、間違いを起こさぬよう」


 ハチ子が意味不明な事を言いながら、深々と頭を下げて窓に向かう。

 間違いを起こすってなんだ。


「あぁ、うん。今日はありがとうな。ハチ子さんにも後でお礼するからさ」

「では、ご褒美はまた2人きりの一献で」


 いつもの穏やかな笑顔を見せて、ハチ子が音もなく窓から飛び降りて出て行った。

 あの人、いつもどこで寝てるんだろう。

 なんとなく、近い場所だと思うんだよな。


「……えっと……鈴屋さん。みんな帰っちゃったけど……」


 しかし返事はない。

 ……さて、俺はどうすればいいのかな?

 ゆっくりと体を起こす。

 あんな戦闘の後じゃ、頭が興奮してしまっていて眠れそうにない。

 夜が明けるまであと数時間。

 まぁ、猫の爪は明日にでも持って行けばいいだろう。

 一応、鈴屋さんが手紙を置いて行ってくれたらしいしな。


「あー君、あー君……」


 いつの間に扉の前に来ていたのか、鈴屋さんが小声で俺の名前を連呼する。


「ん? 鍵空いてるよ?」

「……うん……じゃあ……失礼します……」


 妙にかしこまった台詞のあと、ゆっくりと扉が開かる。

 そして、部屋に入ってくる鈴屋さんに俺は目を奪われた。


 青い月の光に照らされた鈴屋さんは……


 そう……


 真っ赤なサンタの恰好をしていたのだ……


「超ミニだしっ!」


 最悪にも、それだけがピンポイントで声に出てしまった。

 いやでも、超ミニスカートであんなに綺麗な足をあらわにされたら、そこに目が行くってもんでしょ?

 俺は絶対に悪くないはずだ。


「だ、第一声がそれっ!?」


 鈴屋さんは、少しでも太腿を隠そうとスカートを下に引っ張りながら、長い耳の先端まで赤くして抗議してきた。

 死ねる、まじで死ねる。


「ほんとは、もっと長くしたかったもん。これはハチ子さんが勝手に短く……」


 あぁ、さっきの話はそれだったのか。

 今日は色々とグッジョブ過ぎます、ハチ子様。


「んでも……なんで、そんな恰好なの? まるで、モンキーホーテで売ってそうな……えろサンタコスだよ?」

「えろって……もぅ、だからそれはハチ子さんが勝手に!」


 う~~っと、赤くなりながら唸る。

 もはや俺にとって、君の一挙手一投足がかわいすぎてご褒美なんですが。

 やがてため息を一つし、おもむろに話し始める。


「あのね、あー君……覚えてる?」


 ……なにをだろう。

 サンタコスの約束なんかしたっけ?


「……初めてラット・シーに行ってから、今日でちょうど一年なの。あの時の約束……」

「あぁ~~~、もう一年にもなるのか」


 そう考えると早いなぁ……と、感慨深く感じる。

 んで……えっと……約束?


「……来年はプレゼントしようよって……」


 あぁ!

 あぁぁぁ!

 やばっ……これは男として最悪な……


「ご、ごめん、忘れてた……俺、なんも用意してない……」

「ち、違うの!」


 鈴屋さんが、慌てて声を上げる。

 そして、そのままベッドに両手をついて四つん這いになり、顔を寄せてきた。


「そうじゃなくて、責めてるんじゃなくて……」


 鈴屋さん……それ以上近づくと……俺の理性が……トランク一つだけで浪漫飛行へインザスカイですよ……

 そのまま、飛びまわれこのマイはぁと♪になっちゃいますよ!


「あー君はこれ、くれたじゃない?」


 鈴屋さんが顔を右に向けて、鈴の絵が施された髪留めを見せてくる。

 俺が前に作って、プレゼントしたアレだ。


「……いや、でも……それはクリスマスじゃないし」

「違うの、あー君。ただ私は、この機会にお礼がしたくて……でも、どうしていいかわからなくて……」


 ……えっと……


「もしかして、それでその恰好?」


 鈴屋さんが、真っ赤な顔でこくんこくんと頷く。


「こんなことで喜んでもらえるのか、わからないんだけど……南無っちに相談したら、きっと大丈夫だって言うから……」


 おい。

 これで、感動しない男などいるものか。

 愛しく思えないわけ、ないだろうがよ。

 俺は激しい情動に押されて、気が付けば鈴屋さんを抱き寄せてしまっていた。


「あっ……あー君っ?」

「……えとね、鈴屋さん……」

「…………はい」

「あのね、すぐに落ち着かせるから。ここがベッド上で、…鈴屋さんがトビキリやばい恰好をしてて……その恰好ごとクリスマスプレゼントですって言ってきて……ちょっと、俺の理性がおかしくなりそうなので……今、変なことしないように落ち着かせますので……もうしばらくお待ちください」

「……はい」


 深く深呼吸をしながら荒れ狂う情動の波を、凪に向けてなんとか抑え込む。

 そして鈴屋さんの白くて細い両肩に手を置いて、ゆっくりと押し返した。


「あー君、落ち着いた?」

「いや……正直、俺は未だに分水嶺にいるよ。本当のところ、ものすごい正念場ですよ。ロケットにアイラブユーって書いて銀河を突き破って、宇宙を手に入れる勢いですよ」

「なぁに、それ。わけわかんない」


 鈴屋さんが魅力的な格好で……魅惑的なポーズで俺を見上げてくる。

 ……これを我慢しろとか……酷すぎるだろう?

 それでも……

 男を見せろ、俺!


「……鈴屋さん……」

「なぁに、あー君」


 いつもの返事だ。

 なぜか、ほっとする。

 俺がずっと思っていたこと、考えていたことを今伝えねば……と思った。


「俺、何となく感じていたんだけど……君があくまでも“ネカマの鈴屋”さんで……男か女か……好きか嫌いか……その辺を濁して、はっきりと言わないのは、何か話せない理由があるんだよね?」


 しかし鈴屋さんは、何も言わない。

 ただ黙って、俺の言葉の先を待っていた。


「きっと俺よりも色々と知ってて……その上で、信じてって言うのはさ」


 鈴屋さんが、胸を苦しそうに押さえる。

 そんな表情を見せられたら、逆にこっちの心が張り裂けそうだ。


「俺に何かを……察してほしいんだよね……きっと……」

「……うん」


 小さく弱々しい返事をする。

 俺はさらに慎重に、考えながら……頭の中で浮かんでは消えていく言葉を紡いでいった。


「……でね。鈴屋さんは……さ、リアルを……現実での俺達を何よりも大事にしたい……って、考えているのかなって……」

「……うん」

「だから、ここでは鈴屋さんに変なことはしない。まぁ……その……たまぁに、ちょぅ~っとくらい、甘え合うのはいいかなぁ……とか思っていますけれども……」

「……はい」


 鈴屋さんの目元から、わずかに涙が溢れていた。

 俺はそれを指で拭いながら……


「えぇっと…………俺は何を話しているんでしょう?」


 自分で何を伝えたかったのか、わからなくなっていた。

 そこでようやく鈴屋さんが、くすくすと笑いだす。


「あー君、つまり……どういうことなのかな?」

「えっと……この世界では鈴屋さんに何もしない。そういうことをするなら、早くもとの世界に帰って鈴屋さんと会いたいし……でも、その格好は死ぬほど可愛くて嬉しいですし……せっかくだから触れたいし……もう俺の理性がオーバーヒートっす」

「あー君、正直すぎてドン引きだよ~。一年たっても、雰囲気作るの下手すぎだよ」


 完全に笑われている。


「……いやほんと、その恰好は混乱の効果が凄くてですね……なんかもう」

「ふふ。あー君は不器用ですなぁ」


 冷やかすように笑う。

 知らないだろうけど……それすら可愛いんだぜ、君は。


「じゃあ、私から……メリークリスマス、あー君♪」


 不意に、鈴屋さんのあたたかい唇が頬に触れた。

 一瞬で考えていたことが真っ白に飛び、全身が熱くなった。


「す、鈴屋しゃんっ? 俺の話、聞いてましたっ!?」

「クリスマスだからね。これくらいの……ご褒美? プレゼント? はいいかな」


 鈴屋さんは、服よりも真っ赤に頬を染め、はにかんでみせた。

 いいんですかっ!?

 たった今、俺の“紳士的な部分”は銀河の先へ浪漫飛行しちゃいましたよっ!


「こいつは、とびきりやばい拷問ですよ……」

「それはそれで、ひどいよ、あー君」


 可愛らしく唇を尖らせる。


「……じゃあ……あの…………素直に嬉しいです」

「はい、よくできました♪ じゃあ、これからもよろしくね、あー君♪」


 わしゃっと頭を撫で、そのままもたれかかってくる鈴屋さんに、俺は来年こそ元の世界にもどって、鈴屋さんと過ごすことを心に決めたのだった。


いやほんとにギリギリ間に合いました…(遠い目)

よかった…ほんと…。

さ、ケーキ食べよ。


年末年始は旅に出るため執筆できません。

…とか言いつつ、どこかでウルトラライトなのとか書いちゃいそうですが…(笑)

そうですね……一話くらい、どうにかしたいですね。


【今回の注釈】

・これで終わりにゃー……草薙 柴舟の超必殺技「これで終わりじゃー!」より。手軽につながって凶悪コンボでした

・爆・裂・気弾にゃー……飛び道具とにゃーと言えば溝口の空耳技「タイガーバズーガニャ!」です

・ピースサイン……米津 玄師いいですね。NighthawksとViVi、アイネクライネは大好きです

・俺だけが動ける世界の中で……そして時は動き出すの方ではなく、フェイトゼロのダブルアクセルをイメージしています

・モンキーホーテ……ドンドンドン、ドンキー♪ 売り場のワクワク感に反して何も買うものがない不思議な店

・トランク一つだけで浪漫飛行へインザスカイ、そのまま、飛びまわれこのマイはぁと……米米です。今聞いても素晴らしい歌です

・ロケットにアイラブユーって書いて銀河を突き破って、宇宙を手に入れる……ミッシェルガンの「デッドマンズ・ギャラクシー・デイズ」ですごめんなさい。ミッシェルガンの「世界の終わり」と並んで、俺史上、世界一かっこいい曲です


第233部分で紹介されますが、怪盗団のイラストをおいておきます。


挿絵(By みてみん)

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