表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/504

鈴屋さんと怪盗団!〈中編〉

中編になります。

休憩時間にちょうどよい鈴屋さんをどうぞ。

「結局、あー君は屋根の上が落ち着くんだね〜」


 青い月の光に照らされた鈴屋さんが、屋根から通り側へ足を投げ出してパタパタとさせている。

 その緊張感のなさにひとこと物申したいところだったが、どうにも可愛さが勝ってしまっていてなにも言えない。

 俺達はシェリーさんの店の屋根上で、怪盗団とやらを迎え撃つべく陣取っていた。

 ちなみに、シェリーさんは店内担当だ。


「バカと煙は、高いところが好きって言うしね」


 自嘲気味に言ってみる。

 鈴屋さんはそれに対して、小さな口を尖らせながら抗議してきた。


「そういうんじゃないもん。あー君はニンジャだし、なんかいつも、屋根の上で見守ってくれてるってイメージがあるんだもん」

「……なにその、シーサー的な役割。屋根の上で飲んだくれてるの間違いじゃない?」


 思わず苦笑する。

 実際、喧騒が苦手で逃げ込んでるだけだし。

 それでも鈴屋さんは「そんなことないもん」と不満げにしていた。


「しかし、ほんとに来るのかねぇ。わざわざ予告状出すとか……なんか自意識高くて、面倒くさそうな相手だなぁ」

「こういうのって義賊とか~、何らかの信念や美学のある人がよくするよね」

「うわぁ……それ……まさに面倒くさいぜ」

「まぁ、たまにはいいんじゃない?」


 今度は笑顔を見せて、俺の左腕にもたれかかってくる。

 鈴屋さんはここ数日、なぜか機嫌がいい。

 ハチ子が来ないからか……それともほんとに髪型のせい?


 ……というか、なんかもう普通に……それこそハチ子みたいに甘えてくるな……


 もちろん俺は、嬉しあわせなわけだけど。

 いつの間に、こんな関係性になったんだっけか。

 その境界線が曖昧なのは、自然にそうなったってことなのかな。

 もしそうなら、それはそれでいいことだよな……と、俺は思えていた。


「不思議だよね、あー君」


 鈴屋さんが、俺の肩に頭をのせてくる。

 水色の髪がさらりと俺の肩にかかってきて、ほんのり石鹸の香りがした。


「あー君と2人でこうしてるのって、あらためてそう思えるんだ〜」


 同じようなことを考えていたのか、鈴屋さんが顔を向けることもなく穏やかにつぶやいていた。


「あのね、あー君……」

「……ん?」

「私ね、あー君に甘えてばかりでね……このままでいいのかなぁって、よく考えちゃうんだ」

「なんだよ、それ」


 思わず俺が吹き出す。


「だって……私も甘えてばかりじゃなくて、なんか……あー君のためにしなきゃって」


 そんなことを、考えていたのか。

 なんという健気。

 らしくない。

 でも、可愛い。


「ん~。そこはさ、俺の甲斐性が問われるところだからさ。何ていうか、それを示すチャンスなわけで」


 じっと見つめてくる鈴屋さんの視線がなぜか気恥ずかしく、目を合わせないように月を見上げる。


「鈴屋さんはさ……そのチャンスを俺に与えてやってるんだぜー……くらいに思ってればいいんじゃない?」

「なぁに、それ。まるで私が傲慢女みたい」

「……いやいや、それを言うなら“役得”でしょ。鈴屋さんのために、男として何かするチャンスを残しといてくださいってことだよ」


 思わず熱弁を、ふるってしまう。


「……ふぅん……最近のあー君は、イケメンですねぇ~」

「なしてっ!?」


 思い切って恥ずかしい台詞を吐き出したのに、さらりと茶化されてしまい余計に赤面してしまう。


「これ以上、あー君に活躍されても困るかなぁ」


 なぜに困るのか、さっぱり理解できないが……

 結局のところ俺が頑張るとしたら、それは鈴屋さんのためだし、それって当たり前すぎて本当に気にすることないんだけどな。


「気にしすぎだよ。俺がどれほど、鈴屋さんに救われていることか」

「私は、ほんとに何もしてないよ……」


 鈴屋さんが目を細めて、すこし視線を落とす。

 どうして落ち込むんだろう……そんな必要ないのに……

 俺の思いを、なんて言えば伝わるのか言葉を探すが、すぐには見つけられなかった。

 そして、なぜかシェリーさんの言葉が頭によぎる。

 次の瞬間、俺はあろうことか右手で鈴屋さんのあごをくいっと持ち上げて、こちらを向かせてしまっていた。


「……あっ」


 鈴屋さんが驚いて、小さく声を上げる。

 俺は俺で、なぜこのような行動をとったのか自分でも理解できず、そのまま固まってしまっていた。

 ……えっと……どうしよう、なんか簡単に成功してしまった。

 あごクイってもっとこう、拒まれたりとか…掴ませてくれなかったりとか……そういう高難易度のテクニックじゃないの?


「…………」


 静寂の中で、ただただ見つめ合う俺と鈴屋さん。

 ……えっと……どうすればいいの、このあと……

 鈴屋さんはなんで何も言わないの?

 ……どどど……どうしよう……

 そうやって、俺が脳内でわたわたとしているうちに、鈴屋さんがプイとそっぽを向いてしまった。

 もしや俺は、千載一遇のチャンスを逃してしまったのか?

 いやむしろ、変なことをして逆に嫌われた?


「あー君の……馬鹿……」


 うわぁぁ、やっぱり後者か。

 はいっ、俺の馬鹿っ!!


「……あ、あのぅ……鈴屋さん?」


 しかし鈴屋さんは何も言わず、こっちを向いてもくれない。

 シェリーさんの「一番肝心なところで、怖気づくタイプに見えるけどねぇ~」が、頭の中でリピートされる。

 そして自分の不甲斐なさに、がっくりと肩を落とす。

 そこで俺はようやく気づいた。

 ちょうどその視線の先で、でっかい袋を担いだ猫っぽい女が、きょろきょろとしながら店から出てきていたのだ。




「あーく……んむっ」


 鈴屋さんが俺の名前を呼ぼうとしたので、とっさに手で口を覆ってそれを止める。

 猫っぽい女の後からも、小柄の男が1人ついて出てきた。

 男にもやはり猫耳と尻尾がある。

 間違いない、キャットテイルだ。

 俺はそのまま「しーっ」とジェスチャーをして、鈴屋さんの唇を人差し指でおさえる。

 鈴屋さんは顔を赤くしながら何か言いたげにしていたが、まず他に仲間がいないか確認をしたかった。

 そもそも、店内にいるはずのシェリーさんは何をしてるんだ。

 俺は音を立てないように路地に着地し、店内を覗き見る。


「この人はぁ~~」


 俺は思わず、額に手を当てた。

 鏡は回転されていて“猫の爪”だけが、無くなっている。

 肝心なシェリーさんはというと、酒瓶を片手に大口を開けて、ぐうすか寝ていた。

 間抜けな刑事かよ! と、心の中で突っ込みつつ屋根の上に音もなくもどる。


「だめだ、シェリーさんは酔って寝てる。猫の爪も持ってかれてた」

「どうするの?」

「……そうだな。俺が斬り込むから、鈴屋さんは、静かめの精霊魔法でサポートをよろしく」


 時間も時間だしねと付け加えると、鈴屋さんが力強く頷いてみせた。


「距離はあんまり詰めないでね、危ないと思ったら逃げてよ?」

「やだよ、逃げない」


 むっとした目が向けられてくる。

 こうなると、意見を曲げることはないだろう。


「オーケー。じゃあ、せめて距離はとっておいてね」


 俺はやれやれと、逃走を図るキャットテイル2人を見据えながらニンジャ刀を左逆手で構える。


「んじゃぁ、やるか……鈴屋さん」

「やっちゃえ、あー君っ!」


 オーライ、任せとけってんだ。

 こちとら、何もしていなかったわけじゃないんだぜ。


「細工は流々、仕上げを御覧じろってんだ。行くぜ、盗人ども!」


 深呼吸を深く一度すると、俺は小さくつぶやいた。


「トリガー」


 次の瞬間、俺は女のキャットテイルのもとへ転移した。

 俺の右手に、はしっかりと“猫の爪”が入っているであろう大袋が掴まれている。


「んにゃっ!?」


 ベタな猫語尾とかアニメかよ、と思いつつ、俺はそのまま大袋を取り上げると屋根の上へと投げつけた。


「はい、おつかれさん」


 俺はにこやかに笑うと、トリガーを発動させる。

 こんなこともあろうかと、“猫の爪”のグローブ内に、テレポートダガーを突っ込んでおいたのだ。

 リターンではダガーしか戻ってこないけど、トリガーでなら“猫の爪”のもとまで飛べる。

 その仕掛けが功を奏し、あっさりと“猫の爪”を取り戻したわけだ。

 俺はそのまま屋根上から、連続トリガーで鈴屋さんのもとまでもどる。


「さすが、あー君♪(はーと)」


 俺は急いで大袋の中からテレポートダガーを取り出すと、キャットテイルたちの方に目を向けた。

 男女のキャットテイルは、しなやかな動きで屋根の上にのぼると、ゆっくりと距離を詰め始める。


「諦めてくれないみたいだね」


 鈴屋さんが、やたら好戦的な目で言う。

 なんかすごい、やる気満々だ。


「……お前、何者にゃ?」


 小柄な女の方が、睨むようにしながら言う。

 クセの強い金髪で、年齢は14、5歳か…… かなり若いな。


「……只者じゃないにゃ」

「その薄ら寒い……ナントカにゃ……ってぇのは、キャットテイル特有の訛りか何かなの?」


 俺の素朴な疑問に対し、女のほうが露骨に眉を寄せて不快感をあらわにする。


「妹はまだ幼いからね、まだ猫語尾が抜けないのさ」


 代わりに、もう一人の男が答えた。

 こちらも、くせのある金髪だ。

 言葉の通り兄なのだろう。

 18歳くらいで、得物はサーベルだ。


「ふぅん。あんまり、お子様を虐めたくないんだけどな……このまま帰ってくんない?」

「舐めるにゃ……あたしは末妹にゃけど、一番強いにゃ」


 言いながら、すっと構えに入る。

 無手での構えからして、格闘系か。

 たしかキャットテイルは、ゲーム内でも体術スキルが高かった気がする。

 ゲーム通りだと、気闘法でも使えるのか?

 ここでは、まだ見たことないぞ……


「妹の話は嘘じゃないよ。そっちこそ、黙って渡してくれると助かるんだけどね」

「盗人猛々しいな、お前」

「それはこっちの台詞にゃ。それはキャットテイル族に伝わる武闘具“猫の爪”にゃ。返してもらうにゃ!」


 ……うん? どういうこと?


「これ、おまえらの物なの?」


 兄妹が無言のまま、顔を見合わせる。


「いや違うね。金に困った馬鹿が、盗賊ギルドに売ったものさ」

「なんだよ。じゃあやっぱり、お前らの物じゃないじゃん」

「か、関係ないにゃ! 力づくでも返してもらうにゃ!」


 猫娘がダンダンと地団駄をふむ。

 うん、絵に描いたようなお子様だ。

 やっぱり面倒くさい相手だったようだ。


「キャットテイル怪盗団、鉄血のシメオネ、押して通るにゃ!」


 うぉ、通り名つきで名乗った!

 予告状出したの、絶対お前だろっ!


「俺はラスター。気が乗らないけど、兄としては……まぁ、妹一人でやらせるわけにいかないしね」


 なにこれ、名乗る流れなの?

 やめて、恥ずかしい。


「私は鈴屋!」


 えっ、名乗るの? 


「彼は、“赤の疾風”アーク様だよ(はーと)」


 なんですとっ! と、鈴屋さんの方にグリンと顔を向ける。


「ちょ、恥ずかしいからやめてくれる、鈴屋さんっ!」

「だってぇ〜」


 しかも、すごい笑ってるしっ!

 あぁ、くそ、かわいいしっ!


「赤の疾風……相手にとって不足はないにゃ。いざ、尋常に勝負にゃ!」


 シメオネがこぶしを握り、地を蹴った。

 俺はため息をしながら赤いマフラーを口元まで上げて、戦闘のスイッチを無理やり入れた。

【今回の注釈】

・間抜けな刑事……キャッツアイに限らず、銭形を含めそういう役回りのキャラ多いですよね。よく首にならないな、と。戦績だけで見ればシャアとかアムロに一度も勝てなかった無能だったりしますし、グレンラガンでは立ち位置が主人公ライバルであるはずのヴィラルが「お前は勝てないようにできている」と螺旋王に明言されたりと、まあライバルってそういう哀しい存在

・やっちゃえ、あー君……やっちゃえバーサーカーですね。変なスピンオフ認可する暇あったら幻のイリアルートつくってくれやがれ

・鉄血の……オルフェンズはちょっと期待はずれでした

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ