鈴屋さんとハチ子さんと円卓の騎士!
ウルトラライトにお届けします。
閑話休題、箸休めの回です。
夜になると、碧の月亭の賑わいも最高潮になる。
俺と鈴屋さんの専用円卓には、これでもかと豪勢な料理が並べられていた。
ハーピーの卵の報酬だけでなく、ハーピーの討伐もしてしまったので報酬が少し増えて、ささやかな宴となっていたのだ。
俺自身、傷がまだ癒えておらず、痛みも残っていたが、血が足りないせいか食欲はかなりある。
ちなみに南無子は、そろそろ“七方出の丸薬”の効果が切れそうなので、食うだけ食って帰って行った。
そのため、この円卓には俺と鈴屋さんと……なぜかハチ子がいた。
ハチ子は、俺たちが碧の月亭に着いた時にはすでに俺の席に座って待っていたのだ。
俺は仕方なくチャレンジシートに、鈴屋さんは自分の席に……結果、俺の右手に鈴屋さん、左手にハチ子という両手に華の状態にある。
心做しか、妬みの視線も倍増している気がする。
こういう一見してハーレム的なやつ、実際は何も楽しくない。
なにせ、いまだに鈴屋さんとハチ子は、会話をかわしていないのだ。
「さぁ、アーク殿、もう一献~♪」
今日は随分と世話になったし、ハチ子には逆らえないんだよなぁ……
「あー君……怪我治ってないんだから……お酒は駄目じゃないかな?」
……ですよねぇ……俺もそう思うんだけど……ハチ子、わざとだよな、きっとこれ。
なんで鈴屋さんと、バチバチになろうとしているのだろうか。
「今日は、私とアーク殿の活躍を祝った席かと思っていたのですが?」
「……たしかにあー君の活躍は、お祝いしたいけど……」
「あなたは、私にも救われたはずですが?」
「……ま、まぁ、ハチ子さんがほとんど倒したようなもんだし。俺とか、オマケみたいなもんで……」
鈴屋さんがむすぅ~~としながら、ホットミルクをぶくぶくする。
そのアクション、安定のかわいさですね。
「……ありがとう……ございます……」
むっつりしながらも、お礼を言う。
「いえいえ~♪ では、鈴屋も一献いかがですか?」
なぜに、呼び捨てなのだ。
しかも鈴屋さんが未成年で、ホットミルクしか飲まないの知ってて言ってるな。
「じ、じゃあ、いただきま……」
「だぁ、駄目だって、何言ってんのっ!? 鈴屋さんはホットミルクね。それは俺が飲むから!」
言って、鈴屋さんに注がれた酒を強引に取り上げる。
「あらあらぁ、まだお子様でしたか、これは失礼しました。では、お酒は私とアーク殿の2人で楽しみましょう♪」
この人の挑発技術高すぎだよ。
鈴屋さんが敵わないとか、アサシン教団の8位ってすげぇな。
「しかし、アーク殿はお強いですなぁ~♪ かっこよかったですよ~♪ 鈴屋もそうは思いませんか~?」
むぐっと鈴屋さんがたじろぎ、チラッとこっちを見てうつむく。
てか、呼び捨ては怒らないの?
「……か…………こ……かった……」
鈴屋さんが、熟れたりんごの如く顔を真っ赤にして言う。
ほら、これこれ、これだよハチ子さん。
こういうのが可愛いって言うんだよ、学べ、これを!
「でしょぅ、まさに騎士道精神です!」
「いや、おれニンジャだし……」
「差し詰めここは、円卓の騎士ですね♪」
「……いや、だからニンジャだし……円卓の騎士ってそういうんじゃないし……」
駄目だ、全然話を聞いてない。
勝手に一人で盛り上がり始める始末だ。
……てか円卓の騎士も、向こうの世界の話だぞ……
「ねぇ、鈴屋さん、この人……ほんとに酔ったふりなの?」
小声で鈴屋さんに話す。
「もう私にもわからないよ~。あー君、なんとかしてよ」
「なんとかっつったって……」
「……今日は、2人でいたかったよ」
ぬっはぁ……めちゃかわいい……すげぇ破壊力だ……何とかするしかないだろ、これはっ!
「何を2人で、こそこそと話してるのですか? アーク殿。私の話、聞いてましたか?」
「いや、あの……今日はさすがに疲れたので、もうそろそろ寝たいんだけど……」
ハチ子が何を怪しんでいるのか、やおら目を細める。
「約束の、ご褒美はいただけないのですか?」
……ご褒美? と、鈴屋さんが反応する。
うん、そのワードチョイス、気になるよね……凄く同感。
「ハチ子は……そこの鈴屋と違って、アーク殿の犬として凄く頑張ったと思いますよ?」
いちいち鈴屋さんに攻撃してくる。
「じゃあそのご褒美……何をすればいいのさ?」
「……そうですね。後日、2人きりで一献とか……いかがですか?」
鈴屋さんの方を見ると、やはり面白くなさそうにしている。
でも何も言わずに我慢をしているってことは、ハチ子に早いところ借りを返したいのだろう。
「場所がここの屋根の上でいいなら……」
「……本当はアーク殿の部屋が良かったのですが……まぁ、それで手打ちとしましょう」
ハチ子が肩をすくめながら立ち上がる。
足取りもしっかりしているし、やっぱり酔ってないんだな。
「オーケイ、今日は本当に助かったよ。お互い、ゆっくり休もうぜ?」
「了解です、アーク殿。鈴屋も……今日はあまり遅くまでアーク殿に甘えないで、早めに寝かせてあげてくださいね」
ハチ子の最後の爆弾に鈴屋さんが、べ~と小さい舌を出して応戦する。
それがあまりにも可愛くて、俺は死にかけたことなんて忘れてしまいそうだった。




