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【原作小説版・完結済】ネカマの鈴屋さん【コミカライズ版・販売中】  作者: Ni:
鈴屋さんとハチ子さん!

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鈴屋さんとハーピーの卵っ!〈後編〉

後編です。

あー君もがんばりますの回。

いつもより文量多めなので、鈴屋さんも大好きなホットミルクなど片手に、ゆっくりお楽しみいただければ幸いです。

 最初に感じたのは、全身に雷撃が落ちたかのような痛みだった。

 状況を把握するために体を起こそうとするが、思うように動かない。

 仕方なく目だけでも、と瞼を動かす。

 しかしそれも、地面に顔の半分をあずけているのか左目しかあかない。

 そこで、ようやく自分がうつ伏せで寝ているとわかった。

 どうにも手が動かないので足を折って芋虫のようにもがき、何とか両ひざをついて座る。


 ……状況は……どうなったんだ……


 頭上に視線を移す。

 俺が最後に転移し着地し損ねた大木と、幾つもの折れた枝が見えた。

 ……転移しても勢いは殺しきれなかったか……まだ一時間も経ってないよな?


「……リターン……」


 言葉に反応して右手にダガーが戻ってくる……が、うまく握れずに地面に落としてしまった。

 見れば右手の指がパンパンに張れている。

 いや、指だけじゃなく右腕……そして左腕もだ。


「右手の指に……両腕……」


 呼吸をすると、何かが刺さるかのような痛みもある。あばらも折れてるのだろうか。

 仕方なく左手で何とかダガーを回収し、腰の布袋を探る。

 いくつかの丸薬は持ってきているが、やはり変身用と戦闘用しかない。

 激痛に顔を歪めながらもなんとか立ち上がり、崖の際まで歩いてみる。


「足は生きてるな」


 崖を見上げるが、とても声は届きそうにない。

 そうなると、どうやって戻るかだが……この体では登攀も連続トリガーもできそうにない。

 東回りで崖沿いに進んで、もときた山道までもどり再び登るしかなさそうだ。


 ……まぁ、戻りさえすれば南無子に治療してもらえるだろうよ……


 そう考え、よろよろとしながらも崖沿いに歩を進める。

 両腕は糸が切れた人形のごとく、だらりと吊るされている。


「なんかもう、荷物だな……こりゃ。遠目だとゾンビに見えるんじゃないか」

「まさに、ランニングデッドですね」

「お、懐かしいね。俺は第二シーズンまでが好きだぜ」

「何を言っているのですか。ランニングデッドはミチョーンが出てからが至上でしょう!」

「いやいや、あんな漫画キャラ、邪道だろ……って……」


 いつの間にか、隣に並んで歩く小柄な女性にぎょっとする。


「ハチ子さんっ!?」


 ……おいおい。気配なんて感じなかったぞ……


「あっ、どうも。アーク殿の犬、ハチ子です」

「……なんで?」

「ハチ子はアーク殿をつけてまわってますから、ここにいてもおかしくはありません」

「ストーカーかよ!」

「教団の指示ではありませんので、ご安心を。これはただの趣味です」


 任務じゃないってことか。あぁ、だからいつものコートじゃないのね。

 ……って、ストーカーじゃん!


「たまにですよ、たまに。今日も、たまたまです。まさか崖から飛び降りて卵を盗るとか、ものすごいガッツですね。こんな割に合わない仕事をやっているのですか?」

「……いや、これは……本当は崖の上にもどるはずだったんだけど。間違えて、ダミーのダガー投げちまって……」


 ややあって、ハチ子が「あぁっ」と手を打つ。


「ドジっ子属性というやつですね」

「やめてよ、恥ずかしい」


 顔をしかめながら、この謎の状況を考える。

 なんだ……何しに来たんだ、この人。


「痛みますか?」

「両手とあばらが特に……めちゃくちゃいてぇ……正直、呼吸もしたくないレベルだな」


 痛みで気を失いそうだが、寝てもいられない。

 ハチ子がしばらく考える素振りを見せ、やがてポーチから何かの粉を取り出す。


「アサシン教団の痛み止めです。治癒はしませんが、痛みはおさまります。強引な逃走時に役立ちます。必要ですか?」

「……ほしぃ」


 ただ、ハチ子のことだ。何か条件がつきそうな悪寒がする。


「では、口移しで」

「……いらなぃ」

「んなっ!」


 ハチ子が大げさに驚く。

 受け入れるとでも思ったのか、この人。


「なぜですか! 私、そこそこいい女ですよっ!?」

「俺もそう思うけど……自分で言う、それ?」


 言ってて恥ずかしいのだろう。

 顔を真っ赤にしてまで言うくらいなら、やめとけよ、と思う。


「さっき、鈴屋と近いことしてたじゃないですか!」

「お前、そこから見てたのっ!? てか、してないし! マフラー越しだし、しかも頬にだし!」


 ……なにこれ、幸せだったあの瞬間が自分で言ってて、しょっぱく感じてきた……


「仕方ないですね、では口を開けて上を向いてください」


 言う通りに従うと、粉薬と水がぶちこまれる。


「30分もすれば効き始めます。効果は2時間ほどです」

「すまね……たすかるわ」

「……で、どこに向かっているのですか?」

「ん? ……あぁ、上にもどらないと……」


 話してても体が痛む……薬の効きを期待するしかないな。


「鈴屋のところにですか。ハチ子は、先に町の神殿に行くことをお勧めしますが……」

「……じゃぁ、鈴屋さん達に俺が生きてるの知らせてくれる?」

「拒否します」

「……」


 こいつは俺を助けるのか、助けないのかどっちなんだ。


「アーク殿……その動かない両手で単独行動することがどれほど危険かわかっているのですか?」


 ……あぁ、たしかに……


「じゃぁ、俺を守ってくれるの?」

「ご褒美しだいですね」


 “報酬”じゃなく“ご褒美”ってワードチョイスが妙に嫌だ。


「ハチ子さん、この崖どうやって降りてきたの?」

「我々アサシン教団には、イーグルフォールという技術があります。詳細は……教えられません」


 アサシン特有のスキルみたいなものか。


「……もうひとつ。ランニングデッド……どこで見たの? それは完全に向こうの話だぜ?」

「向こう?教えて差し上げてもかまいませんが、それ相応のご褒美を……」

「……ぐっ……じゃあ保留で」

「アーク殿は存外、意気地なしですね」


 ……うるせぃ、ご褒美ってのが怖すぎるんだよ。まぁでも、何か知ってるのは間違いないようだな……

 それからさらに歩を進めると、30分ほどでなんとか山道にもどってきた。


「どうやら、痛みは治まったみたいですね」


 そう言えば、手の痛みがかなりなくなっていた。


「ありがとう……って、なにしてんの。ハチ子さん」

「痛み止めが効いたようなので、肩を貸しています」

「腕を組んでいるようにしか見えないんだけど……しかも折れてるのに」

「歩くのは楽になっているでしょう?」


 ……んまぁ、たしかに……

山道を見上げる。

 あれからすぐに降りてきてくれてたらいいのだが、どうしているのだろうか。


「さっきの場所まで2~3時間ってとこか。降りてきてくれてたら、1時間くらいで鉢合わせそうだけど」

「……アーク殿……」


 凛とした表情のハチ子から、黒く澄んだ眼差しが真っすぐに向けられていた。


「なんですかぃ?」

「なぜ、鈴屋なのですか? 私なんて、なかなか便利だと思いますよ?」

「……何をどう比べればいいのかわからないけど……ハチ子さん、裏がありすぎでしょ」


 ハチ子が眉を寄せて、あからさまに不満げな表情を浮かべる。


「鈴屋には裏がないと?」

「少なくとも、俺に対してはないね」

「……ちょろいですね、アーク殿は……」


 溜息を吐きながら、何を言ってやがるんだ。

 あの人ほど真っ直ぐな人はいないぜ?

 そりゃまぁ……ネカマプレイとかしてたけど……俺には本当に素直な表情を見せてくれるんだ。 

 そんな彼女を失うことなどできない。

 今は一刻も早くもどらないと……




 黙々と登り続けること1時間。

 だらりとぶら下がる両腕がやばい色をしている。

 まじでゾンビだな、これ。


「ハチ子さん、もういいよ。ありがとう」


 健気に支え続けるハチ子に感謝し、離れるように促す。


「ひどい顔色です……」

「もう大丈夫だから。ハチ子さん、本当は何しに来たの? 俺にとって有難いのは間違いないんだけど」

「……アーク殿、一応言っておきますが……あなたは今、そこそこ瀕死ですよ?」

「ですよね~。薬が効いてもまだ痛いし……冷や汗もとまらないし」

「アーク殿は気づかれてませんが、額と背中と……他にもけっこう出血しています」

「あぁ……うん、知ってるよ。さっきの休憩で俺が軽く落ちてた時、こっそり薬塗ってくれてたのも。そういうとこ、優しいよねぇ」

「んなっ!?」


 カカカっと、力なく笑う。


「だから、大丈夫だよ」


 ハチ子は少し戸惑いながらも、スッと一歩後ろにはなれる。

 それでも、それ以上は距離を離さずついてきていた。


「……放っておけるわけないでしょう。立場を入れ替えれば、アーク殿も同じことをしていると思います」

「俺は、もうちょっと助けるぜ?」

「わっ、私も色々と難しい立場なんですよ!」

「冗談だよ。わかってるし、感謝もしてるさ」

「……なら、いいのですが……」


 イニシアティブさえ握らせてもらえれば面白い人だよな。


「時にアーク殿」

「……ん?」

「あそこで戦ってるのは鈴屋では?」


 ……なにを? と山道の先を見るが、それらしき人影が見当たらない。


「いえ、もっと先の……ほらあそこ」


 ハチ子が指さす方向を注視する。

 そしてようやく、遠くで人影が空を飛ぶ生き物と戦っているのを確認できた。


「マジじゃねぇか! よく見えたな」


 言って、駆け出す。


「アーク殿! その体では……」

「のんびり歩いて行けねぇだろ!」


 とは言え、武器も満足にふるえないのは事実だ。

 くそっ、走りながら考えるしかないか!


「本気で走るぞ、ついてこれるか?」

「……ついていく理由もないのですが……そう言われると、イーグルとしての血が騒ぎます」

「上等! ついでに俺のマフラー、ちょいと上げてくんない?」


 ハチ子は怪訝な表情を浮かべながらも、俺のマフラーを鼻先まで上がてくれた。

 有難い。これでマフラーの効果が出るはずだ。


「走術、ナンバ!」


 術名に反応して加速する。

 こういう時、術名だけで発動するのは助かるな。

 景色が、ものすごいスピードで流れていく。


「ハチ子さん、来てるかっ!?」

「……はなされてますが、何とか!」


 すげぇなハチ子、こっちは術式で加速してるってのに本気で感心するぜ。

 視線を山道の先にもどす。

 あれは……たしかに鈴屋さんだ!


「生きてた……よかった……」


 ほんの少しあった不安が解消されるが、問題は山積みだ。

 相手はハーピーのようだ。

 ……残りは2体で……5体は地上に転がっている。

 南無子は……足を怪我したのか? 座り込んだまま動けないでいる。

 鈴屋さんの精霊も見当たらない。

 まぁ、5体も屠ってるんだ。精神力切れだろう。

 しかし魔法が使えなくては、鈴屋さんにハーピー2体を倒す手段はないはずだ。

 ……2体……普段なら楽勝だけど…今の俺だと厳しいな……

 後ろに顔を向け、ハチ子に声をかける。


「ハチ子さん、あれ頼めるか!?」

「……無茶を言いますね、アーク殿。ハーピーならいざ知らず、あれは……」


 いや、ハーピーだろ……と前を向くと、ちょうど鈴屋さんを襲っていたハーピーが巨大な鉤爪で胸を貫かれていた。

 予想外の光景だった。

 ハーピーを襲っているのは鷲の上半身と、ライオンの下半身を持つ巨大な魔獣だ。

 鳥の王と獣の王を併せ持つ凶悪な姿に、恐怖で思考が止まりそうになる。


「あれは、グリフォンです。地上にいれば、なんとかなるかも、ですが……」


 息を切らせながら、ハチ子が追い付いてくる。

 そうこうしているうちに、もう1匹のハーピーも鋭い鉤爪で貫かれてしまった。

 こうなると、残るは鈴屋さんたちだけだ。

 くそっ、考えてる暇がない!


「地上に落とせば、やれるんだな!」


 落とせれば、とハチ子が頷く。


「俺がやる!」

「……しかし、その体では……」

「俺ならやれる!」


 なぜなら、俺には聞こえていたからだ。


「……ん」


 その声は、他のなによりも優先されて俺の耳に届いていた。


「……くん……あー君っ!」


 俺を認識しての言葉じゃない。

 ここにいないはずの俺に、助けを求めているのだ。

 同時に、体の中で熱い何かが弾ける。

 唯一動く左の指先を腰の布袋に突っ込み、赤い丸薬を取り出す。


「これを食わせてくれ、早くっ!」


 ハチ子が言われるがまま、マフラーに手を突っ込んで丸薬を口に入れる。

 効果はすぐに現れた。

 全身に溶けた鉄が駆け巡る、そんな感覚だ。

 ついでに言うと冷静さがどんどん失われていき、過度の興奮状態に陥っていく。


「アーク殿……目が、真っ赤に……」

「狂戦士の丸薬、の、副作用……ダ……気にスンナ、それヨリも、ダガーを、ヌイて……俺にムケテ、投げテくレ!」


 思考が定まらず、言葉を失っていく。

 体の中では、心臓が破裂しそうなほど大きな音を立てて動いていた。


「早くっ!」


 少し躊躇を見せていたハチ子だが、意を決したように俺の腰からダガーを引き抜き、俺に向けて軽く投げる。

 俺はその軌道を見ながら足先で引っ掛けるようにし、グリフォンに対して蹴りつけた。


 どこでもいい……クリティカルしやがれっ!


 弾丸のように跳んだダガーは、グリフォンの左翼に突き刺さった。


「トリガーっ!!!」


 転移した瞬間、右手では握れないのを思い出し、とっさに左手でダガーを握る。


『グェァァアェエェェェェエッ!』


 突然の痛みに、たまらずグリフォンが飛び立とうとする。

 俺はかまわずダガーを抜いて、口でダガーの柄を噛みしめた。

 そしてすかさずグリフォンの首に足をしっかりとクロスさせる。


「……あー君……?」


 視線の先に鈴屋さんがいた。


 驚きの表情……


 わっと涙を流し……


 俺の名前を叫んでいる……


「ナガセタナ……スズヤサンヲ……ナカセダナ!」


 もはや丸薬の効果なのか、本物の怒りなのかはわからなかった。

 頭の中も視界も靄がかかったかのように真っ白になっていた。

 ただ俺は獣のように吠えながら、咥えたダガーで狂ったように首元へ何度も刺していった。

 グリフォンは何度か羽ばたき上昇すると、俺を落とそうと体を激しく振る。

 しかし狂戦士の丸薬の効果は、筋力を大幅に上げることと、しばらく死なないことにある。

 だから、そう簡単には俺を振り落とせないっ!


「ルルルララララララァァッ!!」


 もはや言葉ではない。

 赤い目の狂人が奇声を発しながら執拗に首元へダガーを突き刺すのだから、グリフォンもたまったものではない。

 とにかくこの獣を剥がさねばと、地上に向けて勢いをつけて降下していく。

 自分の身体ごと、地面にたたきつける気なのだろう。

 しかし今の俺の脳みそも、ただの獣だ。

 寸前で飛び降りるとか、そんなことも考えられない状態だ。

 俺とグリフォンはもつれあうように地上にたたきつけられた。

 全身に嫌な音が鳴り響き、派手に転がり落ちながら大の字で倒れる。

 そこで狂戦士の丸薬の効果も切れ、俺はごばっと大量の血を吐き出した。


 狂戦士化すると、しばらく死なない。

 しかしそれは不死身という意味ではない。

 オーバーキルされても死なないだけで、ダメージはちゃんと残っている。

 つまり狂戦士化がとけたら、きっちり死んでしまうのだ。

 ……オーバーキルしたかな……とぼんやり考えてしまう。


「いや……その前に」


 グリフォンが体を起こし、俺に向かって突進をかけてきたのが見えた。


「……はっ、来いよ……そこはもう“置かれてる”ぜ?」


 俺とグリフォンの間には、すでに幾筋もの青い剣線の残像があった。

 それに触れた途端、グリフォンの身体から血しぶきが上がっていく。

 グリフォンは何が起きたかわからず、混乱し、逃げようとする……が、すでに周囲が青い残像で埋められていた。


「……カカカっ……まさに斬撃の鳥かごだな……さすがだぜ、ハチ子さん…」

「お見事です、アーク殿……やはりあなたは凄い」


 ……いやいやいや、凄いのはハチ子さんだよ。やっぱり俺より強いぜあんた、と口をパクパクとする。

 どうやら血が喉に詰まって声が出ないようだ。

 ……呼吸を……しな……い……と……


「アーク殿!」


 ハチ子が駆け寄ってくる。

 ……助けられっぱなしだな……

 俺は力なく笑顔を見せ、そのまま気を失ってしまった。





 ……う~ん……あたたかい……

 どうしたっけ……俺……

 死んだんだっけ………?

 あぁ……じゃあ、やっと色々終わったのかな……

 帰れるのかな……

 それとも死にもどったりしてな……

 ……いや、駄目だろソレ、鈴屋さんが……


「……鈴屋さん?」


 無意識でつぶやいていた。

 生きてる……のか、俺。


「……あー君」


 うん、と目を開ける。

 どうやら鈴屋さんに抱き起されていたようだ。

 柔らかな感触が心地いい。


「俺、生きてる……んだよね?」


 鈴屋さんが、何も言わずに抱きしめてきた。

 その表情は見えないが、わずかに震えている。


「大丈夫だよ。鈴屋さんを泣かせた奴はもう退治したぜ?」


 それでも、耳元で小さい嗚咽が聞こえていた。


「鈴屋さん?」


 ……なんで泣くの?

 ……あぁ……

 ……あぁ、そうか……

 最初から泣かせてたのは……俺だったのか……

 なんだ……悪いの、俺じゃん……


「アーク、ほんとにあんたって……いきなり崖から落ちるわ。死んだのかと思ったら、助けに現れるわ」

「カカカ……気分はゾンビだぜ……」


 南無子が呆れたような、それでいてほっとしたような笑顔を見せていた。


「とりあえず、やばそうな内臓と骨折は治したけど……切り傷は治してないから早くもどりましょ。ほっとけば、傷が残るかもしれないわ」

「さすがだぜ、南無子。痛みがなくなったと思ったら、そういうことか。あ、南無子の足は大丈夫なのか?」

「私の心配してる場合? 大丈夫、治したから。アーク、あんたの傷を治したって失った血までは戻らないからね。無理はしないでよ」

「ありがとよ。命の恩人だぜ、南無子は」

「それはあんたでしょ。ほんとにもう……」


 そんなに呆れるなよ。なんか安心して泣いちゃいそうじゃないか。


「……あ……ハチ子さんは?」

「あぁ、なんか役目は終わったからとかで帰ったわよ。褒美がどうとか言ってたけど……」


 ご褒美……まぁ断れないよな、ここまでしてくれたんだから。

 ……にしても……


「鈴屋さん?」


 ちっともはなしてくれない。もう泣いてないようだけど……


「あの、鈴屋さん……いい匂いだし……柔らかいし……幸せなんですが……ほんとにもう大丈夫だから」

「死んだと思ったんだから……崖から落ちて……こんなのたすかるわけないし……死んだと思ったんだから……」

「うん……実際ほんとにギリギリだった……って俺の惨状は見たんだよな」


 苦笑する。

 両腕真っ青で腫れ上がり、指もあらぬ方向に折れていたのだ。

 全身泥と血だらけで、あげくグリフォンにもえらい傷を負わされていたはずだ。

 見てて気持ち悪かっただろうなぁ。


「……ほんとに、どうしていいかわからなくて……とにかく崖を降りようってなって……そしたらハーピーとグリフォンに襲われて……」


 そっか、不安だったろうな。


「名前を……もう駄目だと思って、名前を呼んだの」


 うん、聞こえたよ。


「そしたら、ぼろぼろのあー君が急に現れて……いつもみたいに助けてくれて……」

「かなり泥臭い戦い方だったけどね」

「……そしたら、あー君が……もっとぼろぼろになっちゃって……せっかく生きてたのに、また死んじゃうって……」


 俺はマフラーをさげて、鈴屋さんの頭を右手で抱き寄せた。


「馬鹿だな。死ぬわけないじゃん。あんな最強のお守りもらったんだから。ほら、効果覿面だったろ?」

「……馬鹿だよ……」

「なら、幸せな部類の馬鹿だろうよ」


 カカカと笑う。


「あ、そうだ! ほら……これ見てよ」


 俺が腰の袋から、おもむろに白い卵を取り出す。


「うそ……アーク……あんた、何者なの?」

「すげぇだろ、ここまで割らなかったんだぜ? これで依頼も完了、ハーピーとグリフォンも退治したし……今日はついてるぜ」


 この悪運たるや、完全に女神の祝福を受けているレベルだ。


「本当に馬鹿だよ、あー君……」


 ぎゅーっと締め付けてくる鈴屋さんに、俺は照れ隠しも含めてもう一度カカカっと笑って見せた。

【今回の注釈】

・ランニングデッド……ウォーキングデッドですごめんなさい。何年も共にした登場人物があっさりと死ぬ油断ならないドラマ

・ミチョーン……同作品に出てくるミショーンという黒人女性。日本刀でゾンビ無双し続けていて、作品中ひときわ異彩を放っている、ある意味違う世界の住人

・ドジっ子属性……監獄学園の横山みつ子のピタゴラドジっ子ぶりが最もやりすぎで凄まじい

・イーグルフォール……アサシンクリードの代名詞でもあるイーグルダイブですごめんなさい。ゲーム、映画でも使用していて、どんなに高所から飛び降りても、落下先に藁さえあれば無傷で着地という無茶苦茶な技。動画もありそうなので見てみてください。ゲームでもあの落下感は爽快です

・狂戦士……狂戦士と言えば怒りの精霊ヒューリーにとりつかれたロードス島戦記のオルソンですかね

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