鈴屋さんとハーピーの卵っ!〈前編〉
※けっこう修正しました。すみません。
URLN、ネカマの鈴屋さんです。
気軽な量で、前編後編でございます。
ワンドリンク推奨でお楽しみください。
「この世界で死んだらどうなるのかな」
俺の唐突な問いに、鈴屋さんと南無子が固まる。
「……な、なんだよ」
「あんたねぇ。こんなところで、そんな不吉なこと言う?」
……う~ん、こんなところだからこそ、ふと思ったわけで……
俺たちはいま、切り立った崖の上にいる。
こんな危険な場所に来たのは他でもない。
鈴屋さんが受けてきた“崖の中腹にあるハーピーの卵を取る”という依頼をクリアするためだ。
ハーピーは半人半鳥の魔獣で、見た目は女性の姿をした鳥という男の子にはなんとも戦りづらい相手だ。
とは言え、言葉も話せないし肉食だし、何なら人も食う。
ちなみにハーピーの卵料理は、いま貴族の間で大変流行っているようで、碧の月亭でもちょくちょくこの依頼が舞い込んでくるのだ。そしてこの依頼の報酬額が中々においしい。
普通はハーピーの居ない隙にロープを垂らして巣から奪うのだが、俺の場合はテレポートダガーでサクッと強奪だ。
やってることはあまり気分のいいものではないが、世の中弱肉強食よ。一応、魔獣は駆除対象だしな。
危険があるとすれば、やはりここが崖で、落ちたらひとたまりもない所だということ。
あとはもしハーピーが戻ってきたら、こんな危険な場所で戦わなくてはいけないということだろう。
「だってさ、もともとゲーム内で死んで、あの墓に来ちゃったわけだし。死んだら元の世界にもどれるとか、あの墓に死に戻りするとか、さ……いかにもありそうじゃない?」
「あー君が言いたいのは、リープものってことかな?」
「そうそう、元の世界にってのはともかくさ……リープってのはよくあるじゃん。セーブ地点方式とか、並行世界線移動方式とか、世界の分岐ツリー方式とかさ」
「アークさぁ……それはゲームの話じゃない……」
「いや、ここだってもともとはゲームでしょ?」
真剣に考え始めると、どうしてこうなったのか本当に謎過ぎてちょっと怖いものがある。
「だとしても、よ。それを試す術がないでしょうが」
「……そうなんだよなぁ。試すなら自分でしか……」
「ちょ、ちょっと、アーク!」
南無子に「馬鹿なこと考えんじゃないわよ」と、強く腕を握られる。
「……あー君。そういうの、冗談でも言ってほしくない……かな」
鈴屋さんまで、随分と真剣な眼差しをむけてきた。
「……い、いや、いくらなんでも、そんなん試すわけないじゃん」
2人とも、妙に真に受けてるのが不思議に感じる。
「まぁ……もし、さ。俺が死んで、元の世界に帰る手段が見つからなそうならさ。このまま、この世界で2人で協力してうまく生きてくれよってのは、たまに考えるよ」
「なにそれ……あー君、怒るよ?」
「いや、万が一の話だよ。死ぬ気なんかさらさらないし、鈴屋さんの守り手として死ぬわけにはいかないのはわかってるから!」
しかし、鈴屋さんの目は据わったままだ。
一方の南無子は、呆れてるといった感じだ。
実のところもしそうなったら、俺は南無子を当てにしてるんだぜ。
「アークのバカがバカな話するから、変な空気になっちゃったじゃない」
「すまね。でも、この場合の鈴屋さんのお怒りは俺的には嬉しいものだったりして……」
「私はちっとも嬉しくないからね?」
……ちょっと本気で怒ってるな、これ……
「うん……ありがとう」
「お礼を言われる意味もわかんないし」
俺が見当違いな答えばかりだしているせいか、鈴屋さんの怒りがビシビシと伝わってくる。
「あのね、あー君」
「……はい」
「あー君が死んだら、私は後を追うからそのつもりでいてね」
「えぇっ……? 何言ってんの、鈴屋さん。そんなの駄目だよ」
「じゃあ、死なないで」
スッパリと言い切られる。
俺が死んだら鈴屋さんも死ぬとか……
「なんかそれ、不安で戦いづらい」
いよいよ本気で、南無子が呆れはてる。
「……うわぁ。アーク、あんたって……」
「ね、南無っち。この人、私の言った通りでしょ?」
何の話だろうか……2人してどえらいジト目を向けてくる。
「……ま、まぁまぁ。とりあえず卵とってくるから……」
話をはぐらかしながら崖の下を覗く。巣と卵は割と近い場所に見えていた。
「ハーピーもいないね」
深呼吸をひとつし、ダガーを抜いて跳び込む準備をする。
「あー君、気をつけてね」
あんな話の後だからか妙に心配そうにしてくれていて、なんだかとてもかわいい。
そのせいか、俺は妙に血迷った事を口走ってしまった。
「あのぅ〜、行ってらっしゃいの……チュー……的なのとか……だめっすかね?」
うわぁ、とドン引きする南無子の顔を見て、なにを言ってるんだ俺はと、猛烈に後悔の波が押し寄せてくる。
しかし、今さら出した言葉は飲み込めない。
さぞや鈴屋さんも呆れて……いや、軽蔑の眼差しを向けてきていることだろう。
「……あー君」
俺は顔を見るのも怖くて、苦しい言い訳しか生まれてこなかった。
「あ、あのですね……お守り的な意味も込めてですね……なんか、つい口走ってしまいまして……ほんと、調子に乗ってました。ごめんなさい」
すると、鈴屋さんが俺のマフラーをくいっと上げた。
何を、と顔を上に向けた瞬間、鈴屋さんがマフラー越しで俺の頬に唇を押し当ててくる。
一瞬なにが起きたのか理解できず、脳内で時が止まったかのようにフリーズしてしまった。
「……お……お……おおぉぉ……」
「マフラー越しまでだからね」
「おぉ……おぉ……お……俺は死にたくないと、心から思えたっ!」
「あー君、大げさだよ」
何を言う、どこが大げさなものか。
もはや2人のラブラブ度に、顔を真っ赤にして放心している南無子など眼中にない。
「うぉぉぉぉぉおお!」
「ちょっと、あー君恥ずかしいよ……」
顔を真っ赤にする鈴屋さんに、俺の脳内アドレナリンも大洪水だ。
「やる気出た! 鈴屋しゃん、行ってくりゅ!」
俺はそう言っておかしなテンションのまま勢いよく崖から飛び降りた。
猛烈な加速で赤いマフラーがバタバタと暴れる。
あぁ、ちきしょう、幸せすぎるだろ。
卵とか、さっと取って、さっと帰るぜ。
みるみると近づくハーピーの巣を冷静にロックオンする。
そしてゆっくりと巣に向けて手を伸ばし、すれ違いざまにスリのスキルでタイミングよく卵をひとつ頂戴した。
よしっと、俺は身体をひねるように反転させ、崖の上に向けてダガーを投げつける。
そして、ダガーが崖の縁に刺さったのを確認し「トリガー」と叫んだ。
……余裕の帰還……いつも通りの流れだった。
ところが、一向に転移されない。
「な……なんで?」
慌ててもう一度叫ぶが、崖の上どころかどんどんと落下していく。
パニックになると終わりだ、と必死で原因を探る。
「……あっ、まさか……」
腰を探ってもう一本のダガーを取り出す。
こっちがテレポートダガーか!
じゃあさっきのはダミーの……やっちまった!
「やべぇ……」
もはやここから崖の上までは投げられない……眼下には森林地帯がぐんぐんと迫ってきていた。
脳裏に今しがた聞いたばかりの鈴屋さんの言葉がよぎっていた。
……後追いなんてさせられない、どうにかして生き延びて、しかも無事を知らせないと!
「くそっ!」
俺はイチかバチかでダガーを構え、森林に突入したと同時に適当な方向に投げ転移した。
あわよくば木に着地できるのではと思ったのだ。
しかしそこからの記憶はバキバキバキっと枝が折れる音と、激しく体を何度も打ち付ける感触だけしかなく、俺はあえなく昏倒してしまった。
後編もお楽しみに。
【今回の注釈】
・セーブ地点方式とか、並行世界線移動方式とか、世界の分岐ツリー方式……リゼロ、シュタゲ、ユーノですごめんさい
・行ってくりゅ!……このすばのダクネスですごめんなさい




