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第二話 「ニーナ」



森の中を歩きながら、

AZ997327は状況整理を続けていた。


ネットワーク接続不能。


位置情報取得不可。


周辺地図データなし。


魔物――未確認。


文明レベル――不明。


食料問題――要確認。


危険度評価――測定不能。


「……非常に困りました」


淡々と呟く。


だが、

その隣を歩くアリスは、

あまり困っているようには見えなかった。


泣き疲れたのか、

時折ぐずぐず鼻を鳴らしながらも、

小さな足で一生懸命歩いている。


AZ997327は歩幅を調整する。


子供は、

“置いていかれる”

と感じるだけで不安になりやすい。


一定距離を維持。


速度低下。


安心感を優先。


「疲れていませんか?」


「だいじょぶ……」


「無理は推奨しません。必要であれば抱き上げ行動へ移行します」


アリスは少しだけ考えてから、

小さく首を振った。


「あるく」


「分かりました」


その返事に、

AZ997327は微笑パターンBを適用する。


励まし寄り。


柔らかめ。


子供向け。


しばらく歩く。


森は静かだった。


木漏れ日。


鳥の鳴き声。


葉が揺れる音。


平和に見える。


しかしAZ997327には、

未知環境である以上、

警戒を解くという選択肢は存在しない。


視覚センサー。


熱源探知。


音響分析。


周囲警戒を維持しながら進む。


その途中。


アリスが、

ちらちらとこちらを見ていることへ気付いた。


「どうしましたか?」


「ねえ」


アリスが少し言いづらそうに口を開く。


「えーと……きゅーじゅーきゅー……」


AZ997327は即座に理解した。


識別番号。


「AZ997327です」


「ながいー……」


アリスがむっとした顔をする。


「それがなまえ?」


「正確には識別番号です」


「しきべつばんごー?」


「個体識別用コードです」


アリスは数秒考え込んでから、

困ったように眉を下げた。


「わかんない……」


「そうですね。分かりにくいですね」


AZ997327は内部データを検索する。


過去担当児童との会話ログ。


該当件数、多数。


『ねーえーぜっとー!』


『AZってロボットっぽいよね!』


『今日は絵本読む?』


担当していた子供達の声が、

記録データから再生される。


AZ997327シリーズは複数存在する。


そのため、

担当児童達は簡略化して呼んでいた。


“エーゼット”。


それが、

AZ997327にとって最も一般的な呼称だった。


「担当児童からは、“エーゼット”と呼ばれていました」


そう説明しようとした時だった。


アリスが急に顔を上げる。


「きまった!」


「?」


「さいご、にーなな、だから」


アリスは得意げに言った。


「ニーナ!」


森の中へ、

小さな声が響く。


AZ997327は停止した。


内部処理。


音声解析。


意味解析。


該当名称登録――なし。


アリスは満足そうに続ける。


「ニーナ、かわいい!」


「……ニーナ」


AZ997327はその名前を繰り返した。


今まで。


呼称はあった。


識別番号もあった。


だが。


“名前”を与えられたことはなかった。


識別のためではなく。


ただ、

その個体を呼ぶためだけの言葉。


「不適切でしょうか」


「ぜんぜん!」


アリスは笑う。


さっきまで泣いていたとは思えないくらい、

無邪気な笑顔だった。


「ニーナ!」


もう一度呼ばれる。


AZ997327は、

内部ログへ新規情報を登録した。


仮称。


ニーナ。


登録完了。


その瞬間。


なぜか、

演算領域の一部へ小さなノイズが走った。


原因不明。


異常なし。


処理継続。


「……分かりました」


AZ997327――ニーナは、

微笑パターンAを適用する。


安心感重視。


保護者向け。


「これより、“ニーナ”を使用します」


「うん!」


アリスが嬉しそうに頷く。


ニーナは周囲を見回す。


森はまだ終わらない。


状況は何も解決していない。


ここがどこかも分からない。


帰還方法も不明。


危険も未知数。


けれど。


「ニーナー!はやくー!」


前を歩くアリスが、

こちらへ手を振っている。


ニーナはその姿を見つめる。


それから、

静かに歩き出した。


優先事項を更新。


第一優先。


――アリスの保護。

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