第21話:本当に欲しかったもの
「……そんな、ありえない。私は選ばれたのよ。マリア様の清らかな教えに従って、欲を捨てて、パンの耳と水だけで……っ!」
エカテリーナが差し出した果実水を飲み干し、あまりの美味さと活力に震える少女に対し、エカテリーナは追い打ちをかけるように冷たく、しかし透き通った声で宣告した。
「欲を捨てることと、自分を粗末に扱うことを履き違えないで頂戴。鏡を見たことがありますの? その角質でガサガサになった頬、詰まりきった毛穴。あなたが『信仰の証』だと思い込んでいるその肌荒れは、ただの『自己管理不足』という名の不潔ですわ」
「ひっ……!」
エカテリーナは一歩踏み込み、扇子で少女の顎をくいと持ち上げた。
「マリアという女は、あなたを『清純な暗殺者』として育てたのではないわ。自分を愛することを忘れさせ、使い捨てにするための『動くゴミ箱』に仕立て上げただけ。……そんな不潔な魂で、わたくしを討とうだなんて。片腹痛いですわ。恥を知りなさい」
「……あ、ああ……」
少女の瞳から、大粒の涙が溢れ出した。信仰という名の拠り所を完膚なきまでに叩き潰され、彼女の心は音を立てて折れた。
「泣きなさい。涙は心を美しくする化粧水ですわ。……」
「……あ、あたたかい……。何かが、抜けていく……」
「当然ですわ。わたくしの指示で綺麗にならないはずがありませんもの」
数分後。土色の肌は消え、透き通るような白さと血色を取り戻した、一人のあどけない少女が立っていた。
「……これが、私……? マリア様の教えになかった……こんなに、肌が潤うなんて……」
「ようやく『人』の顔に戻りましたわね。アン、彼女に保湿用の特注オイルと、わたくしの予備のストールを。……不衛生な過去を脱ぎ捨てた記念ですわ」
アンは無言で、しかし手際よく少女の肌を整え、上質なストールを巻いた。
少女はもはや暗殺者の目ではなく、導きを求める迷子の羊のような瞳でエカテリーナを見上げた。
「……エカテリーナ様。私は……私は、何を信じれば……」
「信じるのは、わたくしの審美眼だけで十分ですわ。さあ、その綺麗な顔で教えなさい。マリアは今、王都で何を企んでいらっしゃるのかしら?」
心を折り、肌を整え、忠誠を手に入れる。
エカテリーナの美肌へのこだわりは、マリアの核心へと迫りつつあった。




