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EP 9

「ニャングルの経済封鎖マネーゲーム

「アカンで姫はん。そんなもん、そのへんにポイッと出したら」

窓枠にヒョイと飛び乗り、ニャングルが呆れたように煙管きせるを叩いた。

「ニャングル! お前、見てたのか!」

「ええ、バッチリと。加藤の兄さん、あんたホンマに歩く『特異点』でんなぁ」

ニャングルは黄金の算盤をチャラチャラと鳴らしながら、床に鎮座する純金100キロを見下ろした。

「えっと……これじゃ足りないですか?」

ルナ姫が不安そうに見上げてくる。

「足りる足りんの話やありまへん。こんなもん市場に流したら、ポポロ村の物価が崩壊ハイパーインフレして、パン一個が金貨一万枚になりますわ。それに、純金の匂いを嗅ぎつけて、明日にはルナミス帝国の軍隊が『保護』と称して村を制圧しに来まっせ」

「なっ!? じゃ、じゃあどうすりゃいいんだよ!」

俺は頭を抱えた。

ただAmazonで肉とマイクを買っただけなのに、なぜ国家滅亡の危機に直面しなければならないのか。

「しゃーないなぁ。ウチの商会で、この純金『塩漬け(極秘保管)』にしときましょか。その代わり、通販の代金と、毎月の兄さんのローン(金貨100枚)、ウチが立て替えときますわ」

「ほ、本当か!? 助かる!」

「商人は持ちつ持たれつ、でっせ。ほな、この金塊は回収させてもらいまっさ」

ニャングルがパチンと指を鳴らすと、屈強なドワーフの作業員たちがどこからともなく現れ、あっという間に純金を運び出していった。

これで安心だ。さすがは地元の商人、頼りになる。

俺は胸を撫で下ろした。

――だが、俺は致命的に勘違いをしていた。

ニャングルはただの「地元の親切な商人」などではない。三国を股にかける、守銭奴の極悪フィクサーなのだ。

 ◇ ◇ ◇

――その日の午後。ポポロ村・裏の顔。

「……というわけで、例のルナミス帝国の徴税官のバックにおる『大黒屋商会』、丸ごと買収ハイジャックしましたわ」

ニャングルが、執事リバロンに書類をペラリと渡した。

「ご苦労様です。あの純金100キロを『絶対的な担保』として見せびらかし、ドワーフの地下銀行から無尽蔵の資金を引き出したのですね?」

「ええ。圧倒的な資金力で、大黒屋商会の株を買い占めて完全に乗っ取りました。ルナミス帝国の物流ルート、一つウチら(ポポロ村)のモンでっせ」

ニャングルはニヤァと笑う。

エルフの姫が落とした純金は、市場に流せば毒だが、裏社会で見せレバレッジとして使えば、国家の経済を裏から支配する最強の武器となる。

「これでポポロ村の財源は安泰です。キャルル様と……あの加藤様という男、まったく底が知れませんね」

リバロンは、綺麗に淹れた紅茶を飲みながら薄く笑った。

「あの男の出す『マイホーム』とやら。あれは地球の概念を具現化した絶対防壁。そして、無自覚にエルフの王族を飼い慣らし、無限の資金源まで確保するとは……。やはり、私が仕えるに足る『リヴァイアサン(怪物)』のようですね」

彼らは完全に加藤を「すべてを計算して暗躍する恐るべき黒幕」だと勘違いしていた。

 ◇ ◇ ◇

同じ頃。

三大国(ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国)の首脳陣のもとには、一本の恐るべき報告が上がっていた。

『――緊急事態! 緩衝地帯ポポロ村にて、謎の巨大経済圏が誕生!』

『ルナミス帝国の商会が一つ、一瞬にして飲み込まれました!』

『村の中心には、いかなる魔法も通じない『未知の素材』でできた白亜の城(5LDK)が出現! 時空を超えて物資を召喚する模様!』

『獣人族の天才剣士と、世界樹の次期女王を人質(居候)に取っているとの情報あり!』

「何者だ、そのポポロ村の支配者は……!」

「触れるな! 今はうかつに手を出せば、国家が丸ごと買収されるぞ!」

各国の諜報機関が青ざめ、ポポロ村に対する「警戒レベル」を最大まで引き上げていた。

世界は今、加藤真守という謎の男を中心に、静かに狂い始めていたのである。

 ◇ ◇ ◇

「おーい、届いたぞー!」

そんな世界の緊張など露知らず。

俺の家の庭では、Amazonの『お急ぎ便』(なぜか空間の裂け目から段ボールが落ちてきた)で届いた荷物を開封し、歓声が上がっていた。

「わぁぁっ! お肉です! 霜降りの、最高級和牛ですよぉぉ!」

「フハハハ! オレ様が完璧なサイズに切り分けてやるぜ!」

「キャルルちゃん! この甘彩あまいろ人参、すっごく甘くて美味しいです!」

「ダーリン! 私、この新しいマイクで歌いますぅ!」

最新の音響セットを手にしたリーザが、満面の笑みでマイクを握る。

俺は、イグニス(竜人)が庭で起こした火で和牛を焼きながら、冷えたビールをあおった。

「色々あったけど……まぁ、マイホームさえあれば、なんとかなるか」

俺の35年ローン異世界生活は、どうやらまだまだ続くらしい。

世界最強の勘違いスローライフは、こうして幕を開けたのだった。

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