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第五章『天魔窟とマイホーム~地下室のヤクザと究極の害虫駆除~』

「男のロマン(地下室)と基礎工事」

「……うるさい。あまりにもうるさすぎる」

俺の愛するマイホーム、そのリビングの惨状を見つめながら、俺――加藤真守(25歳・35年ローン)は深く、深くため息をついた。

先日の「ポポロ村・特別代理戦争」とやらで、我が家の家庭菜園(プレミアム・甘熟プチトマト)とフェンスは無残に破壊された。しかし、リバロンが容赦なく両国に叩きつけた『器物損壊および精神的苦痛に対する賠償金請求書』により、俺の口座には驚くほどの額の金貨が振り込まれていた。

おかげでフェンスは元通りになり、トマトの苗も新調できた。

金銭的には何の問題もない。ないのだが……。

「五円! 五円! 御縁をちょーだいっ! ハイ! ハイ! スパチャよろしくぅぅぅっ!!」

リビングの大型テレビからは、リーザが歌うドケチアイドルソング『絶対無敵スパチャアイドル伝説!!』が、重低音スピーカーの振動と共に大音量で鳴り響いている。その前では、芋ジャージ姿のリーザが「これが次世代のダンスですぅ!」と激しいステップを踏み、ふかふかのソファをボコボコと凹ませていた。

「おい、リーザ! 音量を下げろ! あとソファの上で跳ねるな、スプリングが痛むだろ!」

「ええい、マモル! 静かにするでござる! 集中力が乱れる!」

今度はコタツの席から、コンビニ制服姿の佐須賀良樹がハーモニカを吹きながら文句を言ってきた。その横では、巨大なトカゲ(中身は始祖竜)のロードが、面倒くさそうに尻尾で良樹の牛丼の空きどんぶりを片付けている。

さらに部屋の隅では。

「あ、マモルさん。お部屋の空気が少し淀んでいる気がしたので、リフレッシュしておきましたね~」

天然エルフのルナが、悪意ゼロの完璧な笑顔で杖を振るっていた。

彼女が放った自然魔法により、フローリングの隙間からニョキニョキと見たこともない巨木(マイナスイオン発生植物)が生え出し、俺がこだわって選んだ天井のクロスをじわじわと圧迫し始めている。

「……キャルル。村長、お前からもこいつらに何か言ってくれ……」

「あはは……。まぁまぁ、みんな元気でいいじゃないですか、マモルさん」

キャルルは明後日の方向を向きながら、人参柄のハンカチを器用に縫い進めていた。駄目だ、このウサギ耳も完全に実家(我が家)のような安心感に浸りきっている。

この家に、俺が一人で静かにチャージ(お昼寝)できるプライベートな空間は、もう一平方センチメートルも残されていなかった。

「……こうなったら、あれをやるしかない」

俺はジャージのポケットから、ユニークスキル『マイホーム』の管理画面(スマホ型端末)を取り出した。

男のロマン。それは、誰にも邪魔されない隠れ家。

映画を大音量で観ても、合気道の型を一人で静かに繰り返しても、誰の耳にも届かない防音のユートピア。

「地下室(シェルター兼シアタールーム)を、DIYで作ってやる」

幸い、俺のスキルを使えば、一般家庭の建築で使う範囲の道具――ショベル、ツルハシ、電動ノコギリ、果ては小型の家庭用掘削機ミニユンボやコンクリートミキサーまで、すべて「ガレージの私物」として無限に呼び出すことができる。

俺は無言でリビングを立ち去り、ガレージへと向かった。

 ◇ ◇ ◇

数時間後。我が家の庭の隅。

「ふんぬッ!!」

俺は一心不乱に地面を掘り進めていた。合気道で鍛えた体幹と、マイホームへの執念が、俺の肉体をプロの土木作業員並みの速度で動かしていた。

すでにガレージの地下から斜めに穴を掘り進め、深さは地下数メートルに達している。

上空からの視線を遮るため、スキルの簡易テントで覆いをした空間の中、俺は呼び出したツルハシを力強く振り下ろした。

「よし、この深さなら防音性はバッチリだ。あとは床面を綺麗にならして、コンクリートで基礎を打てば、俺だけの『地下秘密基地』が――」

カンッ。

乾いた軽い音が響き、手元に妙な感触が伝わった。

ツルハシの先端が、土とは違う『何か』に当たったのだ。

「ん? 石でも埋まってるのか?」

俺はショベルに持ち替え、周囲の土をザクザクと退けていく。

すると、暗がりの中に、妙にツヤツヤとした『漆黒の岩盤』が姿を現した。

「なんだこれ。大理石か? いや、なんか……異様に禍々しい模様が刻まれてるような……」

その岩盤の表面には、まるでアミメアリの巣のような、不気味で精密な幾何学模様の「溝」が走っていた。しかも、その溝の奥からは、紫色の微かな光(魔力)がホタルのように明滅している。

地球の土壌では絶対にありえない、明らかに『異世界アナスタシア』のヤバいエネルギーを放つ超硬度の未知の岩石。

「チッ、面倒だな。我が家の敷地内に、こんな邪魔な粗大ゴミが埋まってるとは」

一刻も早く地下室を完成させたい俺は、再びツルハシを両手で強く握りしめた。

そして、その岩盤の中心に向けて、闘気とも魔力ともつかない『王帝』を扱う時のような力任せのフルパワーを込め、思い切りツルハシを叩きつけた。

「どけえぇぇぇぇぇッ!!!」

ガキィィィィィィィィンッ!!!!

火花が激しく飛び散り、鼓膜を震わせる金属音が地下に響き渡る。

俺の超人的な怪力によって放たれた一撃は、その漆黒の岩盤のド真ん中に――メキメキメキ、とクモの巣状の『巨大な亀裂』を作り出した。

「よし、割れたな!」

俺は満足げに汗を拭った。

しかし、俺はまだ知る由もなかった。

俺が「邪魔な庭の岩盤」だと思って力任せにヒビを入れたそれが……。

大陸の三大国が数百年もの間、決して近づいてはならないと恐れ、数多の凶悪な機械虫たちを封じ込めてきた最凶最悪の神話級ダンジョン――『天魔窟てんまくつ』の、頑強な天井(大封印)そのものであったということを。

「……ん? なんか今、床下から『ギギギ……』って虫の羽音みたいなのが聞こえなかったか?」

暗い穴の底で、俺は首を傾げた。

マイホームの床下に忍び寄る「最悪の害虫」たちの気配に、俺の小市民としての防衛本能が、静かに警戒レベルを上げ始めていた。

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