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EP 10

「日常への帰還と、跳ね上がった請求書」

翌朝。

ポポロ村の広場は、爽やかな朝日と、小鳥のさえずりに包まれていた。

「……信じられん。本当に、村に傷一つついていないとは……」

ルナミス帝国の視察団(完全武装)が、震える声で呟いた。

彼らの足元には、ドロドロに溶けた鋼鉄の虫の残骸と、空っぽになった『A・S・JET(殺虫剤)』の缶が山のように転がっている。

昨夜、この地で死蟲王の一万の軍勢が壊滅した。

それも、たった一夜にして。しかも、住人たちに一切の被害を出さずに。

「おい、見ろ……あの森を」

視察団の一人が、声を引きつらせて指を差す。

ポポロ村の奥、広大な森が『不自然に真っ二つに消滅』し、山脈まで続く巨大なクレバス(地割れ)が形成されていた。

「あ、あれがポポロ村の主、加藤真守の力……! 神話の悪魔を一掃し、地形すら書き換えるほどの超絶魔導……ッ! あの村は、もはや我々が手を出して良い領域ではない!」

この日を境に、三大国(ルナミス、レオンハート、アバロン)のトップは「ポポロ村への不可侵」を絶対のルールとして共有することになる。

ポポロ村は、名実ともに大陸最恐の『魔境』として認定されたのだった。

 ◇ ◇ ◇

「よし、皿洗いコンプリートっす! 善行ポイント1ポイント、ゲット!」

そんな世界の緊張など微塵も感じさせない、俺のマイホームのキッチン。

後輩の佐須賀が、ピロリン♪ と謎の電子音を響かせながらガッツポーズをした。

「……すまない、佐須賀殿。私がもっと早く泡を洗い流していれば、貴方の手を煩わせることもなかったものを……」

その横で、ピンク色のフリルエプロン(ルナ姫の趣味)を着けた大男が、申し訳なさそうに頭を下げていた。

昨日、俺のプチトマトを踏み潰し、王龍波で彼方まで吹き飛んだはずの魔人ギアンである。

彼は佐須賀のカツ丼に完全に胃袋と心を掴まれ、今は佐須賀の『善行ポイント稼ぎ』のサポート役(洗い物アシスタント)として、我が家に再就職していた。

「いやぁ、ギアンさんのおかげで効率上がりましたよ! これでまたカツ丼出せます!」

「おお……あの黄金の霊薬を再び……! 私、風呂掃除でも何でもやります!」

魔王軍の幹部が、ただの便利な家事代行スタッフと化している。

もうツッコむ気力もない。

「加藤様。おはようございます」

そこへ、執事のリバロンと商人のニャングルが、リビングへ顔を出した。

「昨夜の三国との防衛委託および『A・S・JET』の独占契約、無事に締結いたしました。我が村の金庫には、現在『金貨十万枚』が収められております。これも全て、加藤様の深謀遠慮のおかげ」

ニャングルがジャラッ! と黄金の算盤を弾き、リバロンが恭しく一礼する。

「お、おう……ご苦労だったな(殺虫剤売っただけで10億円って、エグすぎだろ……)」

まぁ、何はともあれ平和が一番だ。

ルナ姫が庭に魔法で新しい花壇(トマトの苗付き)を作ってくれたし、キャルルとイグニスは朝から元気に庭で素振りをしている。リーザもテレビを見ながら「スパチャの歌」を口ずさんでいる。

よし。これで今月のローンも問題なく払えそうだし、スローライフを満喫――。

ピロン♪

ズボンのポケットで、スマホが鳴った。

嫌な予感がしつつ画面を見ると、案の定、駄女神ルチアナからのメッセージだった。

『件名:今月のご請求額確定のお知らせ♡』

『お疲れー! ローン引き落とし完了したわよ! でもアンタ、今月ちょっと地球の通信使いすぎじゃない? 請求額が大変なことになってるわよ! ほら、明細!』

添付された明細を見た瞬間、俺の目玉が飛び出そうになった。

【Amazon(殺虫剤代):金貨3枚】

【地球オンラインゲーム課金(ルートボックス・ガチャ1万連):金貨500枚】

【FPS用・限定アサルトライフル・スキン(虹色):金貨200枚】

合計請求額:金貨803枚(+35年ローン元本)

「……はぁぁぁぁぁぁッ!?」

俺の絶叫が、マイホーム中に響き渡った。

「誰だァァァッ! 俺のWi-Fiで勝手に地球のソシャゲに重課金したやつはァァァッ!!」

俺がリビングの奥を振り返ると――そこには。

クーラーがキンキンに効いた部屋の中。

大型の有機ELモニターの前に陣取り、コントローラーを握りしめた二人の男の姿があった。

全身漆黒の特殊部隊員、鮫島とニコラスである。

「オーウ、シット! またノーマルスキン(外れ)デス! ユーゴ、次の10ワンタイムを!」

「待てニコラス。俺の戦術マニュアルによれば、ここは深夜の確率アップ時間を狙うべきだ。……ボス、すまないが『クレカ決済』の暗証番号をもう一度――」

「お前らかァァァァァッ!!」

俺は護身用の三節棍『王帝』を引き抜き、容赦なく二人の元SWAT隊員の脳天に振り下ろした。

「ギャアアアッ!?」

「ジーザスッ!!」

死蟲の一万の軍勢よりも、俺の口座残高へのダメージの方が遥かに深刻だった。

「ふふっ、マモルの家は毎日賑やかだな!」

「ダーリン! 私もそのガチャっていうの、回してみたいですぅ!」

キャルルとリーザの呑気な声が、リビングに響き渡る。

魔王軍の幹部をエプロン姿でこき使い、元SWATの凄腕部隊員がソシャゲのガチャで破産する。

そして、そのすべての中心で、マイホームパパ(独身・25歳)が頭を抱える。

こうして。

三国のパワーバランスを裏から完全に支配してしまった『ポポロ村』の、最強で最悪な勘違いスローライフは、今日も元気に(請求書の束と共に)続いていくのだった。

【第2章 完】

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