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第二章『凄腕SWATはリビングで堕落し、死蟲の軍勢は殺虫剤で滅ぶ』

「給料日前のハードボイルド」

ガチャリ。

重厚な金属音が、俺のマイホームの玄関(仮修繕中)に響いた。

規則正しく、一切の無駄がない足音が二つ、リビングへと近づいてくる。

「まいど! 加藤の兄さん、今日は頼もしい『自警団の助っ人』を連れてきやしたで!」

ゴルド商会のニャングルが、煙管きせるを吹きながら入ってくる。

その後ろに続く二人の男を見た瞬間――リビングの空気が、一瞬にして凍りついた。

「……ッ!? イグニス、前に出ろ! ただの戦士じゃない……『死』をまとっている!」

「応ッ! オレ様の後ろに隠れてな、キャルル!」

ポテトチップスを食べていたキャルルが両手のトンファーを構え、イグニスが巨大な両手斧を引き抜く。

無理もない。俺も思わず、護身用の三節棍『王帝』を握りしめてしまった。

そこに立っていたのは、どう見てもこのファンタジー世界には不釣り合いな、ガチガチの現代兵士だったからだ。

漆黒のタクティカルスーツに、分厚い防弾バリスティックシールド。

一人の手には最新鋭のアサルトライフル(SCAR-H)、もう一人の白人の男は凶悪な散弾銃(ベネリM4)を構えている。

ケブラーヘルメットの奥から覗く双眸は、いかなる感情も交えない、冷酷なプロフェッショナルのそれだった。

間違いなく、修羅場(地獄)をくぐり抜けてきた本物の『殺し屋』の目だ。

「おい、ニャングル。なんだよこいつら……」

俺が冷や汗を流しながら尋ねる。

先頭に立つ日系人らしき男が、ゆっくりとヘルメットを脱いだ。

精悍な顔つき。引き締まった顎のライン。

男は、鋭い眼光で俺を真っ直ぐに見据え――。

ドサァッ。

そのまま膝から崩れ落ち、完璧なフォームで『土下座』をした。

「……頼む。塩を振った白飯と……煙草を、恵んでくれ」

「オーウ、ブラザー……。プリーズ、ギブミー、メシ……」

後ろの白人の男も、ショットガンを放り出して土下座に加わった。

「は?」

張り詰めていた殺気が、風船が割れたように消え去った。

グゥゥゥゥゥ~~~~……。

二人の屈強な特殊部隊員の腹から、雷鳴のような飢えの音が響き渡る。

「……ニャングル。こいつら、何?」

「へぇ。人材ギルドで拾ってきた、異世界出身の訳あり傭兵コンビでっせ。腕は確かやから、ポポロ村の防衛として月給40金貨で雇ったんやけど……」

ニャングルが呆れたようにため息をつく。

「この二人、ルチアナっていうアコギな武器商人から、弾薬と煙草を直接買うてるらしくて。その弾代がアホみたいに高くて、給料日前はいつもこんな感じでホームレスしとるんですわ」

ルチアナ。

その名前を聞いて、俺の脳裏に『コタツで芋ジャージ姿でビールを飲む駄女神』の顔がフラッシュバックした。

『月人君のスパチャ代稼がなきゃ!』

あいつ、俺に35年ローンを押し付けただけじゃ飽き足らず、こいつらにも地球の武器を高値で売りつけて搾取してやがるのか……!

 ◇ ◇ ◇

「……ほら、食え。ただの塩むすびと、即席の豚汁だけど」

数分後。

我が家のダイニングテーブルに、二人の重武装の男が大人しく並んで座っていた。

「……感謝する」

鮫島さめじまと名乗った男は、分厚いタクティカルグローブを外し、震える手で塩むすびを持ち上げた。

そして、大きく口を開け、ガブリと噛み付く。

「…………ッ」

サクッ、と海苔が破れ、温かい白米の湯気が立ち上る。

絶妙な塩加減が、米の甘みを極限まで引き立てている。

豚汁の濃厚な味噌の香りと、豚肉の脂が、彼らの空っぽの胃袋に染み渡っていく。

鮫島の鋭い目が、みるみるうちに潤み始めた。

「美味い……。なんだこれは。俺がロス市警(LAPD)時代にチャイナタウンで食った、どんな高級料理より……五臓六腑に染み渡る……っ」

「ユーゴ……ディスイズ、ジャパニーズ・ソウル・フード……。ミー、泣きそうデース……」

ニコラスという白人の男も、豚汁を啜りながらボロボロと大粒の涙をこぼしている。

「あー、喉詰まらせるなよ。麦茶飲むか?」

「すまない、ボス……。命の恩人だ」

鮫島はあっという間に特大の塩むすびを五つ平らげると、ふぅ、と深く息を吐き出した。

そして、どこか遠くを見るような、ハードボイルドな瞳で俺を見た。

「ボス。食後に……『赤いヤツ』はないか?」

「赤いヤツ……? ああ、これか?」

俺は、Amazon(異世界版)の買い出しのついでに、何となく買っておいたカートン箱から、『マールボロ・レッド(赤マル)』の箱を一つ取り出した。

鮫島の目が、獲物を見つけた鷹のように見開かれる。

「……ニコラス。火を」

「イエッサー」

鮫島が震える手で一本の赤マルを口にくわえ、ニコラスがジッポライターで火をつける。

ジリッ、と葉が燃える音。

鮫島は肺の奥深くまで煙を吸い込み――天井を見上げて、ゆっくりと紫煙を吐き出した。

「……最高だ。俺たちはこの一服のために、地獄を這いずり回っているのかもしれないな」

そして鮫島は、自分が吸ったその一本の煙草を、隣のニコラスへと無言で手渡した。

「サンキュー、ユーゴ……。スゥゥーッ……ハァァ。クソッタレな異世界も、悪くない気分だぜ……」

「いや、金貨40枚も貰ってんなら自分たちで1箱ずつ買えよ!! なんで1本のタバコを回し吸いして、戦友ともとの絆みたいなエモい空気出してんだよ!!」

俺のツッコミが、リビングに空しく響き渡る。

「……気に入ったぜ、ボス。俺のSCAR-Hは、今日からあんたのマイホームを守る盾となる。……ところで、夕飯のメニューはなんだ?」

鮫島がコーヒーキャンディを舐めながら、真顔で尋ねてくる。

どうやら我が家に、またしても厄介で燃費の悪い『ダメ大人』の居候が増えてしまったらしい。

平和なスローライフ(35年ローン)は、日に日に騒がしさを増していくのだった。

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