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果てなき旅の、その果てで。  作者: 甘い卵焼き
第四章 闇夜に輝く白い星
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第47話『小さいこと』

2本投稿します。1本目です。

「……っぐぁあ……」


 筋肉痛だ。一週間ろくに動いてなかったな……。

 いきなりのあの激しい運動。行き帰りの登山、森道。

 そりゃこうなるかぁ……。


 俺が自室を出るとき、隣の部屋の住人と出くわした。


「……お、おはよう、シロ」

「……」


 返事は返ってこない。つまりいつも通り。

 あのシロから返事が返ってくれば、それもそれで違和感があるだろう。そのレベルだ。

 リビングへと入っていくシロの後ろ姿を、立ち止まって見つめる。


 ……重なる。

 昨日の夜、外で街灯に照らされたシロの後ろ姿。

 その時ほど威圧感、のようなものは消えたような気もするが、朝一番という理由もあるんだろうか。

 実はシロは朝に弱く、目覚めたばかりであればしおらしい美少女になったり……。

 いや、ないな。それはない。


「……今日朝飯当番か」


 キッチンの壁に張られた当番割り当てを見て気づく。

 俺の起きる時間は毎日、さほど変わらない。日課のランニングがあるからだ。

 当番の日はそのランニングを無くし、料理に励んでいる。


「よろしく」


 ――返事がない。どうやら俺は壁に向かってしゃべりかけたらしい。

 ……白い壁に同化するシロの髪を見て、そう思うことにした。


「何作ろうか」

 

 食事当番が二人である時点で、その両者の協力は欠かせない。

 二人で別々の料理を思い浮かべていればどうなる?

 酷ければ、具材はアップルパイのカレー。そんな素敵な料理が爆誕するかもしれない。

 それだって実際やってみれば美味しいかもしれないが。


(シロからの返事はナシ……か)


 どうしたものか。

 俺が顎に手を当てて考えていると、隣の彼女は至極当然のように口を開いた。


「そうね……あなたには目玉焼きを頼もうかしら」

「……え、ごめん。もう一回」


 あまりに予想しない出来事。

 俺の耳は聞く準備ができてなかった。

 耳の穴が閉じていたなんてことは起きていないが、脳が働いていなかったのだ。


「……目玉焼き。先週一度作ったわよね。あなた」

「つ、作ったけど……。そっか、目玉焼きね。りょーかい」


 意外な一面……。そう言わざるを得ない。

 どういうところが意外なのかと聞かれれば、言語化はできない。俺はシロを知らなすぎる。

 ただ、真剣な顔つきで料理に取り組むシロの横顔に、なんとなくそう思ったのだ。


ーーーーーーーーーー

「……そっちか」


 誰にも聞かれない大きさで、そう呟いた。

 シロの真剣な料理に取り組む姿勢、それを見たのはすぐ先程の出来事だ。

 料理の出来上がりに期待し、胸を膨らませていたのもそれと同時刻。

 そうして出来上がった料理を見て、俺は笑みを浮かべた。


 主食は雑穀入りの粥。

 たんぱく質たっぷりと評判の魔物の干し肉に、目玉焼き。

 味付けのあっさりした根菜と葉野菜のスープ。そして……なんだこの飲み物?


 見た目は決していいとは言えない、そんな料理を俺は机に配膳した。

 料理中のシロを見るに、彼女が気を使っているのは栄養。ただそれだけだ。

 味付けより、見た目より、何より栄養。


「「いただきます」」


 全員で席について食事に手を付ける。

 どれどれ……まずはこの粥から。

 順にスープ、目玉焼き、干し肉と食べ進めていって、出た感想はこうだ。

 普通にうまい。

 アイさんの料理のように超うまいとはならない。それでも、見た目から少し上振れしたおいしさだった。


「意外とイケるっすね」


 クロムがそんなことを言い出した。

 やめておけ、それは失礼な言葉だ。


 ただ、俺はどうにもこの飲み物が苦手らしい。

 栄養を考えて添えられた一品なんだろう、ありがたいんだが……。

 ただ食べることに夢中になり、結局俺は一言二言喋ったぐらいで完食した。


ーーーーーーーーーー

「……暇っすね」

「暇だな」


 ソファでくつろぎながら、クロムと言葉を交わした。意味もない、暇を紛らわせるための言葉。

 ただ、こういう会話も良いものだ。

 戦闘することが好きか、と聞かれれば、俺は首を横に振る。

 ここで暮らし始めて改めて気づいたが、俺はどうにも、こういったどうともない日常が好きらしい。


 強い魔物を倒して自分の成長を実感したとき、自分が強いと思えたとき。

 それは紛れもなく幸せだろう。

 ただ、何も考えずにいられるこの時間もまた、俺にとっては幸せだった。

 

「雪合戦でもやるっすか?」

「……アリかもな」


 そんな会話をしていれば、真っ先に割って入ってくるのはこの女、コハクであった。


「雪合戦するの!? 混ぜて混ぜて〜!」


 コハクはこういう遊びごとが好きらしい。

 日常で見せる笑顔とはまた違った、楽しさがこっちまで伝わってくるような笑顔を浮かべるのだ。

 それに、本人も遊ぶことが好きだと公言している。


 俺がソファ越しに食事を囲む机へ視線を向けると、そこに座っているアレクさんとちょうど廊下から入って来たアイさんと目が合った。

 二人してインドアではあるらしく、乗ってくることはなかったが微笑ましそうに笑っていた。

 シロはと言えば、予定があって外出したようだ。俺がトイレで踏ん張っている間にいなくなっていた。


「……行くか」

「行こ行こ〜!」


 テンションを上げた二人を追うように、俺は自室に掛けていたコートを羽織って外に出た。



 グランベリアを出てすぐ、林付近の平原には雪が積もっていた。

 厚い雪の層を踏みしめて、その感覚を楽しむ。

 今日は雪が振っておらず、日差しが暖かいから遊ぶのには良い環境だ。


 ぼすっ……


 俺が空を見上げていると、早速俺の背中に雪が当てられた。投手はコハクらしい。


「やったな……!」


 軽く握った柔らかい雪玉をコハクに投げつけ、俺たちの雪合戦が幕を明けた。


ーーー

「手が冷たい」

「それな」


 雪合戦を終えたあとは、雪で生き物の彫像を作って遊んでいた。

 体を動かしていないため、俺たちの手は氷のように冷たくなっていた。


「……もう夕方っすね。思ったより長居しちゃったっす」

「楽しかったってことじゃない。良いことよ」


 コハクは遊び足りたのか、満足げに頷いている。

 たしかに、こういうのはあまりやってこなかったからな。心から楽しかった。


「二人はどうか分かんないけど、俺は帰るとするわ。食事当番だしな」

「あたし達も帰るわよ。なんだと思ってるわけ?」


 同い年か疑うほど子供、というのは言わないでおこう。

 俺達は来た道を戻り、家へと向かった。


ーーー

「げ」


 俺は家にある食料品の残りを見て目を細めた。

 食材がない。夕食分は絶対に足りないだろう。


「シロ、買い物行かなきゃだめみたいだ」

「……そう。なら準備して」


 短く言い残して自分の部屋へと戻っていった。

 俺も俺でコートを羽織ってマフラーを巻いて、言われた通り外に出る準備をする。

 俺が自室を出て一分もしないうちに、シロも部屋から出てきた。

 普段は見ることのないシロの厚着姿がそこにあった。

 前の任務のときはもっと軽装だったような……。動きやすさ重視か? シロらしいっちゃシロらしい。


「ちょっと買い物行ってくる」

「いってらっしゃーい」


 コハクに見送られて俺とシロは外に出た。

 さっさと歩いて行くシロの速度に追いつくように、俺も歩く速度を改める。

 俺のほうが身長も歩幅もでかいはず。シロはなんでこんな速く歩くんだ?


「もう少しゆっくり歩いてもいいんじゃないか? 話したりしながらさ」

「何か私に話すことでもあるのかしら」


 シロは一瞬足を止めて、振り返りもせずに俺をそう突っぱねた。

 どこまでも冷たいやつだな。もうちょっと仲良くできないものか。

 いや、それが不可能に近いことは昨日知ったばっかりだったな。


 何も話すことなく、俺達は近場の食料品売場へ辿り着いた。


「さて、何を買うんだったか……」

「肉系と野菜系、それに米ね。卵と調味料には余りがあったはずよ」

「……そ、そっか」


 やっぱりシロは料理のこととなると饒舌になる。

 これは……料理を楽しいものだと思っているから?

 いや、腕前の割に楽しんだ形跡のない見た目だったし、その可能性は薄いな。

 ……栄養に厳しい母親のようだ。


 くだらないことを考えながら、買うもの以外にも目移りしていると、俺の気を引くシールが貼られたものを見つける。


「ラッキー、半額じゃん」


 小声ながらも、幸せそうな声を出したことだろう。

 珍しく振り返ったシロは、俺が手に取ったものが菓子パンであることを確認するとすぐに興味をなくしたようだった。怪訝そうな顔までされてしまった。



「安心しろ、これは俺が個人的に買うからな。家の金からは出さないさ」

「……そう」


 シロが気にしていたのはそこではなかったらしい。

 相変わらず抑揚のない返答をされた。


「随分と嬉しそうね」

「ん? あぁー。そりゃ、普段銅貨六枚の商品が三枚で買えるんだ。嬉しいだろ」


 理解できないといった顔で、商品が並ぶ棚を見つめている。

 案外、こういうことで幸せを感じるのは俺だけなんだろうか。


「俺は……こういう小さなことで……幸せだなって。そう感じれる人生が好きなんだ。どれだけ平凡な日常でもな」


 俺が目指す記憶の復元、そこに至るまでの道は平凡な日常とは呼べないだろう。

 だから自分でも言っていてつっかかったが、すべて本心だ。

 記憶を取り戻すのは早いほうが良いんだろうが、俺的にはどれだけ時間をかけても構わない。

 長い時の中で、たくさん幸せを感じて、人と笑い合ったりして。願うなら、そうしてふっと記憶が戻ってくれるのが理想だ。

 そうもいかないから、俺が動かなきゃいけないことになるんだろうがな。


「――ふっ……。そうなればいいわね」

「……笑ったか?」

「笑ってないわ」


 俺から背けた顔を、その表情を知ることはできない。

 ただ、歩いて遠ざかるその背中は少し、優しくなったような気がした。



 買い物を終えて、その帰り道。

 来るときは振っていなかった雪が、ふわふわと宙を舞っていた。

 シロは隣を歩いて……ん?


「来るときよりちょっと足の回転が遅くなったな」

「……思ったより時間に余裕ができたもの。無駄に速く歩くのは合理的じゃないわ」


 と、いうことらしい。

 普段の、俺の歩く速度。その速度を保ったまま、帰り道を辿っていく。

 時折寒さに凍りつきそうになる手を、マフラーに突っ込んで息をかけて温めながら、歩いていく。

 すっかり暗くなってしまったな。夏だったらまだ明るいだろうに。


 ふと隣を見ると、俺と同じような仕草で手を温める、シロの姿があった。

 どこまでも冷たい女でも、自分の手を温めたりするんだな。と、思わず笑いそうになった。

 こらえることはしなかった。今、俺は微笑んでいることだろう。

 少しシロとの距離が縮まっただろうか。

 ……それも勘違いだろうか。


 真相は分からない。

 それでも、心がじんわりと暖かくなるのを感じて、心地良い静けさが広がる道を歩いた。

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