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後ろから目を隠されたカナリアさんは大袈裟に驚いて見せた。
うっひゃあ!と悲鳴を上げる。
その声にクスクス笑ったものがいた。
「相変わらず、いい反応いただけますね。嬉しい」
「ヒバリ!久しぶり~。」
「ええ、お久し振りです。」
「クイナさんも、お久し振りです。」
ヒバリさんの後ろに佇む長身の男に声をかける。
言葉が返されることはなく、ただペコリとお辞儀された。
相変わらず彼は寡黙なのだ。
「カナリアも噂は聞きますよ。お仕事ちゃんとしているみたいですね。」
「ん、やらないとフクロウに怒られちゃうからね~!」
「僕もフクロウ様に怒られるのはいやですね。」
「でしょ!だから仕方なくやってるの。」
「相変わらずカナリアは仕事嫌いなのですね。」
「相変わらずヒバリはネコ被ってるねえ。キムネコもびっくりだよ~!」
二人して互いを笑い合っていた。
幹部会会場として集められた部屋は一面真っ暗で、中央に同じく黒い縦長のディスク。
六つの椅子が並び、壁にはめ込んであるスクリーンを背にして一番奥座には未だ現れないボス、フクロウ様が。その隣の席にはカナリアさんが座った。
この組織において、序列は年功でなく組織に入った期間と、それに対応する成果をもってボスより指定されていた。
カナリアさんは中でも長くやってらっしゃるので、若くして組織第二位の地位を手にしていた。
「おい、邪魔だぞヒバリ。」
「フエガラス、こんにちは。久しいですね。」
「いいから自分の席につけ。会議が始まる。」
「お久し振りね、ヒバリ。隣においで、フエガラス今日はイライラしてるのよ。」
「キムネコ。ですね、今日は大人しくしています。」
ヒバリがキムネコの隣の席につく。
「あなた、相変わらずその目立つ白髪なの?」
「ええ。素敵でしょう?ボスにも褒めてもらいましたから。」
「んー、まあ、それならそれでいいんじゃない。可愛い顔しておじいちゃんみたい。」
「おじいちゃんと言われる歳ではないですが、可愛いと言われる年でもありませんよ。僕は。」
「若作りが。褒めてないわよ。」
「わかっています。」
ふん、と鼻で笑うとキムネコはペンをくるくると回し始めた。
キムネコ、ヒバリ双方の背後に立つ男女は静かにため息を漏らした。
「……ごめんなさいね。キムネコさんもあまり最近寝てなくて。」
「………気にするな。幹部たる者、みなそうであろう。」
こっそり話す二人に言いたい。
ウチのカナリアさん、毎日八時間睡眠だよ~。と。
よく寝るどころか眠りすぎだと思う。
コンコンとノック音。
開かれた会場の扉の前には柔らかく微笑む女性。
「すみません、幹部の皆様。遅れてしまいましたか?」
「いや、まだ大丈夫だ。」
「あら、それはようございました。ほらトラ様、お早くお席にお着きください。」
ヒバリさんの返答にさらに笑みを深くし、後ろにいらっしゃった幹部のナンバーファイブ、トラツグミさんを呼んだ。
上下関係を気にすることは今までのやりとりでわかっていようが、この場で最も低位の幹部が最後に来ることはまあまあ異例の事態であった。
カナリアさんは気にした様子はないが、フエガラスさんは忌々しげに舌打ちしている。あまり怒らないでくれ、とこっそり補佐役が裾を引っ張っている。
八人に見つめられながらトラツグミさんはのっそりと入ってきた。
その場にいる誰よりも鍛え抜かれた肉体が流石幹部だと思わせる。
カナリアさん始め他の幹部の方達は肉体派というふうなく、おおよそばっと見アウトローの風貌でないので、唯一幹部らしい幹部とも言えた。
「……遅れました。」
「僕は気にしてませんよ。よかったですね、ボスが来る前で。」
「………(こくん」
寡黙なトラツグミの三歩後を補佐のキギシが歩く。
此方気付いてそっと頭を下げてきた。
彼女は低位の幹部を補佐してているとはいえ、組織内では古株の方であった。此方も慌てて頭を下げる。
幹部間のコミュニケーションも、その補佐のコミュニケーションも、時には大切なのだ。
「……ボス遅いねえ。」
カナリアさんは壁に掛けられた時計を眺めながらぽつりと呟かれました。
「………まってろ。すぐ来るだろ。」
「予定時間から十分ですか。何かあったのでしょうか。」
クールに言うフエガラスさんも気持ちてきには同じなようで、どこか不安げな顔をしていた。
かつかつとキムネコさんは爪を弾いておられましたし、トラツグミさんも大きな手を組んでは組み替えてしておられた。
「失礼ですが、キムネコさんとトラツグミさんはこのあとご用時でも?」
幹部らの背後に立つそれぞれの補佐に声をかける。
「キムネコさんは、お仕事の途中で無理矢理時間を作りましたので、そのせいかと。」
「トラツグミ様は今朝方遠方より戻りましたので、これが長引きますと、現場に戻る時間に遅れてしまいそうなのです。」
「なるほど。」
お二方は幹部の仲でも忙しいので何となくわかった。
特別な技術者として働くキムネコさんと、遠方仕事の多いトラツグミさん。
自分はカナリアさんしか担当したことがないので、その苦労はどうしても量れなかった。
「………もう3分たっても来なかったらよんできますね。」
「あ、おねがいしても良いのですか?」
「ええまあ。立場的にも自分かと。」
「では、お願いしますね。」
すましたキギシさんに言われ、はい、と素直に行った。
本当は行きたくない………ううん。
カナリアさんの補佐になったからと言うだけで、自分はそんな大した人間じゃないので、ボスの補佐であるツクさんのいない今、補佐官としてはトップであるが………
胃がキリキリする……
そんな胃痛を慰める音が響く。
静かなノックに室内が静まりかえった。
失礼します、というツクさんの声と共に大股でボスが入ってきた。
「やあみんな、またせてすまないねえ。」
「ボス遅い!心配した!」
「ああ、カナリア。少し事情があってね」
イスに座ったボスはその場にいる幹部を見渡して、顔をしかめて見せた。
「うん。急に集めて悪いね。ちょっと困ったことになってね。」
後ろに立つツクさんの方に手を差し出すと、無駄のない動きで紙の束を渡される。
それを机の上に雑多にばらまいた。
「……ついに、犬どもに嗅ぎつけられたようだね。」
「わんちゃん?」
「ちっ…、」
首をかしげるカナリアさんの隣でフエガラスさんが舌打ちをした。
「そう、わんちゃんだ。鼻のいいわんちゃんは勘は良くないらしくてねえ。此方の喉笛に食いついてきそうだよ。」
「……しつけのなってない野良犬?」
「いいや、国の飼い犬さ。」
いまいちわかっていないカナリアさんは散らばった資料をちらと見て、ピクリと体を震わせた。
「あらあらこれは……懐かしい衣装の皆さんね。」
「はい。僕も彼等にはお世話になりましたので。」
キムネコさんとヒバリさんがつと笑われました。
その眉間にはどちらもしわが寄っていて、本気で笑ってはいないことを教えてくれます。
「……国も、本気を出してきたみたいだ。まあ出し抜くのは僕たちだけどね。皆、気を引き締めてかかりなさい。」
目の前の資料をつまみ上げたカナリアさんはそれを手元で折はじめた。
かさかさ、という紙のこすれる音がする。
ここにいる幹部達がそれぞれ心に考えている
「……ボス~。この人達になにすればいいの?」
「カナリア。君は他の幹部と違って彼等に因縁はなかったね。」
「ないね。わりと友好だとすら思うよ。」
あれだけ死傷事件起こしておいてなにを言うのか。(まあ、相手が百%悪いですが。)
一応非合法的なものを取り扱う組織なので、そこに属しているだけで警察に喧嘩うってるようなものですが、彼女からしたらその自覚がないのでしょう。
捕まって罪を問われてもなんだそれって顔してそうで怖いです。
……我々とて、やってはいけないことをしていることを自負してやっているのですから。
「カナリア、彼等は僕と君の隣にいる者達を殺そうとする悪い奴らだよ。」
「……知ってるよ。でも、私達も彼等を殺そうとするから同じでしょう?商売敵だけどノータッチで来たよね。」
「それが、向こうから手を出してきたんだ。やり返す理由は大いにある。君のその腕も、彼等の掲げる正義とやらのつけた負傷だよ?」
カナリアさんは未だ痛むであろう腕を少し動かし、なるほど、と頷いた。
「痛かったから許せないね。」
「それでいいよ。君は、僕の今から言う指示に従ってくれるね?」
「勿論。ボスのためなら何でもするよ。」
「それはよかった、他の子達は……ちょっと危なっかしいからね。」
「そうだねえ~。」
カナリアさんがちらと見た先にはどう見ても殺意をむき出しにした幹部達。
冷静を纏う隠しきれない野性。
恐ろしい。
「大丈夫、みんなが暴走しそうになったら私が止めるよ。」
「頼むよ、カナリア。」
そっと頭を撫でられ、カナリアさんは目を細めた。
「いいよ。ボスのためだもの。」




