21話 尻拭い
湖の国は、小さい。
端的に言えば、湖が一つあって、その周りが湖の国だ。山を挟んで外に出れば他の国になる。まさに小国だ。
これと言った産物もない。まあ、湖の恵みによって魚は取れるし、米や小麦もたくさん取れるのは事実だが、それぐらいだった。
僕達は東へと向かう。この国の東は大国、ファーランド共和国。
この大陸でも最大最強の国家だ。ベルクランド王国ほどの軍事力こそ持たないが、経済力や人口では圧倒する。人類の国では恐らく世界最強の国家の一つだろう。
共和国だが、王も存在はする。というか、元々王国だったのが平和的に共和国になったらしい。また、商人の力が非常に強く、様々な共同体が融合した複雑な国家だ。諸外国とも海の交易で繋がっていて、技術力も極めて高い。
言うまでもなく、コーネリア王国とは比べ物にならない超大国だ。比べ物にすること自体おかしいだろう。普通月とスッポンを比べない。どっちが上とか下とかいう話ではない。
「姫様、お聞きしたい事があるのですが」
僕は馬上から聞いた。
「なんでしょうか」
姫様は白馬の上から答えた。
「ファーランドはまさに超大国。何故このような国と戦争が始まったのでしょうか」
僕は聞いた。
「私のクソ親父のせいです」
断言する姫様。まあそうなんだろうけど。
「国王陛下でしたっけ? ていうか、その、答えられないなら別にいいですけど、その国王陛下自体はどうなってるんですか?」
僕は聞いた。
「ああ、ベルクランド王国に捕まりましたよ。戦争に敗れてね。んで、金貨100枚の身代金を提示されたんで、『煮るなり焼くなり好きにしてください』って言ってやりましたよ」
そんなことを言う姫様。
……やはりこの国は何かを間違えている気がする。まあ、ファーランド共和国にせよベルクランド王国にせよ、絶対戦争しちゃダメな相手だろうし、そこと戦っちゃったら自業自得ではあるな。
「……ちなみに、王は何の為に戦争を?」
僕は聞いてみた。
「知りませんよ。まあ若い女の子を捕まえてイチャイチャするんだー、とかほざいてましたけど」
そんなことを言う姫様。やっぱり自業自得なのかな……。
「断言できますが、あれは絶対に王をやってはいけない類の人物でしたな」
そういうミカエルさん。
「せやな。正直あれはあかんわ」
そういうドミニク。
「まあそういうわけなんで、その尻拭いをする必要があるんですよ。申し訳ありませんね。こんなくだらないことに巻き込んでしまって……」
そういう姫様。
「いやいや。戦争は駄目かもしれませんけど、和平交渉は大事ですからね。僕も微力を尽くしますよ」
僕はそう言った。
丘を越え、山に登る。谷には堅牢な城塞。そこには、たくさんの兵士が詰めていた。殺気立った兵士たちが見回りしている。
姫様が門に差し掛かった。当然、門は開かれた。
「姫様、ご到着です!」
叫ぶ兵士たち。歓声が上がる。
「ご苦労様。すぐさま隊長を呼びなさい」
姫様は言った。
「はっ!」
兵士たちは叫び、隊長が呼ばれる。勲章を付けた壮年の兵士がやってきた。
「姫様。よくぞ来られましたな」
そう言う隊長。落ち着いている。
「和平交渉に参ります。精兵を10人程用意していただけます?」
そう聞く姫様。
「10人? 少なすぎませんか?」
驚く隊長。
「和平交渉ですよ。戦争に行くのではないのですから」
そういう姫様。
「わかりました。精兵を用意しましょう」
隊長はすぐさま、兵士たちの中に戻って行った。
僕は周りを見渡した。かなりの数の兵士だ。コーネリア城にも親衛隊が居たが、これほどの人数では無かった。本城よりも、国境線の警備を重視しているのだろう。
「ドミニク、ここにはどれくらいの兵士が居るのかな?」
僕は聞いてみた。
「んー、確か300人ぐらいやったかな? どこの城塞もそんなもんやと思うで。まあ、平時やともっと少ないけどな」
そう言うドミニク。
「ファーランドとの国境線は多いので、少なくとも1000の兵士は張り付いてますな。この和平交渉が上手く行かないと、我が国は傾きますぞ」
そういうミカエルさん。やっぱりこの国危なすぎるんじゃ……。
「姫様、集合いたしました」
そういう隊長。完全武装の屈強な男10人が集まった。
「ご苦労。では参りましょうか」
姫様はそう言った。東の国境線へと進んでいく。僕達と兵士たちが続く。