19話 肉と刀
イノシシは全滅させた。更に、もう入ってこないように周囲を柵で固めた。とりあえずはこれで大丈夫だろう。
僕は最良質と見られる氷柱石と、オオイノシシの肉を採取した。この肉は食料にするかな。
僕達は鉱山を出た。ドワーフが迎える。
「大丈夫でしたか?」
不安そうなドワーフ。
「全て仕留めましたわ。仲間たちにもお伝えください」
姫様が言った。
「おお……、ありがとうございます」
感謝するドワーフ。
僕達は店へと戻った。
「さあフェイ様。素晴らしい素材も手に入ったわけですから、その実力を見せてくださいな」
そう言う姫様。
「それは構いませんが、食事にでもしませんか? 肉が腐ったらもったいないですし」
僕は言った。
「それはそうですね。猪の肉は美味しいですし」
そう言う姫様。
僕は炭火に火を入れ、肉を焼いた。いい感じに焼ける肉。おいしそうだ。
「ほほう。こりゃなかなかいい炭火ですな」
炭火に感動するミカエルさん。渋いな。
「どう見ても料理屋と化してるやんか」
そういうドミニク。確かに。
肉を適当に捌き、塩を振って渡した。姫様が食べる。
「まあ! 素晴らしくおいしいですわね。料理人として欲しいぐらいですわ」
そう言う姫様。
「奇をてらって無い所が良いですな」
そういうミカエルさん。
「おお! めっちゃ美味いやんか。肉もええなー」
そういうドミニクさん。
確かに素晴らしい味だった。だいぶ残してきてしまったが、もったいなかったかな。とはいえ、保存することが難しいから仕方ない。
僕は氷柱石を眺めた。このままでは使えない。とはいえ、これどうしようかな。
「姫様、この石で武具を作ろうかと思いますが、何か欲しいのはあります?」
僕は聞いてみた。
「あら、フェイ様が使われるのではないので?」
姫様はそう聞き返した。
「僕は弓矢と槍ぐらいしか使えませんけどね。でも、皆さんは剣術に長けておられるようですし」
僕は言った。
「そら剣がベストやで。なんや、ワイのを作ってくれるんか?」
ドミニクは期待しているようだ。
「これだけあれば、かなりの量の武器が作れますね。防具を作るとなると、さすがに足りないかもしれませんが」
僕はそう言った。
「フェイ様の思う通りにやってみてくだされ」
ミカエルさんはそう言った。
確かに、自分の思い通りにやることも必要だ。僕は炉に火を付け、鉱物の純度を高めることにした。
氷柱石を溶かしていく。こちらも炭火だ。しかし石は中々溶けてくれない。
「意外と難しいですね、これ」
僕は言った。
「名前とは裏腹に、溶ける温度は高いのですよ」
そう言う姫様。
「仕方ない。温度を上げるか」
僕はさらに炭火を追加していく。
空気を送り、温度を高めていく。真っ赤に染まる灼熱の世界。
溶けだした青い液体を冷やして固め、叩きのめし、また焼く。
そうやって徐々に剣の形へと生成していく。
一本目の剣が出来た。素晴らしい出来だ。僕の人生でも最高の一振りだろう。
「まあ、綺麗ですわね」
そう言う姫様。
「素晴らしい剣ですな」
賞賛するミカエルさん。
「たいしたもんやな」
そういうドミニク。
せっかくなので、更に剣を鍛えて行く。二本目、三本目。しかしイマイチの出来だ。
四本目は一本目にも勝るほどの素晴らしい剣だ。
「ふう……」
さすがに疲れた。今日はここまでにしよう。
「見事ですわね、フェイ様。この剣はどうなさるので?」
姫様が聞いた。
「差し上げますよ。ちょっと高すぎて、売れないでしょうし」
僕は言った。
「まあ、よろしいのですか? そんなに気を使わなくても良いのですよ」
そういう姫様。
「いえ。こんなに良くして頂いて、何もできないんじゃあね」
僕はそう言った。
「この、四本目の剣が一番出来が良さそうですな。一本目も捨てがたいですが」
そういうミカエルさん。さすがの見立てだ。
「ほならこの四本目を姫様が使ったらええやん。一本目はミカエル様で、後の二本はワイとフェイで使えばええやろ」
そういうドミニク。
「ドミニクったら、勝手に決めちゃって。しかし、それでよろしいので? フェイ様」
姫様はそう聞いた。
「それでお願いします」
僕はそう言った。
姫様は剣を手に取る。剣を振り回す姫様。見事な剣技だ。ミカエルさんとドミニクも剣を試しているようだ。
「素晴らしい剣ですわ。ありがとうございます。代金はいずれ支払いますので」
そう言う姫様。
「よろしいので?」
僕は聞いた。
「当然ですわ。タダ働きするものではありませんわよ」
そう言う姫様。まあ、そうかもしれない。