●過去③●
少し悲しい感じです
「弟…?ほう、赤堂爛にも弟がいたか。しかもエレメント使いの」
男は、自分が放った闇の拳を弾いた煉に興味を持ったらしい。舌なめずりする様子はかなり気持が悪い。
爛は突然乱入した煉に厳しく言った。
「お前、家にいろって言ったろ!!何で来た?」
「うっせ馬鹿兄貴。今俺が来なかったら死んでたぞ!!」
「そうかもしれねぇけどだな…!!」
「あー!うっさいうっさい!!いいから大人しくしてろ。この野郎は俺が相手してやる」
煉の無謀な発言に爛が声を荒くする。
「馬鹿野郎!!そいつは普通じゃない!!俺でもこのザマなんだよ。お前じゃ死ぬぞ!?」
「今の兄貴よりかは戦える。兄貴は動けるならばあさん呼びに行ってくれ。時間は稼ぐ」
「それを呼ばせると思うか?」
男が不意に放った拳を、煉は掴んで受け止めた。
「邪魔はさせねぇ」
「…面白い」
煉と男が対峙する。
視線と視線がぶつかり火花を散らす。
「小僧、相手をしてやろう。かかってこい」
「上等だ!!」
煉が男へと一気に突進する。突進の威力を乗せた拳を同時に放つ。男は身をひねってかわし、空振りになった煉の拳を掴む。拳を封じられた煉に男が突きを繰り出そうとするが、
「<火爆拳>!!」
煉は捕まれていない拳に炎を纏わせて男の顔面を殴り付ける。衝撃で掴まれていた腕が自由になった。
煉は一度距離を取り、再び炎を纏わせた拳を地面に叩き付ける。
「<火爆噴衝>!!」
すると、男の足下から火山の噴火のような爆発が起こった。地を突き破って噴き上がる爆炎は一瞬で男を飲み込んだ。
「どうだ」
得意気に鼻を鳴らす煉に爛は驚いていた。
「お前、いつの間にそんな技作った?」
「我流で作った。兄貴が一向に修行してくんねーからよ」
「いや、もう修行しなくてもいいレベルだけど…」
「ククク……いいなぁ、小僧。気に入った!!」
煉の炎を気迫で吹き飛ばし、男が歪な笑みを浮かべた。その時、初めて男の顔が確認できた。灰色の短髪と妖しい光を宿す紫の瞳。
年齢は20後半辺りだ。
「お前の力に敬意を評し、私も特別なものをお前に送ろう」
男の体に大量の闇が一斉に殺到する。闇そのものを背負うように、男の後ろだけ夜になったようだった。
煉も炎を全開にし、爛と同じように炎に形を与えてその身に纏わせる。炎は3対の翼となり、扇状に広がる尾羽となった。
「<紅蓮鳳凰>!!」
光輝く炎の翼を纏った煉。爛と同様の技を使いこなしているのだ。これも我流で作ったのなら、煉のセンスは爛以上と言えるかもしれない。
男はそれを見て更に笑い、闇を8頭の大蛇に、
煉はその大蛇へと突撃する。
「<紅蓮鳳翼>!!」
「<夜魔多ノ大蛇>!!」
鳳凰となった煉と男の闇の大蛇が激突する。多大な衝撃波を撒き散らしぶつかり合う炎と闇。打ち勝ったのは、
「はあっ!!」
男であった。膨大な闇が煉の炎を覆い隠し、消滅させた。同時に闇の波動に煉自身も飲み込まれた。
「が……は……!」
空気を吐き出し、ボロボロになった煉はその場に倒れ込んだ。微かに意識があるだけで、動くことは不可能な状態だ。
「さて、楽しめたぞ小僧。さっきは邪魔してくれたが、今度は貴様が死ぬな」
「…この……野郎…」
「あの世で兄を待つがいいさ」
「よせ!止めろぉぉ!!」
爛の絶叫に耳を貸さず、男は無情に闇を纏った腕を煉へと振り下ろす。
煉は死を覚悟し、目を瞑った。
煉は不思議に思った。いつまで経っても、男の腕が自分を殺さない。煉は目を開き顔を上げる。そこには、煉を庇うように立っている2人の男女がいた。
男の腕は、その2人を貫通していたが、止まっていた。煉は2人の顔を見て、全ての思考が停止した。
「親父……お袋…?」
そう。煉を庇ったのは、赤堂紅太朗と赤堂華火。両親だったのだ。
「煉……大丈夫か?」
口から血を流しながらも、紅太朗は笑顔で息子を心配する。
「何…で…」
「息子を助けるのは……当たり前…でしょ…?」
華火もまた、笑顔で言う。2人共胸を貫かれ、話すことも辛いはずだ。
「ほう、こいつ等の親か。美しい親子愛だ。くだらん」
男は腕を一気に抜いた。途端に、2人の胸から鮮血が噴き出す。噴水のような血が、煉の顔を濡らす。
爛は、顔を涙でぐしゃぐしゃにし、2人を呼ぶ。
重なるように倒れた2人は、最後に言った。
「「愛してる……最愛の子供達……」」
そう言い残し、2人は静かに目を閉じた。
「てめぇぇぇぇぇっ!!」
爛は怒号と共に男に向かう。頭に血がのぼっているせいか、いつもの冷静な動きは無かった。
「ふん。まだ動くか。ここで殺すのは惜しいな」
男は闇の球体を作り出し、爛の頭に叩き込んだ。
「っ……!何した!!」
「なに、眠ってもらうだけだ、私以外に解くことの出来ない永遠の眠りにな」
「何言っ………何だよ、これ…」
爛は途端に頭を押さえてその場に倒れ込む。そのまま、覚めることの無い眠りについた。
「兄貴…?」
掠れた声で爛を呼ぶが、返事は返ってこない。
途端に煉は頭を抱え、苦悶の声を上げる。弱い自分を呪い、憎んだ。
「あ…あぁ!」
言葉にならない悲鳴は、男の笑みを一層強くする。
「悔しいか?憎いか?家族を奪った私。そして守れなかった己自身が」
「うっ…!!」
「殺したいか、私を?それならそれでいい。私を憎み、呪い、強くなれ。そして、また会おう。赤堂煉」
男はまるで闇に溶けるように消え失せた。辺りに静寂が立ち込める。煉は溢れる気持ちを堪えきれず、赤い、血の涙を流し、天に向かって絶叫した。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
この日、煉は家族を失った。
次回、過去編終了です