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22話 天水城の夜明・武

日本女子サッカー負けちゃったなぁ……惜しかった。試合開始からずっと見てました。

でも例え負けようと銀。なでしこおめでとう!



陽が昇り始めようかという夜明け頃。

天水城内の練兵所から少し離れた人目の付きにくい場所に、神坂はいた。

砂と草が入り混じった地面で正座し、鞘に収められた剣を前に置き目を瞑りただ只管待つ。

吸っと。鼻で空気を取り入れ口でゆっくりと吐く。

己の精神を落ち着かせる様に。然と在らんと心掛ける様に。

暫く繰り返すと閉じていた眼をゆっくりと開け、前を見据える。


己が待つ彼女が其処にいた。

栗色の髪を後ろに結い、三尖槍を手にこちらに向かって堂々と歩く姿はその容姿も相俟って一つの美を彷彿とさせる。

近付く足音に応じる様にして地から立ち、神坂は剣を鞘から抜く。

互いの距離が十歩となった時、神坂に歩んでいた少女、姜維は足を止め、三尖槍の切っ先を神坂に向け、

そして言い放つ。


「人の世を闊歩する悪しき者よ。せめてもの慈悲だ。夢現も分からぬ内に散らせてくれよう」

「抜かせ童。まこと脆弱な人間風情が抜かしてくれる」


その言葉を受け神坂も返す。

そして剣を真横に構え、いつでも斬り掛かれる態勢を作る。


「来るが良い人間。私を殺し愚かな人間達に崇められるが良い。出来るものなら、だがな」

「ほざけ! 今ここに、長きに渡る旅の終止符を打つ!」


雄叫びと共に地を蹴り、三尖槍を振り被り斬り掛かる姜維に神坂も地を駆け距離を詰める。

金属のぶつかり合う音が辺りに響き、槍と剣がせめぎ合うこと数秒。

姜維が神坂から距離を取り石突きを地に当て神坂を見据える。

満面の笑みを浮かべて。



「というのをですね、昔劇で見たんですよ! 丁度今の感じでした!」



凄く嬉しそうだった。

神坂はその様子にやれやれと首を振るが、笑みを浮かべているからには嫌々という訳でなない。昨日に姜維から朝付き合って欲しい事があると言われ、練兵所の近くに来て欲しいとの事からこういった類についてだろうとは予想していた。そして朝になって来てみれば案の定……とは言わないまでもコレだ。説明を受けて観客の居ない短劇をするのはこれ如何に、とは思うが先程も述べたが別に嫌ではない。

自分も子供の頃にこういう場面を見て、一度は憧れたものである。


「ひなたさんにも見せたかったです。あの臨場感溢れる劇を」

「というかその劇ってどんな劇なの?」

「悪霊に憑かれた人間に村を滅ぼされた少年が、その悪霊を討滅する旅の話です」

「地味に長篇になりそうだね」

「その劇は昼夜を問わず三日間に及びましたが」

「それほとんど演者への苦行じゃん」


なんで劇を日毎に分けなかったのか、等思いつつ手に持つ剣を八相に構い直し姜維へと向く。姜維もそれを見て二コリと嬉しそうに笑みを浮かべて三尖槍を下段に構える

寧ろ姜維にとって、これからがメインである。


「ではひなたさん。用意は良いですか」

「まあ。良いよ」


昔姜維が見た劇を演じてみたいというのは一つ目の要望。

そしてもう一つの要望は、姜維が最も望んだ神坂との手合わせ。

手合わせへの深い理由なんて無い。述べるとするなら、己が想いを寄せる相手と培った武で語り合いたい。自分を感じて貰いたいと言った所か。


「往きます」


言葉と共に踏み出すと同時に槍を突き上げ、穂先が首に向かう。

神坂は八相の構えから剣を振り下ろしそれを防ぐが、突如真横から微量の風を感じる。

石突き。

神坂が視線を横に向けると寸止めした姜維の槍がそこにあった。


「速いね」


見えなかった訳では無かった。槍を防がれると直ぐ様石突きで横薙ぎにしてくるのが確かに見えた。反応は出来ない、訳ではない。訳ではないのだが。


「……やはり、本気で戦っては頂けないのですか」

「いや実際速いよ。反応出来ない訳じゃないんだけどさ」

「では何故。張遼さんの時は致し方ないと理解していますが、今は誰も見てはいません。それでも尚真面目に戦って頂けないのは何故ですか」


石突きを引き戻し数歩下がり神坂を見詰めるが、神坂は顔をしかめるだけ。


「睡蓮さんも賈駆さんも張遼さんも、皆して俺を過大評価し過ぎだよ。確かにその辺の人よりは出来る自信はあるけど姜維さんや張遼さんには足掻いても勝てるとは思えないし」

「そんなことありません。ひなたさんは自分を過小評価し過ぎです」

「そんなこと」

「あります」

「……むー」


神坂は苦い顔をして見るが姜維は憮然と神坂を見詰める。そんな姜維の様子に神坂は「あー」や「うー」など呻き、頭を掻く仕草をしながら周りに誰か居ないかと見渡す。陽が昇り始めた夜明け頃と言う事もあり、辺りには誰も居ないことを確認した神坂は深い溜め息を吐く。


「……まあ。昨日睡蓮さんに手伝って貰った訳だし、俺としては何かしらで返したいとは思っていたけど」

「それなら今で構いませんよ」

「即答ですか。……なら要望通りに、してみよう、かな」


吸っと。神坂は息を吸い持っていた剣を地面に刺し、腰から短剣を取り出す。そして右手でそれを構え腰を落として姿勢を低くし、短剣の切っ先を姜維に向ける。


それだけでは無かった。先程までの神坂とはまるで違う。


眼が。気迫が。身体への力の掛け方の到る総てが。

先程剣を構えた時はまるで違う彼。

突如として変わった雰囲気に姜維は驚くよりも前に。

――――歓びの感情が先行した。

ようやく彼が、やる気になってくれたのだと。


「……本気で、戦って頂けるんですね」

「一回だけだよ。戦うからには本気だし、俺は持つモノ全部使ってでも睡蓮さんに勝ちに行くからね」

「望む所です。それは私とて同じ」


姜維も今度こそ三尖槍を構え、中段で穂先を神坂に向ける。

小手調べは無しだ。した途端に不意を突かれて負ける。

姜維は本能的にそう感じた。


……しかしただの短剣を片手で構えているだけなのに、何故だろうか。

――――隙がまるで見当たらない。

どころか、踏み込めない。

短剣の切っ先から持つ者までの距離が、遠く感じる錯覚を覚えてしまいそうな。


――――駄目だ。考えて戦えばこちらが隙を生じさせてしまう。


姜維は考えを改めて神坂を見据える。

そう、小手調べは無し。己の経験して来たモノをぶつけるだけで良いんだ。

肚を括った。相手の戦い方は分からないが、それは向こうも同じ。

駆けた。

瞬きをすれば一瞬にして距離を詰めたと思わせる程の迅さで。踏み込みと共に突きを繰り出し穿とうとする。が、


「それは読めてた」


神坂は身体を最小限の動きで横に逸らし、三尖槍の柄を突きに合わせて左手で掴み、短剣を槍の柄に滑るようにして迫って来る。

狙いは槍を持つ指。


「……ッ!」


姜維は目を見開き迫る短剣を見、槍は掴まれて動かないと察すると、

簡単に槍を手放した。

今度は神坂が目を見開き姜維の動きを注目する。

姜維の身体は沈んでいた。

右肩を突き出す様な姿勢で身体を自分よりも低くし、死角を作って左拳を神坂の腹へと目掛けて放つ。

ゴツッと。

鈍い音が聞こえるが、それは腹を殴打した音では無い。

神坂が瞬時に右肘を腹まで寄せて殴られた音。かろうじて姜維の拳は防いだが、それだけでは終わらない。右肘を殴られた際に生じた握力の隙を見逃さず、姜維は下がりつつ空かさずして再び三尖槍を手に持ち、神坂に掴まれていた槍を片手でそのまま引き戻す。


しかし、今度は神坂が仕掛けた。


引き戻す三尖槍を手放したのはあくまで"わざと"。

無理に三尖槍を引き止めて徒手の反撃をさせない為に。

そして槍を引いた姜維に向かって出来た距離を利用し、

持っていた短剣を"投げた"。

引いたとはいえ距離は左程離れている訳でも無く、投げるにしては近すぎる距離。

しかしその近い距離故、三尖槍を振るって落とす事叶わず、近距離で飛来する短剣を思わず手で払った。瞬間、



「悪手を取ったね」



今度は吐息が触れ合うほどに近い距離。神坂は目の前にいた。

姜維は三尖槍を手放し、払った左手で掴み掛かって対処しようとするよりも速く、


姜維の身体が宙を舞った。


地と空が一瞬で入れ替わり、背中に衝撃が伝わると目に映るは剣。先程神坂が地に刺した剣が眼前に突き付けられていた。武器を持つ右手も足で踏まれ自由も効かない。

……決定的だった。


「俺の勝ち」


目の前の男は微笑みながら剣を引く。

姜維が神坂に駆けて五つ数えたか否か。そんな僅かな時間の中で、様々な事が頭を駆け巡った。

あそこで動きに合わせて槍を――――拳打でなく途中で腕を掴めていれば――――どうやって今宙に――――…など、そんな考えが過ぎったりする。

数合とも打ち合ってはいない。長い時間戦った訳でも無い。五つ数えるのにも満たない。そんな短い間で起こった出来事。なのに。


「……とても。勉強になりました」


こうも充足感があるのは何故だろうか。


「勉強って、今のは言ってしまえば思い付いた罠に偶然が重なった出来事だよ。次は絶対に勝てる気がしないていうか無理」

「……あの、もしかしてですが、ひなたさんは短期決戦を主として戦ってますか?」

「ん、まあ今までを振り返ってみるとそうなるかもね。相手によっては長らく戦うと動き読まれるし。それに睡蓮さん相手に長引きなんてしたら確実に負けるよ。全体的に俺は睡蓮さんに及んでいないのは明白だし」

「しかしそれでも、私は負けました」

「これは偶然の産物だよ。睡蓮さんが短剣を払わず回避したら、丸腰だし俺には対処の仕様が無かった。短剣を払った動きに俺も合わせただけだし」

「嘘吐き、ですね。最初から私の動きに合わせて"ことごとく"調子を乱されました。それに丸腰でも徒手の心得をお持ちじゃないですか。でないと私の拳を防いだり、一瞬で私の身体を回転させた事に説明が出来ません」


あー分かるんだーそれ当たり、なんて言い出す神坂に姜維は静かに笑い、差し出された手を引いて立ち腰をはたく。

そして再び笑みを浮かべる。


「ではどうでしょうひなたさん、今度は仕合では無く槍を使って軽く打ち合いでも」

「んー……そうだね。折角だし、槍術に長けてる睡蓮さんに槍の手解きを受けてみようかな?」

「いえそんな、私なんて未熟でまだまだですよ! ……でも、ひなたさんがそう仰るなら不肖の身ですが、お付き合いさせて頂きます」


そう言ってお互い微笑を浮かべ、神坂は小走りで武器庫へと向かう。

その背中を見つめる姜維の顔はどことなく嬉しそうで、気恥かしいものであったが、それを見る者はこの場には居ない。





「……ほう」


練兵所から少し離れた場所の一角、そこで神坂と姜維を観察する者が一人。

大斧を片手に木陰から見るは銀色の髪の女性である。


「あれ華雄やん、羌からいつ帰ったん?」

「つい先程だ。しかし張遼、早起きだな」

「あー今日は騎馬調練あるからなぁ。恋と音々は?」

「真っ先に動物の下に行ったぞ。……それで張遼、あの二人は誰だ?」


華雄という女性に首で促され、見るとつい最近天水に来た二人。

その二人は視線の先で槍を用いて打ち合いをしていたが、打ち合いと言うには激しさが感じられない。

さながら演武の様に、しかし己を魅せる様に。

張遼は二人を見、軽く感嘆の声を漏らす。


「二人とも繊細な動きしとるなぁ。所々粗さが見える気もするけど、型もそれなりにしっかりしとる。というか神坂の奴やっぱ普通に戦えるんやないか」

「ふん、あの様な動きでは鍛錬とはとても言えんな」

「鍛錬とは言わんやろアレ。神坂が槍使っとるのなんて見た事あらへんし、姜維の嬢が主導権握っとる時点で型作りとかその辺りやろ」

「となると、アレがあの姜維か。結局引き込めたのだな」

「……てか、華雄はこんな所で何しとん」

「ただの好奇心で見ていただけだ。この様に朝早くから武を磨くとは感心だからな」

「やったら普通に近くで見ればええやん」


言われ、まだ槍で打ち合いをしている二人を身を乗り出して見る。

姜維と神坂が何か会話をしながら打ち合っているが、ふと神坂がチラリとこちらを見た。張遼は突然こちらを向かれた事に面食らい、思わず凝視してしまう。

こちらを見た神坂は姜維との打ち合いを止め、礼をすると姜維も慌てて礼を返した。続いてこちらに軽く会釈をすると、そそくさとその場から立ち去って行き姜維もその後に付いて行った。


「……見ろ。気付かれたではないか」

「え、何やのん。まさかウチ野暮な事してもーた?」

「野暮かどうかは知らんが、丁度ここが奴の警戒範囲外だったのを……そもそもあの二人は何故逃げるのだ」

「あ、あー成程な。てか華雄、警戒って何の事や」

「あの男、神坂と言ったか。武はまだまだだが、周りへの注意と観察力だけは一人前だな。私が視線を向けただけで直ぐにこちら見たぞ。だから視線を向けても気付かれない位置で見ていたのだ」

「なら教えてくれても良かったやん。お陰で面白そーなんを見逃してもうた」

「何を言う。お前は奴の注意に気付いて尚、ばれても構わないから歩んだのではないのか?」


え? とパチクリしながら隣の同僚を見る張遼。

ならなんで自分は最初その警戒に引っ掛からんのや、なんて思ったが多分聞くだけ無駄だろう。

武人として察しろ。そんなの当然だ、などと言い出すに決まっている。

……しかし軽い腹いせ位はしても良いだろうと思い、張遼は心に決めた。


「しかし中々面白そうな奴等が来たではないか、張遼」

「せやな。まあそれは同意やけど華雄。これだけは言うて置くわ」

「……何だ」

「めっちゃ汗臭いで」


鼻を押さえながらの言葉を皮切りに、大斧を振りかざして追い掛ける華雄と笑いながら逃げる張遼が、朝早くに城内で目撃された。


拠点っぽいですね。でも一応「話」で表します。

感想ご意見疑問、あれば遠慮なく申しつけ下さい。


あとツイッターでMHFの優先依頼とかPSO2の緊急クエストとか教えてくれるとかマジ便利!



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