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第38話・わっせい わっせい ほれや ほれ

 ゴ・ノールと名乗ったおっさんが描き足してくれた地図を見ながら、鉱山を進む。


 やがて、十何人ものドワーフがつるはしやハンマーを振るっている場所に入ってきた。空気穴から入る光とランタンの光と、魔法らしい光があちこちに灯されている。


 ドワーフたちは歌いながら岩を砕いている。



  わっせい わっせい ほれや ほれ


  われら ほこりたかき どわーふの いちぞく


  あくたらべくは われらのほこり


  うるわし さり・しのかわとの


  ちぎりをまもって きょうもほる


  わっせい わっせい ほれや ほれ!  



 機嫌よさそうにドワーフたちは穴を掘っている。


「たのしいうただね」


 オウルは楽しそうに笑った。


 岩の間には七色に輝く不思議な光があった。


「あれが、ミスリル?」


「多分」


 その時、不意に穴の中に響いていた歌が止まった。


 そっちを見ると、ドワーフたちが手を止めてこっちを見ていた。


「ノーマルがここに何の用だ?」


「ノーマル?」


「私たちから見て、彼らをドワーフと呼ぶように、彼らは私たちをノーマルと呼ぶ」


 土田のおっさんが早口でオレたちに話をして、一歩前に出た。


「初めまして。ハザマから来たノーマルです」


「ほう! ハザマから!」


「ハザマの勇者の卵か!」


「しかし、ここは掘り出してまだ日が浅いぞ。どうしてここを知っている?」


「ゴ・ノールさんに教わりまして」


 おっさんは如才なく言葉を続ける。


「ゴ・ノールか!」


「あいつはサリ様を信奉してたからな!」


「ハザマからくれば、そりゃあ喜ぶさ! どんな奴でもな!」


 ん? 何か……ちょっと話がまずい方に行ってるような……?


「タ・ケール・シノカワの紹介で」


「タ・ケール!?」


「サリ様の息子の!」


「われらドワーフの血と、麗しの勇者サリ様の血を継いだ!」


「それで、ミスリルを掘りに来たのかね?」


「はい、そうです」


「そうか、そうか。この辺りはまだ掘ってないから、掘ってみるがいいさ。麗しのサリ・シノカワとの契約だからな!」


 ドワーフは歌いながら仕事に戻った。


 太い歌声は唸りながら鉱山中に響き渡る。


「う~ん」


 土田のおっさんは首をひねっていた。


「どうしたおっさん」


「んー、ちょっとね……」

 おっさんはドワーフたちに示された場所に向かいながら何度も首をひねる。


「ゴ・ノールさんから聞いたのとか、今の歌とかを聞けば、アクタラベクのドワーフは篠原先生の母親を慕っているようだ。けど、何かな……」


「言っている間があったら掘りましょう」


 ハルナさんは手早く先生から借りたハンマーとタガネを取り出した。


「サリ様の御利益とやらも、ミスリルを譲ってくれるまではないの。自分で掘るしかないんだから、黙って掘る」


「それもそうだな」


 おっさんは肩をすくめて、自分もハンマーを取り出した。


「いやあ、昔を思い出すねえ」


 おっさんは少し嬉しそうな顔になっていた。


「子供の頃は、鉱石を集めるのが趣味でねえ」


「へえ、おっさんにもそんな頃があったんだ」


「もちろんミスリルなんかじゃないけど、たまに光る石が出てくるんだ。それがとても嬉しくてねえ」


「やれやれ、こんな所で力仕事か」


 呟いた那由多くんはハルナさんに容赦ない拳骨を食らっていた。


「力仕事の方々を馬鹿にしない」


「な、殴ることないだろ!」


「失礼でしょう」


 見ると、ドワーフたちは手元を動かしながらも、意識がこっちを向いているのが分かった。


「すいません……」


 那由多くんは小さく呟いて、ハンマーとタガネを手にした。



  かーん、かーんと響く音。


 ドワーフたちの歌声。


 それを聞きながら、オレたちは岩壁を削る。


 土田のおっさんは小さい頃やっていたというだけあって、タガネとハンマーを自在に操って、地脈のような岩の線を狙って掘っている。


「風岡君、そんなに力尽くで叩くと鉱石が砕けるよ」


「え? そうなの?」


「そう。岩のもろそうなところを狙ってタガネを打つんだ」


 確かにおっさんはそんなに力を入れているわけでもないのにぼこぼこと穴を空けていく。


「あと那由多君、ハンマーでハンマーを打ったら壊れるから。壊れて顔に飛んでくると、防護眼鏡をかけていても、顔に当たったらケガをする」


 そんな横で、オレはタガネを打つつもりで目いっぱい親指を打って、涙をにじませながら治癒キュア・ウーンズを自分にかけていた。結構力入れて叩くから痛かった。これくらいの傷なら治るくらいの魔法は覚えたけど、まだまだだなあ……。


「わっせい、わっせい、ほれや、ほれ」


 呟きながらカーン、カーンとタガネを打つ。


 歌っていると、何となく調子が出てきた。


「わっせい、わっせい、ほれや、ほれ」


 気が付くと、おっさんも歌っていた。


「わっせい、わっせい、ほれや、ほれ♪」


 オウルが楽し気に繰り返す。


 サビの部分だけ歌いながら、オレたち四人でタガネを打つ。


  カィーン!


 固い音がした。


 おっさんが目を見開いて、皮手袋で守った指先でその辺りを探る。


 カリカリとひっかいていくと、七色に輝くものが出てきた。


「ミスリル」


 おっさんが、尊いものに触れるように、一度手袋を外して、その部分を指で撫でた。


 指が触れるごとに色を変える。


「すごい……こんなものが見つかるんだ……」


 おっさんは子供のように目を輝かせて触れる。そして慌てて手袋をはめなおし、その周囲を掘り出す。


 オレたちはおっさんに任せて、それを見守った。


 おっさんは七色に変わる鉱物の周りを慎重に掘っていって、掘っていて、そーっと外した。


 すぽん、と抜けるように、七色の金属が採れた。


「うわあ……すごい……すごいよ……」


 おっさんが感激したように呟いた。


 那由多くんの頭くらいの鉱石は、不思議な色をしていた。


「この近くにまだあるかも知れない」


「よし、掘ってみよう」


 オレたちは夢中になって岩壁に取り掛かった。



 ミスリルの塊が結構取れた。


「こんなもんかな?」


「そうね。防具だけじゃなくて、武器も作れるかも」


 ハルナさんも満足げに立ち上がり。


 顔色を変えた。


「どうしたの」


「はめられた」


 ハルナさんは舌打ちした。


 そう言えば、あれだけ響いていたドワーフの歌声も岩を砕く音も何も聞こえない。


 灯りも暗くなり、ドワーフの姿はない。


 鉱山の中に、オレたちだけ取り残されていた。

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