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第12話・卒業までにクリアすべきミッション

「無事……ではないか、まあ三人は無事入学式が終わったのでよかったです」


 安久都先生が溜め息交じりに言った。


 オレの隣の席で肩震わせて涙ぐんでるのは那由多くん。


 ついさっきまで安久都先生だけでなく他の教員にも囲まれて散々に怒られたのだ。


 衣装は特に問題ないらしい。勇者を育成するとして、勇者もカッコよさが求められる時代だ、コスチュームは本人の美的センスに任せるとか。


 問題は……来賓挨拶だな。


 疲れた、自分が座っても魔勇者を叱る者はあるまいと話の最中に堂々と座り、先生に無理やり立ち上がらされて、他の教員にも目ぇつけられていた。


 普通、こうなるよな……。


 那由多くんは「魔勇者だ」「僕の集めた元素マテリアルを発動させる」「竜討刀ドラグナイトの力を見たいか」と散々抵抗したんだが、……ここは勇者を育てる学校だ、教える先生が現役や元のつく勇者であっても不思議じゃない。


 勇者の卵未満の中二病が夢見た世界は過酷だった。


 ……過酷じゃないな。常識だな。那由多くんだけが勘違いしてただけで。


 あそこまで反論の余地なく叱られたんだから、少しは大人しくなってくれればいいんだけど……。



「では、一日目からで申し訳ありませんが、卒業条件を発表します」


「卒業条件?」


 土田のおっさんが不思議そうに言った。


「つまり、その条件に満たない者は、卒業ではなく退学……?」


「はい、その通りです」


 先生は平然と言った。


「もちろん、この学校は卒業させることが目的ですし、その為に私たちは全力を尽くします。しかし、皆さんの目指す職業は、特別国家公務員、即ち勇者。力量不足の者を勇者として雇うには、あまりにも危険度が高すぎます。その為、卒業認定は、あるミッションをクリアしてもらうことになります。


 先生は二段重ねのホワイトボードをグイッと押した。


 その途端、ホワイトボードと思っていた白い板が、ぐにゃりと歪み、黒と白のモノトーン渦となった。


「勇者とは、誰かを助ける勇気のある者。そうでなければ勇者にはなれない。ですが、勇者と認められる条件は、たった一つ」


 今や白が消えて完全に黒い渦となった中心に、誰かがいた。


 誰か?


 誰だ?


「魔王を倒すことでしょう」


「ほう……勇者の卵か」


 陰々と響く声が、遠くから聞こえた。


「魔王キール、彼らが貴方を倒す勇者たちです」


 魔王キールと呼ばれたのは、首に蛇を巻きつけ、背中からコウモリの羽根を生やした、那由多くんなんてまだまだおこちゃまとしか言えないような迫力と威圧感。落ち窪んだ顔の奥で光るのは金色の目。


 ……間違いない。


 これが、()()と呼ばれる存在だ。


 暗黒の貴公子だの魔勇者だのとは違う、本気の本物だ。


 キールは軽く頭を振って呟く。


「……ふ、一人を除いて、どいつもこいつも頼りない」


 一人、と聞いて、那由多くんが目を輝かせたけど、多分ハルナさんのことだと思うなキール見た途端逃げようとしてマントの裾踏んづけてすっ転んだ君じゃないと思うよ。


「……勇者よ、こ奴らを倒せば、我を封じたこの空間から解放するという契約は、間違いないな」


「間違いありません、魔王キール。その契約で、私は貴方をこの空間に封じた」


 安久都先生……博の迫力が半端ないものとなる。


 やっぱりか。


 博は現役の勇者。


 そうでなければ魔王を相手にここまで動揺せずにいられるはずがない。


 さっきから空気がビリビリして、オレも逃げ出したいのを必死でガマンしているし、土田のおっさんは威圧感に負けて椅子をできるだけ引いてるし、那由多くんは転んで起きられないまま。


 ハルナさんだけが、腰のポーチと一緒に吊るしてある短剣に手をやって、ギッとキールを睨んでた。


「ククッ……勇者も酔狂なことだ。我を倒しながらとどめを刺さず封印して、このような弱き者どもの相手をしろとは」


 キールは肩を竦めて両手を広げた。


「まあいい。いつでも挑んでくるがいい。どうせ我はここに囚われし者。貴様らの児戯じぎに付き合ってやるもまた一興……」


 すぅ、と渦に白い色が混じった。


 キールの姿が遠ざかり、渦は黒から白へとグラデーションのように変わっていき、再び、ただのホワイトボードに変わった。


「えー……と」


 威圧感から解放されて一息ついて、オレは聞いた。


「もしかして、あれが、卒業資格?」


「はい。かつて私が倒した異世界の魔王、キールです」


「あれを、倒せと、言う、のかね?」


「はい」


 土田のおっさんの言葉に、博……安久都先生はにっこりの笑顔付きで頷いた。


「む、無理だよ、無理無理無理」


 青ざめた土田のおっさんが必死で首を振る。


「あれは人間が相手していいものじゃないよ。いや、一年で倒せるようになるなんて」


「卒業生は、皆、そのミッションをクリアしていきました」


 涼しい顔をして、安久都先生。


「魔王キールは、本人の前では言えませんが、魔王としては半端者です。魔王の卵と言ってもいい。その上力を弱らせる封印がしてあります。更にはこの空間に封印されているので、あちらから手を出すことはできません」


「魔王を倒せ、そう言うことですか」


「はい、風岡さんは理解が早くて助かります。ですが、開けるのは四人が同意した時だけです」


「誰かが反対した場合は」


「開けられません。魔王キールは卒業試験用に封印されたとはいえ、勇者新入生の貴方達には十分な強敵です。四人揃って力を合わせないと勝てません。風岡さんは自信があるようですが、そのナイフ……いえ、ダガー一振りで戦える程魔王は甘くはありません」


「質問」


 オレも手を挙げた。


「魔王と戦うのは、いつになりますか」


「いつでも」


「いつでもぉ?」


 土田のおっさんの声がひっくり返る。


「強くなったと思った時、いつでも四人揃って申請してください。勝ち目がないと判断した場合は空間を強制封印しますので」


「オレたちを倒したら解放する、そう言う約束だったんじゃ」


「そう言う契約です。が、勇者候補をあっさり倒されてしまったら困るのは私たちであり日本と言う国であるからには、多少卑怯な手も使います。期日までにキールを倒し、勇者となって卒業してください。半端者の卵と言っても魔王は魔王、勇者の称号は間違いなく与えられますから」


 レベルアップするしかないかあ……。


 と、そうだ。


「ステータスやなんかを見るにはどうすればいいんですか」


「そんなものありません」


 ないぃ?!

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