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第13話・現実は過酷だった

 普通、こういうシチュエーションでは、自分のステータスとかスキルとかが見れるはず。


 なのに、それがないとは。


「それじゃあ、レベルとか分からないじゃねーか! カンストしても気付かないってわけか?!」


「かんすと?」


「あ、カウンターストップ、数がこれ以上増えないって」


 土田のおっさんにフォローしてから、オレは食って掛かった。


「普通ならレベル幾つで中ボス挑むとか、そう言う基準があるだろ?! 分からないまま魔王と戦えってのか!!」


「はい、そうです」


 博は先生の顔を崩さずに頷いた。


「普通、生きていて、自分の能力値がどのくらいで、後どれだけ経験値を溜めたら次の町まで行けるか、なんてことを考えたことなどないでしょう。勇者と言い魔王を倒すと言いますが、これは現実です。現実世界にゲームや小説の話を持ち込まないでください」


 ……やべぇな。


 一般人が勇者になるって言う小説や、ゲームでは、主人公は自分のステータスを確認できる。例えば武器のプラス数値とか覚えた呪文とか能力値とか次のレベルアップはいくつだとか。


 うん、確かにこれは現実だよ。内閣総理大臣まで出してきて人をからかう悪趣味なイベントじゃなきゃ、オレが選んで受け入れた現実だよ。


 でも、勇者っていうからには、ゲームみたいなもんだと思ってた。


 あ、いや、まだ希望はある。


「能力値とかは先生とかは把握してんのか?」


「筋力や瞬発力、持久力と言った数値」


 オレは……たっぷり十秒絶句した後、恐る恐る問いかけた。


「じゃあ……オレたちに基準となるステータスはない。てか、強さの基準、レベルそのものがないってことか?」


「普通自分のレベルを考えて生きる人間はいないでしょう」


 うわあ。ガチだ。


 勇者何て言うからゲーム世界みたいなもんだと思ってたけど、これガッチガチの現実だ。


 レベルが上がったから魔王と戦おう、じゃない。勇者の装備を手に入れたから魔王と戦おう、でもない。


 自分の調子を確認して、自分の肉体や精神状態を把握して、その上で全員大丈夫だから魔王と戦おう、になるんだ。


 ……ヤベエ。


 現実過ぎて涙が出てくるよ、レベルもスキルもステータスもないって、こんなに怖い事だったのか。


「僕の本来のレベルは9999だ」


 ……もう復活したのね那由多くん。


「僕が力に覚醒すれば、あんな魔王など……!」


「まだ懲りてませんね、大沢さん」


 やれやれと言う響きの混じったひろ……安久都先生の言葉。


「ここでは覚醒する力はありませんし、異世界だけで使える力もありません。肉体を一から鍛え、自分で成長度合いを把握し、どれだけ伸びしろがあるかを確認するのです。二十分の起立に耐え切れない今の君が、魔王との戦いに肩を並べられるとは思えない」


「この学校にあるはずの元素マテリアルを集めて深淵の扉を開けば……!」


「じゃあ学校の何処からでも好きなものを持ってきてください。このホワイトボードの扉をいつでも開きます。そこで君がどんなになるか科全員で見守ります。魔王キールは封印されていても魔王、君の妄想するより恐ろしい相手だと、気付いていたはずですよ」


 だろうねえ、逃げようとしてマントの裾踏んですっ転んでそのまま動けなかったんだもんなあ。


 魔王の威圧感と圧迫感と逃げ出そうとした自分を思い出したのか、那由多くんは机に突っ伏した。そ

のまま拳でごんごんと机をたたく。


 それにしても、深淵の扉、ね。地下への扉とかじゃなく教室のホワイトボードってのがシュールだわ。


「つまり、だ」


 オレは椅子に座った。


「自分を客観視できるものは何もない、自分で把握しろ、そう言うこったな?」


「そうです」


「それで、ここにいる全員で、一年以内にあの魔王を倒せる可能性はあると思ってるか?」


「なければ入学させていません」


「卒業の可能性があるから入学させたと?」


「その通りです」


 オレは椅子に深く深く座って足を組んだ。


「つまり、期待はされてるわけだ」


「ええ、期待しています。そもそもこの学校のパンフレットも、各斡旋所を通じて、希望の在りそうな者にしか渡さないということになっています。パンフレットを渡された時点で、皆さんは勇者になる可能性が僅かにでもあると認められたわけです」


 ああ、じゃあ安久都先生……博がオレにパンフを渡したのは。


 オレに、ささやかでも、勇者になれる可能性があるって認めたからなのか?


 ゲームが好きなら、って理由だった気もするけれど。


 そうでなければ、今頃オレはスーツ一着で路頭に迷ってた。


 それは感謝しなきゃいけねえな。


「先生、質問です」


 それまで黙っていたハルナさんが手を挙げた。


「はい、風岡さん」


「訓練校の教員は全員現役或いは一線を引退した勇者とお聞きしましたが」


「はい、そうです。私も現役の勇者ですが、今年一年教員を任されました」


「それでは、先生のクリアしたミッションはどんなものですか?」


 おお。ハルナさん、グッジョブ。


 先生になるほどだ、博は相当強いってことになる。


「魔王キールを封印したこと。ハレードの群星盗賊団の打倒。アキラスカの反乱鎮圧。惑星ボンブ救助、こまごまとしたものならまだありますが、大きなものではこの四つですね」


 ……分からん。固有名詞が理解できないからどれだけすごいことか分からん。


 だけど、魔王キールは実際にこの目で見たから分かる。


 多分、博が戦ったのは本来の力を発揮していた魔王だ。


 それを弱らせ、このホワイトボードの奥に封じ込め、魔王からは出てこようとしても出てこれないようにしているとは。


 ……なあ、博。


 お前、十年間離れてた間に何してきたんだ?


「では、先生」


 ハルナさんは腰のナイフを引き抜く。


 まさか!?


「一戦、お相手願います」


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