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【破―⑥】


 これは結末なのだろう。


「本当にこんな終わりを望んでていたのか?」



 目の前で、自分と同じ顔の人間が、今にも暴れ出しそうに怒りをあらわにしていた。


 何故復讐をやめるんだと。本心の邪魔をするのだと。これは正当なる反撃の権利だ。そうやって心の激流の矛先を決めなくてはならないんだと言っていた。この内から湧き出てくる憤りを収めるには吐き出すしかないんだと。


 わかってる。僕にだってわかってる。でもそれは、僕の嫌いな事だ。


「ダメなんだ。


 例え誰かを傷つけて自分が喜んだって、僕の心は絶対に満たされない。


 お前だってわかってたんだろう?


 こんな事をしたってどの道、何にもなりはしない事くらい……。僕は誰かが傷つく姿なんて見たくないんだ。あのクラスメイトだって、自分の家族や友達が傷つくのなんて、きっと嫌だろう。


 他にも、傷つけた人の中にはいろんな人がいて、その人が傷つくと周りで悲しむ人がいて……。そんなのは嫌なんだ。思い出すじゃないか。


 自分だって同じ経験があるんだから……わかるだろう?


 お前が僕自身だっていうんなら、この悲しいって気持ちが、わかるはずなんだ」



 身近な人がいなくなったり、傷ついてしまったり、その度に悲しみは波紋の様に周囲に広がってしまう。僕はそんなもの、見たくもないし、聞きたくもない。ましてや創りだしたいなんて、考えたくもない。



「そうやって、逃げるのか?


 自分の手を汚したくないから……自分でやるのが嫌だから、そうやって自分自身すらも分離して、他人という自分に全てを押し付けたってか?」



 そう思われても、仕方がない。


 結局僕のやっていた事は全部、他力本願の良い所取りなんだ。卑怯だよな。



「ごめん、本当にごめん。僕の……所為だ。お前は何にも悪くない。悪いのは、弱かった僕だ。全部お前に押し付けて逃げた僕の責任だ。だから多くの人を苦しめた責任は、僕に取らせてくれないか?」



「責任だと?」



「そう、今回の件で起きた罪を、僕が全て引き受ける。お前は一切関係なかったんだ。いや、違うな。僕が表に立ってお前を庇う。お前が嫌だと思う全部、僕が引き受けるよ」


 それしか、思いつくものが無かった。僕にできる罪滅ぼしなんて、これくらいだろう。


「……なに気取って言ってんだよ。お前、やっぱり何もわかってない」


 と、凄い怒りを通り越して呆れた溜息と一緒にバカにされた。何だ、何がいけなかったんだ。


「いや、俺も言い過ぎた。そもそも、同一体なのに、何をお前の所為だの、責任だの言ってんだろうな。結局俺たちは一緒なのにさ」


 静かに、落ち着いた様子で、あるいは何かを諦めた様子で、受け入れるようにとでも言うべきなのか、とにかく……もう何かを破壊しようとはしていなかった。


「忘れていたよ。元々無理な話だったんだな。


 お前が……いや、俺たちがこんな性分なのは、さ。本物の優しさなんて、なにもわからない。


 人に優しくされた記憶なんて、ほとんどなかったからさ。けど、人を傷つけるのだけはいけないんだって。


 それだけはハッキリしてるんだよな。ああ、認めるよ。俺もお前に余計なモノを押し付けて、独りで暴れてた。俺も人の事は言えないな」


 なんだよそれ。じゃあ結局、僕ら二人とも悪いってことじゃあないか。というか、そう言う見解も、もはや違うんだよな。目の前の僕も同じ考えをしているに違いなかった。



「いい加減、元に戻るか。一人に戻れば、どっちの責任ってのも無いだろ」



 同意見、と言いかけたその場で目の前の僕は消えていた。


 ただそこには自分の中の黒い感情があったんだという実感だけが残っていた。ありがとう、自分自身だったけれど、そう言うべきだった。それが言えずに少し変なしこりだけが残っていた。



「ま、他人事じゃなんだけどな」


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