【急―①】
息を吹き返すような感じがした。
自分は今まで死んでいたんじゃないのかと思っている程、長く眠っていた気がする。
そして思うのは違和感だ。
今の自分は妙にすっきりとしていた。なんだか今まで感じていた汚れとか、疲れたものとか、今は全然感じることがなかった。いままでにこんな気分を味わったことがなかった。
ベットの上で上体を起こすと、体はすんなりと起き上がった。初めて見る場所なのに、不思議と知っている空間だった。まあ、病室ならどこも大して変わらないだろうから、そう思うのは当然かもしれないけれど。
「グッドタイミングだねぇ」
空いた扉に背を預けて立っていたのは、長い銀髪に深碧の長いコートを着た姿の女性だった。今更だがこんな格好をした人はそうはないだろう。
記憶にしっかりと残っているので思い出すのは容易だった。確か空澄ヒカリと名乗っていた人物だ。ただし、記憶の中の彼女は目の前の女性ほど、荒れた形相とは違うような気がした。
「えっと……ヒカリさんですか?」
すると彼女は「あぁ」と気怠そうに返事をすると、目の下がまっ黒になった顔をこちらに向けた。恩人に対してこんな事をいうのもなんだが、正直な感想として不気味だった。
そんなヒカリさんは、隣の開いているベットにもぐりこみ、そして声を出さずにあくびをしていた。
「おやすみなさぁい」
「あの、ここ病室じゃないんですか?」
「…………すぅ」
眠ってしまった。一体何があったというのだろうか……とベットテーブルの上に、えんぴつで書置きされた紙を見つけた。
明らかに自分に宛てた物だろうから、先にこちらに目を通す事にした。
『お目覚めかな、優真くん。
疲れていただろうから、とりあえず自分の体を第一に考えて骨を休めてほしい。
その間に私は蔵井町の住人たちを元に戻してみる。
心世界で死んだ魂は霧散して消えてしまうものだが、今回キミは上空に雲として溜めていた。
あれによって、本来は自然消滅するべきはずの精神の記憶がほぼ消滅せずに保管されていたことになる。
若干、データが混同していて一人ひとりをサルベージするのが大変だろうが、復元は可能だろう。作業に少し時間がいるだろうから、たぶん五日間かな。
それくらいで私は戻るよ。それまでしばらく休んでいてくれ』
短い置手紙を読み終えると大方の現状がわかった。
ヒカリさんの状況からして、本当に五日間頑張って、町の人間を元に戻していったのだろう。これではヒカリさんに頭が上がらない。どう恩返ししていいのかわからないが、とにかく今はヒカリさんが目を覚ますのをゆっくりと待つことにした。




