百三十六段 オペレーション開始だ
「……糞……シギル。冗談だろ……?」
「じょ、冗談なんか言える立場なの? 汚物のくせして……」
「……シギル先輩……悪質な冗談言っちゃっていいの……?」
「……冗談じゃないって」
ルファスたちは俺が冗談を言っていると思っているようだが、明らかに勢いが落ちてるってことは少しは信じてるっぽいな。さすがは俺の元仲間……というわけでオペレーション開始だ。
『《微小転移》――』
まずはエルジェの眼球を摘出する。
「ぎっ!?」
お、勢いよくポーンと出たな。砂浜に赤みのある真珠が二つ転がって輝いている。とても綺麗だ……。
「……がっ……?」
立て続けにビレントの両足を折ってやった。切断してしまうと出血量も多くなってその分死にやすくなる。それじゃ楽しめない。
「……え、あ……?」
ルファスのやつ、何ぼーっとしてんだよ……。お前には存分に暴れさせようって思って何もしなかったのに、これじゃつまらんだろ。というわけで一時的にその場を離れてやった。
「ひ、《ヒール》!《サンクチュアリ》!」
ルファスたちが光に包まれる。
ビレント、遅いって……。俺がエルジェの眼球を取り出した瞬間やらなきゃダメだろ……。
圧倒的に差がありすぎて相手を応援してしまうレベルだ。足を折られながらも魔法を唱えることができたのはよかったがまだまだ甘い。しかも《サンクチュアリ》を使っている間はほかの聖属性攻撃魔法が使えなくなるんだ。これ熟練度が上がると威力や範囲は増す分、効果時間も長くなるんだよな……。
「あああああああっ!」
「……おっ……」
エルジェが顔を手で押さえながら《ウォータークラッシュ》を撃ってきた。もちろん明後日の方向に飛んでいったから当たるわけもないんだが……。
懲りずにどんどん撃ってくるが、俺は一度もかわす必要がなかった。赤線まで行って無効化される魔法をぼんやりと眺めてるだけだ。エルジェ、すっかりノーコンになっちゃったな。これじゃラユルのほうが上だ。
「どこ狙ってんだよノーコン!」
「汚物ううぅぅ!」
今度は俺の声がヒントになったのかちゃんとこっちに魔法を放ってきた。余裕でかわしたが、目を失った割にやるじゃないか。偉い偉い……。というかビレントがちゃんと指示してやればいいのに。痛くてそれどころじゃないか?
「――シ……シギルウウウウウウウウウ!」
やっとルファスが目覚めてくれたようだ。メモリーフォンの武器欄からアイスソードを取り出すかと思いきや、両手に黒塗りの短剣を握りしめて攻撃してきた。
なるほど、やつが本気を出すと二刀流になるわけか。しかもあの短剣、アサシンダガーだな。上位階層のボスがドロップする闇属性のレア武器だ。同じ闇属性や不死属性のアンデッドには効果がないが、近くにいる敵を呪い状態にする効果があり、欠けたとしても己の精神力を消耗することで即元通りにすることができるんだ。アイスソードもそうだが、よく武器を壊してきたあいつにはぴったりだな。
「シギル! 死ねっ、死ねえええええっ!」
「……」
……ただ、こんなの闇雲に振り回すだけじゃ俺は死なないぞ。呪い状態で動きが鈍くなったが、《微小転移》で移動する俺には影響がないからな。
「《クイックムーブ》!」
お、ビレントやつ抜け目がないじゃないか。ルファスの持ち味である《双性剣》も相俟って、武器を持った腕が幾つもあるようにすら見える。
「《ラッシュアタック》!」
狂ったようにエルジェの魔法があっちこっち飛び交う中、ルファスが遂に最後の手段を使ってきた。
凄まじい。まさに暴力的なスピードで俺を捕えようとしてくる。それも刃の鎧を纏って……。まさに全身凶器。
でもまったく脅威を感じないな。広い空間で棘だらけの岩が迫ってくる感覚。これじゃクエスのほうが圧倒的に強い。なんていうか全てが予測できる範囲内なんだ。
「この野郎! 逃げるだけか!」
ルファスのやつ、余裕が出てきたのか喋り始めた。どうやら俺が逃げてるだけだと思ってるらしい。なら面白いことをしてやろう。
やつの右手の指を一本飛ばしてやった。まずは小指からだ。それでも興奮状態にあるのかまだ気付いた様子はない。
「……ぐっ!?」
今度は薬指、中指二本同時に飛ばしてやると、ルファスはさすがに顔色を変えてアサシンダガーを一つ落としてしまった。しかも自分の血まみれの手を見て動きが止まっている。おいおい、隙だらけだぞ。どうするのかと思ったら、今度はアイスソードを出してきた。なるほど、左手で握って右手は添えるだけか。
「うらあああああああああああああああっ!」
……やかましいやつだ。こいつは大声を出せば勝てるとでも思ってるのか? もう面倒だから両手首を飛ばしてやった。
「ぬがああああっ!」
アイスソードを落とし、両腕を抱え込むようにして砂浜にうずくまるルファス。とうとう諦めたか……と思いきや、すぐに起き上がって体当たりしてきた。大した根性だ。それだけは認めてやろう。しばらく何度か突進してきたあと、もう限界なのか倒れてしまった。
「……ルファス、どうした? もう終わりか?」
ルファスの胸ぐらを掴んで起こしてやる。
「殴れるもんなら殴ってみろ。あ、拳はもうなかったか」
「……シギル、俺の負けだ……」
「へえ、認めるのか……はっ……」
ルファスのやつ、何を思ったのか両足で俺の体を挟み込んできた。
「エルジェ! ビレント! 糞シギルを捕まえた! 今だ!」
なるほど、こいつのやかましい声を頼りにエルジェとビレントに魔法を撃たせようというのだろう。考えたものだ。とはいえ、ビレントの出した《サンクチュアリ》の光は薄くなってるもののまだ解除されてないから、一方は攻撃できないけどな……。