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百三十五話 折角のお祭りをすぐ終わらせてしまうのはもったいない


 こんなに幸福な気持ちでメモリーフォンを弄るのは初めてだ……。


《イリーガルスペル》《微小転移》《小転移》《集中力向上》《マインドキャスト》……スキル構成はこれでいいな。《念視》はもう必要ない。


《小転移》はもしものときのための回避用だ。近くでいきなり《サンクチュアリ》とかやられたら《微小転移》じゃ回避できないからな。


 続いてパーティー【ディバインクロス】を抜けると、【シギルとレイド】のソロパーティーを作った。ようやく自分の居場所に戻ったみたいで心地いい。あとは武器欄から瞑想の杖を取り出して準備完了だ。


 真っ青な空の下、俺は震えていた。温暖な気候のビーチなのにもかかわらずだ。これが武者震いというやつだろうか。


 今日も六十階層は冒険者で溢れ返っていたが、転送部屋の後方にある赤線に囲まれたこの決闘ゾーンだけは、俺たちを除いて誰も近寄る気配はなかった。ちらほらと見てくるやつはいたが、最高到達者レジェンドであっても、ビーチで遊ぶ者たちの前では障害物同然なのかもしれない。


 とにかく、ここなら誰にも邪魔されることはない。思う存分、暴れることができる。


「……グリフ……」

「ひぃ……」


 グリフを睨みつけてやると、やつはガクガク震え出した。


「お、おい、わかってるだろうな、糞シギル。もしグリフを殺したらセリスは……」

「……」

「おい、はっきりしろ!」

「わ、わかっています……」

「……へっ。グリフにだけは威勢よくしやがって。ヘタレが……」


 ルファスが胸ぐらを掴んできたので怯える振りをすると、やつはよほど気分がよかったのか愉悦に満ちた顔をしていた。


 俺としては今すぐにでもこいつらを皆殺しにしたくてしょうがないんだが、すぐには殺さない。これは俺にとって最高のお祭りだからだ。折角のお祭りをすぐ終わらせてしまうのはもったいないだろう。


「汚物、さっさと済ませなさいよ。あんたが伝説になるところ、早く見てみたいんだから」

「ホント、想像しただけで間抜けすぎて笑えてきちゃうよ……」

「だねぇ……」

「ホント、笑い死にそうだよなあ。今日、シギルが伝説になっちまう。遠い遠い場所に行っちまう……」

「「ププッ」」


 ……ルファスに加えて、エルジェ、ビレントも俺の気持ちをさらに盛り上げてくれた。まだお祭りはこれからだっていうのに気分は早くも最高潮だ。


『……《微小転移テレポート》!』

「がああああっ!」


 グリフの右腕を肘の部分からぽっきりと折ってやった。今結構いい音したなあ。ボキッっていう太い枝が折れたときに出るような音だった。本当は切断したかったんだけどな。


「「「グリフ!」」」


 ルファス、エルジェ、ビレントの三人が心配そうにグリフの元に駆け寄っている。実に仲間思いなことだ。


「いだあああああぁぁっ!」


 転がり回って砂浜を巻き上げちゃってグリフは大袈裟だなあ……。


「《ヒール》! こほっ、こほっ……グリフ、そんなに暴れたら砂が……」

「……もー、グリフ、じっとしてなさいよ、ごふっ……」

「けほっ、けほっ……ペッ! グリフ、いい加減にしろ! ぶっ殺すぞ!」

「ひぎい!」


 なんとも愉快な光景だった。ルファスなんて巻き上がる砂に激怒して、慰めるどころかグリフの背中に蹴りを入れちゃってるし相変わらずの沸点の低さだ。こういうのを見られるのも最後だと思うと寂しさもあるが仕方ない……。


 さて、もう少ししたらネタバラシといくか。砂埃の中奇襲なんて面白くないからな。堂々と戦って、そして何もかも余すことなく踏み躙ってやる……。


「ルファス、エルジェ、ビレント……終わりました」

「……ああ? 糞シギル、何呼び捨てしてんだよコラ」

「そうよ汚物、最低でも様付けくらいするべきでしょ?」

「シギル先輩……グリフにお仕置きしたからって、パーティーのカーストじゃ最下層なんだよ? そろそろ自覚しようよ……」

「……はい。すみませんでした……」

「「「あははっ!」」」


 砂埃も収まってきて、やつらの調子も戻ってきたようだ。顔もよく見えるしこのほうが俺にとっても好都合だな。


「ま、こいつはこれから思い知るだろうよ。このパーティーどころか自分より下なんかいないってよ」


 ルファス、最後まで言ってくれるじゃないか。それでこそ落とし甲斐があるってもんだ……。


「そうそう。伝説になるのよ。嬉しい? 汚物」


 エルジェの優越感に満ちた眼差しが降り注いでくる。天国から地獄なんて言葉があるが、それをもうすぐ体感させてやろう。


「シギル先輩、今のお気持ちはどうですかー!?」

「「ブハッ!」」


 ビレントが甲高い声で例の女性アナウンサーの真似をしてエルジェとルファスが噴き出す。まあまあ似てて俺まで笑ってしまった。


「今の気持ちか……最高だな」

「「「へ?」」」


 やつらの呆然とした顔が徐々に怒りで染められていくのがわかる。


「おい、糞シギル。調子に乗ってんじゃねえぞ……。今のでセリスが痛い目に遭うかもな?」

「そうよ。本当におぞましい汚物ね、あんたって……」

「今の気持ちは最低です……って泣きながら言えばよかったのに。笑いのセンスをもう少し鍛えるべきだよ、シギル先輩っ……」

「……」


 みんなよっぽど俺を弄りたいんだな。だが今度は俺がお前たちを弄る番だ。


「セリス? もう助けたぞ……」

「「「……な……」」」


 さっきまでの威勢はなんだったのかと思うくらい、やつらは呆然としていた。

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