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百三十四段 お前たちの運命はもう決まっている


「もうちょっとしてから行こうか、グリフ」

「は、はいであります」


 午前十時が近付いてきて、ようやく俺とグリフは溜まり場をあとにしようと考え始めたところだ。このままじゃ遅刻するが、これも演出の一つだ。あいつらのところに行くにも重い足取りじゃなきゃ勘付かれるかもしれないしな。


「師匠ぉ、私わくわくしながら待ってます!」

「ああ。ラユル、お利口さんにしてるんだぞ」

「あうっ……」


 ラユルのおでこを軽くチョップしてやった。俺の中でこれが集中力を高める儀式ルーチンみたいになってしまってる。


「シギルさん、それにグリフも、期待してるよ!」

「は、はいであります」

「ああ、アシェリ。果報は寝て待てだ」

「あはっ! ふああ……」


 アシェリ、眠くてしょうがないだろうに今日はよく我慢してくれてる。


「ご健闘、お祈りしております、シギルどの……」

「ああ。リリム、今までよく重いものを支えてくれた」

「いえいえ、これも厳しい修行の一環です。くくっ……失礼」


 上手く返されたな。こりゃ参った……。


「シギル様、必ずあいつらをやっつけちゃってくださいね」

「ああ。ティアも悔しかっただろうが、その分も晴らしてやる」

「はい……」


 ティアのやつ、両手を合わせて涙ぐんでる。もう自分の世界に入っちゃってる感じだな。


「シギルさん、いよいよね」

「ああ。アローネ、お前にも苦労させたな」

「シギルさんの苦労には到底及ばないけどね。今日全部報われると思うと本当に気分いいわよ。思う存分、暴れちゃって……」

「ああ……」


 アローネの鋭い視線を目でキャッチして笑い返してやった。


「シギルお兄ちゃん、グリフおじさん、絶対帰ってきてね!」

「ウニャアー」


 セリスがミミルを抱えて近寄ってきたので一緒に頭を撫でてやった。


「ああ、セリス、ミミル。約束する。な、グリフおじさん」

「は、はいでありまあす!」


 みんなの笑い声が上がる中、午前十時を知らせる鐘の音が割り込んできた。いよいよ時間だ……。






 ◆◆◆






「おい、おせーぞ糞シギル」

「遅すぎでしょ汚物」

「だらしないなー、シギル先輩は……」

「……すみません……」


 俺は憂鬱な表情を作って頭を下げた。ちらっと上目遣いで見てみたが、あいつら本当に嬉しそうな顔でベンチに座っている。


「糞シギル。今日、お前は伝説になる。嬉しいか?」

「……」

「早く返事しろ! 嬉しいって言わなきゃセリスがどうなるかわかってんだろうな!?」

「……嬉しいです」

「「「あはは!」」」


 ……今のうちに好きなだけ笑うがいい。お前たちの運命はもう決まっている。


「……あ……て、てめえなんで……」


 ルファスが驚いた顔で立ち上がるのがわかる。俺との打ち合わせ通り、グリフが少し遅れてやってきたんだ。


「え、グリフ、なんで来たのよ。辞めるんじゃなかったの?」

「グリフ、やっぱり僕たちのところに戻りたくなったんだね……」


 エルジェ、ビレントも同様に立ち上がってグリフのほうを見ている。やつらもさすがに予想してなかった事態らしい。


「……ぐ、グリフ……?」


 俺も振り返って露骨に驚いてみせた。


「……ど、どうも……」

「どうもじゃねえよ、心配したんだぞグリフ!」

「そうよ……もう、涙出ちゃうじゃない……」

「僕も……」


 あれだけいじめておいてよくそんなことが言えるもんだ。


「や、やっぱり自分はここが居場所なんだって思ったのであります……」


 グリフ、かなりびびってるが、あのとき泣いたことで目が赤いし迫真の演技に見える。これなら怪しまれることもないだろう……。


「……なんで……」


 俺は声を震わせてみせた。やつらが一斉にこっちを向くのがわかる


「なんで俺がグリフなんかと一緒に組まなきゃいけないんだ……。そいつはセリスを誘拐犯に渡したんだぞ……」

「……おい糞シギル、お前そんな偉そうなこと言える身分じゃねえだろうが」

「そうよ汚物。立場をわきまえなさいよ。あんたは一番下なのよ」

「そうだよ先輩。この世に先輩より下はいないよ。今日、それがよくわかると思うよっ……」

「「ププッ……」」

「……ぐ、ぐぐ……」


 俺が両手を握りしめて項垂れると、やつらはさらに声を弾ませた。我ながらなかなかの演技力だと思う。本当の勝負はここからだけどな。


「う、ううぅ……」


 俺は両手で頭を抱えて唸ってみせた。


「おい、なんだ?」

「どうしたのこの汚物」

「さぁ……」

「……ぎぎ……嫌だ、嫌だ……」


 俺はうずくまって頭を掻きむしった。


「……お、おい、狂っちまったんじゃねえのこいつ……」

「えー、やだ。それじゃ面白くないじゃない」

「《ヒール》! 先輩、まだ壊れたらダメだって……」

「……グリフ、殺したい……」


 俺は頭を上げてグリフを睨みつけた。


「……ひっ……」


 グリフが青ざめるのがわかる。多分、あれは演技じゃないな。俺もかなり殺意を込めたから……。


「殺す……? んなことできるわけねえだろうが!」

「そうよ、調子に乗るんじゃないわよ汚物!」

「少しは大人になろうよ、先輩……」

「……ぎぎ……腕一本だけでも……いいんだ……」


 俺はまたしてもうずくまって頭を掻きむしってみせた。


「……執念深いやつ。ホント気持ち悪っ……」


 文句を言ってくるのはエルジェだけだ。いける……。


「けどよ、これから面白いことやろうってんのにマジでキチガイになられても困るぜ」

「《ヒール》! そうだね。……ねえ、腕一本くらい折らせてあげてよ、グリフ」

「……そ、そんなっ……」


 ここで簡単に了承してしまうとグリフらしくないからな。上手くやってくれている。


「おい、エルジェ。お前からもお願いしろよ。仕方ねえだろ。腕一本程度ならよ」

「……はあ。わかったわよ。グリフ、お願い。……あとでサービスしてあげるから……うっふん……」

「……」


 目の前でセクシーポーズを取るエルジェ。今、演技じゃなく本当に俺は狂いかけた。気持ち悪さのあまり……。


「……う、うぅ。ぎぎぎ……」

「おいグリフ、このままじゃやべーんだよ。シギルが狂う前にさっさとやれってんだよ!」

「……わ、わかったであります!」


 想定外の事態も含め、ルファスが胸ぐらを掴んでからグリフの怯えた台詞が飛び出す一連の流れ、あまりにも完璧だった……。

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