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百三十三段 俄雨に打たれたみたいにびしょ濡れだった


話数も残りわずかとなってまいりました。

いよいよ明日完結予定です。


ブクマ評価等、頂けるなら嬉しいです。

もうそれらをしてくださった方、本当にありがとうございます。

励みになるのでこれからもよろしくお願いします。


《念視》で黒猫ミミルの体内を確認したら、とにかく酷いもんだった。生きているのが奇跡的だと思えるくらいだ。ぐにゃりと折れ曲がった骨の一部が内臓に突き刺さって出血している……。


「《微小転移テレポート》――!」


 なるべく元通りにしたつもりだ。少なくとも痛みはマシになったはず。


「《ヒール》! ……ふぅ……」

「ティア、本当にご苦労だったな。ありがとう。俺ももうやることはやったよ。これであとはミミルの体力次第だ」

「はい、シギル様……」


 みんな固唾を呑んで見守っている様子だった。特にリセスは声を掛けることすら憚られるほどに憔悴しているのが見て取れた。


「……ウニ……」

「……あ……」


 しばらくしてミミルが目覚めた。骨を元の位置に戻したことで内臓からの出血も大分止まってるし、経過は良好なようだ。


「ひと山越えたな。しばらく安静にしとけばもう大丈夫なはずだ……」


 正直俺の力でも助かるかどうかは五分五分だったと思う。それでもこうしてミミルがまた目覚めることができたのは、みんなの祈りが通じたからだろう。


「さすが師匠ぉ! ミミルさん、よかったですぅ!」

「どうなることかと思ったよ! ふわあ……」

「アシェリどのは、こんなときに欠伸とは……」

「緊張感なさすぎですね……」

「まあまあ、こんな時間だもの」


 さっきまでの暗い空気が嘘みたいだ。ラユルもアシェリもリリムもアローネもみんな笑って……あれ? リセスはなんで項垂れてるんだと思ったら……。ぽたぽたと雫が足元に落ちていた。


「まさか、泣いてるのか……」

「……うん。嬉しくて。これが涙なんだね、シギル兄さん……」


 リセスの顔はまるで俄雨に打たれたみたいにびしょ濡れだった。


「……最初に流す涙が嬉し涙でよかったな」

「……うん」


 リセスをそっと抱きしめてやると、感動したのか周りの空気がまた湿ってしまった。まったく、今日の天気はとても変わりやすいな。リセスはよっぽど疲れていたのかそのまま寝てしまってる。


「いたく感動しました、シギル様」

「……え、誰……」


 いきなり頬傷の男がひざまずいてきて、心臓が口から飛び出しそうだった。


「僕はレイド様の助手のリカルドと申します。どうかお見知りおきを」

「……あ、ああ。よろしく……」


 なんというか、頬の傷や美麗な顔が印象的に見えるのに妙に存在感が希薄な男だ……。そういえば、レイドがクエスとやり合ってるときに知り合いがどうの言っていたから、多分彼がそうなんだろう。


「……あ……」


 気が付くともう夜が明けようとしていた。まるで俺たちの気持ちを表してるかのようだ。セリスとミミルを助けることができたし、これでやっとすべてを終わらせることができる……。






 ◆◆◆






 セリスを助けたことがルファスたちにバレないよう、溜まり場の個室の中に隠しておいた。


 ミミルはラユルたちからミルクを貰ってすっかり元気になっている。元々体が大きくて体力があったのもよかったんだろう。


 俺はリカルドという男の仲間が出来て正直喜んでたんだが、彼はセリスのほかにも誘拐されていた子供たちを解放するべく一旦町に戻るとのことだ。


 さあ、あとはルファスたちをどう始末するかだ。このままだと百十二階層で復讐を遂げることになるわけだが、百十一階層とは打って変わってアクティブっぽいモンスターがうようよしてたんだよな。人の子サイズの幅広の剣に目や口がついてて動きも俊敏だった。


 どうせだから復讐も誰にも邪魔されずにじっくりやりたい。どこがいいかな。場所を決めたとして、そこにあいつらを誘う理由も考えないといけない……。


「し、師匠ぉ、後ろ……」

「ん、ラユルどうし……」


 ラユルの言葉で振り返った際、視界に入れたくないのにそれは入ってきた。リカルドとは対照的に存在感が突出した男がそこにいたのだ。


「……何しにきたんだよ、お前……」

「……申し訳ないのであります……」


 いきなり土下座するグリフ。頭に幾重にも巻かれた包帯も痛々しい。


「謝りに来たんなら、絶対許さないから……」

「……それで結構なのであります。ただ謝りたいのであります。冒険者を辞める前に……」

「お前、辞めるって……俺から逃げる気かよ……」

「……もしそれで許されないのであれば、この命をシギルどのに引き渡す覚悟であります……」

「……ふざけるなよ。やつらの指示とはいえ、セリスまで誘拐しておいて許せるわけ……」

「シギルお兄ちゃん、もう許してあげて……」

「……リセス……?」


 寝ていたはずのリセスが個室から飛び出してきた。


「今はセリスだよ」

「あ……」


 そうか、セリスが起きてきたのか……。


「セリス、おかえり……」

「「「「「おかえりなさい!」」」」」

「ただいま! シギルお兄ちゃん、ラユルちゃん、アシェリさん、リリムさん、ティアさん、アローネお姉さん……みんなに迷惑かけちゃって、本当にごめんなさい……」

「いや、いいんだよ。悪いのはグリフを含む誘拐に関わった連中なんだし」


 みんなも同じ気持ちだったのか一様にうなずいていた。


「うん……でもね、私、わかるの。グリフおじさん、悪い人じゃないよ……」

「……うぐっ……セリスどの、違うのであります。自分は大悪党であります……。シギルどのには本当に酷いことを……。だから処刑されても文句は言えないのであります……」


 顔を上げたグリフの顔は涙と鼻水でびしょびしょになっていた。


「……」


 卑怯だろ。こんなの……。許せないって言えるような空気かよ……。ん、待てよ。こいつ使えるな。


「……わかった。グリフ。セリスに免じて命までは奪わない。だが、条件がある」

「……条件……?」

「ああ。ちょっと痛い思いはするがな……」


 ルファスたちの処刑方法に頭を悩ませてたんだが、ついさっき良い案が浮かんだ。これで復讐の舞台は完全に整った……。

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