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百三十段 本気で頭が変になりそうだ


「クソガキども、逃げたらマジでぶち殺すからな!」

「「「「はーい!」」」」

「ったく、いちいちうるせえクソガキどもだ! おい、また背中に乗ろうとするんじゃねえよ!」


 賑やかなガーディと子供たちのやり取りとは対照的に、その後方ではリカルドと肩に乗ったリセスが静かに会話しながら歩いていた。


「リカルドがまさかこんなところにいるとは思わなかった」

「……それはこっちの台詞ですよレイド様。ご病気で亡くなられていたと思ったのが、まさかこんな形で……」


 リセスにとってリカルドはあくまでも仕事上のパートナーだと思っていたので《憑依》のことは伝えていなかったのだ。ただ、今回は自分の存在を証明するためにも言う必要があった。


「そのようなスキルを持っていながら、どうして僕に連絡をいただけなかったのです?」

「もう殺し屋を辞めるつもりでいたから……」

「……僕は一応あなたの助手だったのですよ、レイド様。せめて一言欲しかった……」

「ごめん。だってリカルドって存在感薄すぎるもの……」

「……確かに、それは僕もそう思います……」


 リカルドはとにかく存在感がなかったが、それが彼の武器でもあった。その上気配を消す力にも長けているため、尾行では彼の右に出る者はいないと断言できるほどだったのだ。


「リカルドのほうこそ、失業したからってあんな男の部下になるなんて……」

「……」

「あなたならあの男の正体くらいわかるでしょ? このままじゃ誘拐された子供たちがどうなっちゃうか……」

「……よく知ってますよ。彼のことは。高齢になったことで以前よりは大人しくなっていますが、基本的にはとても野蛮で危険な人間です。なので最初は断ろうかと思いましたが、すぐに気が変わりました」

「……どうして?」

「僕が断ったところで、誰かがこの仕事を引き受けるだけの話でしょう」

「……じゃあ子供を助けるつもりだったの?」

「レイド様は相変わらず子供のことになると目の色変わりますね」

「……そりゃね」

「助けると言いますが、そんな単純な話じゃないでしょう。彼らの中には身寄りのない子も含まれているのですよ」

「……ここにいたほうが幸せってこと?」

「あの子供たちの様子を見ればわかるでしょう」

「……」


 子供たちはみな逃げるどころか一様に笑顔でガーディにぴったりとくっついていた。


「グランテがあの子たちを殺そうとするなら僕も助けようと考えていますが、残虐な殺し方でないのであれば傍観するのもありかとも思っているのですよ」

「……酷い」

「はははっ。子供たちはまだわからないでしょうが、世の中は平等じゃないですから。悪意と偏見に満ちた現実を生き残っていくには並大抵の精神力がなければなりません。いっそそんなことを知らずに死んだほうが幸せなんじゃないかって考えてしまうこともあります。人生、長く生きていれば辛いことのほうが圧倒的に多いのですから……」

「……相変わらずリカルドは悲観的ね」

「お互いにあまり変わっていないようですね」

「ふふ……そうね。あのガーディっていう男はあなたの弟分なの?」

「そんなところです。口は悪いですが、根は悪くない人物なのですよ」

「……ふーん。じゃあ殺さないほうがいいかな?」

「どっちでもいいですよ。なんなら僕の命も持って行ってください」


 リカルドはとても静かに笑った。


「考えとく……」


 リセスは彼の頬傷を指でなぞりながらぼんやりと呟くのだった。






 ◆◆◆






「いやー、素晴らしい戦いでした! 最高到達者レジェンドのシギルさん、さすがですね!」

「ど、どうも……」


 百十一階層を攻略したあと、最高到達者の俺たちは女性アナウンサーにインタビューされていた。


 中でも俺の素顔が知りたいという一般人や冒険者が多いらしく、放送局がその需要に乗った形とのことだ。なので正直緊張してるが、側にいるルファスたちには一切何も聞かれることなく、しかも一様に面白くなさそうに俺を横目で見ていて愉快だった。ちなみに、この映像はメモリーフォンを所持していてなおかつ街中にいるなら誰でも見られるらしい。


「なんていうか、そんなにお強いのに謙虚な方ですね、シギルさんは……!」

「まあ、どれだけ強くなっても飾るのは自分らしくないかなと。そういう風に考えてます」

「格好いい! 痺れます! 今はあなたに憧れて転移術士テレポーターになる冒険者が増えているらしいですけど、先輩としてアドバイスを!」

「……まず自分を大事にしてください。笑い者にされてあなたが傷つくようなら、それが友達だとしても離れたほうがいいです。効率も大事ですが、それだけに重点を置かずに足元もたまには見ながら歩くことが重要だと思っています。そんな共通の仲間が見つかれば最高ですね」

「――ありがとうございました!」


 取材に来ていたアナウンサーが去ると溜まり場の空気は一変した。ルファスたちの嫌悪感に満ちた眼差しは一層強化されて俺に降り注いできた。まるで酸性雨だ。


「言うじゃねえか糞シギル……。お前、自分の立場わかってんのか?」

「そうよ。あんた自分が汚物だってちゃんと自覚してる? せめて下品なジョークでも飛ばして笑い者になりなさいよ。これ以上あたしたちを不快な気分にさせたら、セリスちゃんが危険な目に遭うかもしれないけど……いいの?」

「ホント、シギル先輩には失望したよ……」

「……」


 本当に、地獄だ。この空間は……。リセス……頼む、早くセリスを解放してくれ……。


「なんとか言えよ糞が!」

「早く言いなさいよ汚物……!」

「はあ。さっさと言おうよ……」

「……じゃあどうすればいいんですか?」

「……明日、百十二階層でボスを倒せばいい」


 おいおい、それだけかよ。


「……別に構わないが」

「よし、言ったな」

「へ? ルファス、それだけ?」

「ルファス? それじゃ面白くないよ……」

「バカ。全裸で倒させるんだよ。リプレイで何度も流れるから最高に屈辱だろ……」

「わお。いいわねぇ、それ……」

「想像しただけで笑える……ププッ……」

「……」


 軽く眩暈がした。もうそろそろ本気で頭が変になりそうだ。こいつらは既に手遅れだが……。

お読みいただいてありがとうございます。

皆様のおかげでいよいよ物語も完結間近になってまいりました。


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