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百二十九段 俺の怒りは天にまで届きそうだった


「よしよし……お姉ちゃんが出てこれないから少しの間寝ててね、ミミル……」

「……ウニ……」


 セリスの膝の上で黒猫のミミルが眠りに落ちていく。


 30分間走り回ったことで疲れたのもあるし、セリスが察して眠らせようと頭や喉を撫でまわしたことが大きかった。その結果、リセスは再びミミルの体をコントロールできるようになった。あとはセリスに《憑依》するだけだ。


「おい、もう行くぞ。何座ってんだクソガキッ」

『……あともう少し……』

「おいなんとか言え!」

「も、もうちょっと待って。ガーディお兄ちゃん。私、足が痛くて立てないの……」

「おいおい……挫いたのか? だ、だったら俺が背負ってやるからよ!」

「「「「わーい!」」」」

「ちょ、お前らのことじゃねえよ! それに全員乗るつもりかよおぉ!」


 ガーディが集まってきた子供たちに圧し潰される中、ついにリセスはセリスへの《憑依》を完了させた。


『……セリス、察してくれてありがとうね』

『私のお姉ちゃんだもん。それより……ごめんなさい。迷惑かけちゃって。みんなにも謝らなきゃ……』

『……騙して誘拐するほうが悪いんだから気にしないの』

『うん……。早くみんなに会いたい……』

『……会えるよ。すぐにね……』


 リセスが目を光らせる。周囲は暗闇に包まれようとしていたが、その鋭い眼差しは遥か遠くを見据えていた。


『シギル兄さん……あいつらと一緒で心苦しいだろうけど、心折れずに待ってて。カタをつけたらすぐ戻るから……』

「ったく……。お前らそんなに元気なら自分で歩けるだろ! おいそこのクソガキ、とっとと俺の背中に乗りやがれっ!」

「……ごめん。私、あの格好いいお兄ちゃんがいい!」


 リセスはガーディの隣にいる頬傷の男リカルドを指差した。


「な、なんだよ、リカルド兄貴にぞっこんなのかよ……」

「……はははっ。そう気を落とすことはありませんよ、ガーディ」

「あー! ガーディ兄ちゃんがセリスちゃんに振られたー!」

「「「やーいやーい!」」」

「……こ、こんのクソガキどもおおお!」


 再び鬼になったガーディが子供たちを追い回す中、リセスはリカルドに向かって凄みのある笑みを見せた。


「……久しぶり。リカルド……」

「……あ、あなたは……」


 リカルドは自分が今誰を見下ろしているのかすぐにわかった。それだけ圧倒的なオーラを彼女は放っていたのだから……。






 ◆◆◆






「チックショウ、何匹いやがるんだ、これ……」

「もーダメ、こんなの無理無理……」

「はぁ……」

「……」


 すっかり暗くなった天空の町の一角にある塔の頂上、エルジェの《フレイムリング》が周囲を埋め尽くした幾多のゾンビたちを照らし出していた。


 やつらはどれだけ倒しても一向に減らずに勢力を伸ばしていたが、俺たちのいる場所まで浮上しようとするも、途中で力尽きるのかことごとく落ちてしまっていた。さすがにいくら頑張ろうとここまでは届きそうにもない。目標を失ったゾンビたちもちらほらいて、あっちこっちに彷徨っているのがわかる。


 最早制限時間間近という状況、こういうときにルファスたちの矛先がどこにいくのかは決まっている。パーティーカーストで最下層にいる俺のほうだ。


「おい糞シギル、てめえのせいなんだからなんとかしろよ!」


 勢いよく俺の胸ぐらを掴んでくるルファス。よく恥ずかしげもなくこんなことが平気で言えるもんだ……。


「汚物じゃ無理でしょ。いくら倒してもどうしようもないんだし……」


 エルジェは気怠そうに座り込んでいる。もう諦めてしまっているんだろう。


「シギル先輩のせいなんだからさ、もう少し申し訳なさそうにしたほうがいいよ……」

「……すみませんでした」


 やつらに対して頭を深々と下げるが、最早俺の怒りは天にまで届きそうだった。なんせボスを激怒バーサク状態にさせた張本人のビレントがこういう姿勢だからな。こいつらの辞書には恥という言葉そのものが載っていないのだと改めて痛感させられる。とはいえ、もう時間はほとんど残ってないので負の感情にばかり浸っているわけにもいかない。早くなんとかしないとこいつらのヘイトもさらに集めてしまうしな……。


 推測だが、ここは百十一階層とはいえ天空ステージの最初の階層なわけで、そんなに凄いからくりはないように思う。おそらくこれはスパイラルピジョン方式で一気にまとめて倒すやり方でいいんじゃないか。よし、やってみよう。


「俺がなんとかしてみます」

「じゃあ今すぐなんとかしろ! 失敗したらただじゃすまさんからな糞シギル!」

「そうよ、汚物なんだからダメだったら死んで詫びなさいよ!」

「シギル先輩っ、死ぬときはせめて僕たちが笑えるようにしてよ!」

「……」


 もうこんな腐った連中にいちいち構ってる暇はない。


 というわけでメモリーフォンを起動して《テレキネシス》《中転移》《イリーガルスペル》《マインドキャスト》という100%のスキル構成にすると、彷徨うゾンビどもを《テレキネシス》で誘導し、元々溜まっていた塔の下にさらに掻き集めて、頂上から《中転移》で一気に粉砕してやった。


 それでもやつらは手足や胴体、頭だけでしばらく動いていたが、やがてことごとく消失して俺たちは祝福の光に包まれた。これで百十一階層攻略ってわけだ。腐った三人と一緒だから全然めでたくないが……。

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