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百二十八段 会話が成立しない


「それじゃ、子供たちを頼んだよ、ガーディ、リカルド」

「へい!」

「了解しました」


 ステッキをついたグランテに笑顔で見送られ、町の外へと出発する監視役の男二人と黒猫ミミル、セリスを含む少年少女たち。町の中で騒げばお仕置きするとガーディに言われているので、子供たちはみな緊張と喜びが入り混じった顔をしていた。


「ウニャー」

「リセスお姉ちゃん、もう少しの我慢だからね……」

「……ウニィ?」


 セリスが抱えたミミルに小声で話しかけるが、今の宿主はミミルでありもうリセスは体を制御できなくなってしまっていた。ついに起きてしまったのだ。


『ミミル、もうちょっとだけでいいから寝ててほしいんだけど……』

『……ウニャー?』


 リセスが藁にも縋る思いで話しかけるが、猫はやはり心の中でも猫であり、言葉はまったく通じなかった。行き場のなくなった彼女の苛立ちは、リカルドという頬傷が目立つ剣士風の男の背中に向けられる。


『……リカルドのバカ。あんな男の部下になってたなんて……』


 華奢で長髪という、一見すれば女性のようですらあるリカルドは殺し屋レイドの助手だった。物静かな雰囲気そのままに気配を消すことに優れており、ダンジョンにおける標的の情報収集係を担当していたのだ。剣士としての腕も相当なものだが、ダンジョン攻略にはほとんど興味がないという一風変わった男だった。


 ――やがて町の外に到着したが、もう辺りは夜の顔を見せ始めていた。


「いいか、よく聞け。暗くなる前にすぐ帰るからなクソガキども。思いっ切り遊べるのは30分だけ――ってお前ら!」


 ガーディの言葉を最後まで聞くことなく、子供たちは黒猫とともに歓声を上げながら各々走り回っていた。それまでいた家の庭も結構な広さを持っていたとはいえ、町の外は別格だったのだ。


「少しでも逃げる気配を見せたら、ぶち殺してやるからな! いいか、皆殺しだぞクソガキども! ……リカルド兄貴もなんか言ってやってくださいよ」

「……僕は怒るのが苦手なのですよ。要は子供たちが逃げないようにすればいいのでしょう?」

「え、まあ――あっ……」


 次の瞬間にはガーディの目が大きく見開かれていた。すぐ近くにいたはずのリカルドが、ここからかなり距離のあった子供たちの輪の中に既に入ってしまっていたのだ。


 それからまもなく彼が鬼役になり子供たちと鬼ごっこを始めたわけだが、スキルも使っていないのに一瞬で全員捕まえてしまった。


「すげえ……。リカルド兄貴速すぎだろ……」

「「「「「はやーい!」」」」」

「はははっ……」


 実際はそこまで速いわけではないのだが、リカルドが気配を消したためにガーディや子供たちにとっては彼があたかも瞬間移動したかのように見えてしまっていたのだ。


「ほらっ、ガーディお兄ちゃんも早く来てよー!」

「え、クソガキども、俺はいいって!」

「「「「「はやくはやくっ!」」」」」

「ちょっ……」


 セリスを筆頭に子供たちに押されるガーディ。次は彼が鬼役になって子供たちを追いかけ始めたのだが、誰も捕まえられずにとうとう倒れてしまった。


「……く、クソガキども、覚えてろよおぉ!」


 あどけない笑い声が次々と上がる中、ガーディの叫び声が虚しく響く。


『……お願い、ミミル。私に体を譲って……』

『……ウニャー?』


 その一方でリセスもまた懸命になっていたが、身軽に跳ね回るミミルの心を捕えることは未だできずにいた……。






 ◆◆◆






 激怒状態のボスが消えた直後、地面から次々と羽衣を着た赤いゾンビが這い出てきた。こりゃ凄い数だ。ボスと同じ姿だし、おそらく分裂したんだろう……。


「ご、ごめん……僕のせいでややこしくしちゃって……」

「仕方ねえよ、ビレント。糞のシギルがそもそも悪い!」

「そうよ、ビレント、気にしないで。みんなこの汚物のせいだわ!」

「……」


 ……なんでそうなるんだ? あれか、ビレントが俺に活躍させまいとしてボスを攻撃したから俺のせいってか。無茶苦茶にもほどがある……。


「うらあああああっ!」

「来ないでよおおお!」

「死んじゃえええ!」


 ルファスたちがばっさばっさとゾンビたちをなぎ倒していくが、減る気配がまったくなかった。倒した分近くですぐ復活してまた襲ってくるような感じなんだ。


 俺はというと、周りを見渡すことなく近寄ってきたゾンビだけ倒していた。足元から伸びてくる手も瞬時に破裂させる。目玉猿のおかげで俺の感知能力は相当鍛えられたからな。


「いやああ!」


 あ……エルジェの足をゾンビが掴んだ。足元湧きしたんだ。


「この野郎!」


 ルファスがゾンビの腕を切断するが、手首だけしつこくエルジェの足首を掴んでいて、まるでその部分が意志を持ってるかのように細い体を一気に駆け上がり、首を絞め始めた。エルジェの顔が見る見る紫色になっていく。なんという力、執念だ……。


「ぐぐっ……」

『《微小転移テレポート》!』


 俺が手首を木っ端微塵にしてやった。こんなところで死なれたら困るからな。


「……おい! 俺がやろうとしてたんだから余計なことすんじゃねえよ糞シギル!」

「ルファスの言う通りだよ。シギル先輩って本当にゾンビ並みに邪魔だね!《ホーリーブレス》!」


 ルファスとビレントがモンスターを倒しつつ罵倒してきた。俺なんか悪いことしたっけ……?


「……ぐえっ、こほっ、こほ……」

「……」


 四つん這いになって咳き込むエルジェ。この様子だとしばらく立てないだろう。結構強い力で絞められていたから、少しでも手首を破壊するのが遅れていたらやばかった。


 まあこいつらには何を言っても無駄だろうけどな。俺をとことん貶したいのか会話が成立しないし……。

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