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百二十段 とっくに失格だろうお前は


 いてもたってもいられなかった。


 俺はホールに入るとすぐメモリーフォンでセリスの現在位置を確認した。……溜まり場だと? まさか、まださらわれてないのか? グリフが改心して思いとどまった……? 僅かな可能性に賭けて、俺はとにかく走った。


「――セリス……!」


 溜まり場の女子トイレにいたのは、グリフと黒猫のミミルだけだった。項垂れたグリフの足元にミミルが頭を擦りつけている。その近くにはセリスのメモリーフォンが転がっていた。一応個室の中も見たが誰もいなかった……。


「……申し訳、ない……」


 グリフの震える声が耳を突く。


「グリフ……お前……なんてことしたんだよ……」

「申し訳ない……」

「……申し訳ないで済むと思ってるのか……?」

「……自分は……最低であります……何を言われてもしょうがないのであります……」

「セリスをどこにやったんだよ……」

「……ホールの外で待っていた覆面をした者たちに……」

「……」


 おそらくルファスたちが雇った連中なんだろう。グリフは優しそうに見えるからセリスも信用してついていったんだろうな……。


「クソッタレ――」

「――これでわかっただろ、シギル」

「あ……」


 振り返ると、例の三人が得意げに俺たちを見ていた。ルファス、エルジェ、ビレント……。


「お前ら……こんな卑劣なことをよく平気でできるな……」

「おーおー、セリスとかいうガキに危害が加わってもいいなら何言ってもいいんだぜ?」

「……」

「つまりさ、汚物……いえっ、シギルさん、セリスちゃんがどうなるかはあんた次第なわけよ。わかるぅ?」

「《ヒール》! 元気出してよ、シギル先輩っ。今でもまあまあ面白いけど、昔みたいにまたみんなをいっぱい笑わせてほしいなぁ……」


 やつらの下卑た声が遥か遠くに感じる。まるで手足や目を奪われたあのときのように……。


「そろそろ戻るぜ。今のうちにグリフと惨めに慰め合うこったな。二人とも、明日午前十時絶対溜まり場に来いよ」

「ま、グリフはともかく変質者に関しては汚物みたいな扱いさせてもらうけどねぇ」

「ププッ……汚物じゃさすがに先輩が可哀想だよエルジェ。せめて奴隷にしてあげたほうが……」

「まあ考えとくわ、汚物……あ、いえ、シギルさんっ……」


 永劫の時間のように感じられた。やつらの遠ざかっていく笑い声だけでなく、足音でさえいちいち重く響いて胸が軋むようだった。


「――師匠ぉ!」

「……あ……」


 気が付くと、ラユルたちがすぐ近くにいた。


「ずっと呼びかけてたんですよ。どうしちゃったんですか!?」

「……そう、だったのか……」


 俺はショックで頭がぼんやりとしていたが、それでも事情を話さなくてはいけないと思って頑張ってみんなに話した。


「――そ、そんなぁ。セリスお姉さんが……」


 ラユルがへなへなと座り込んでいる。


「ち、チキショウ……どこまで卑怯なんだい、あいつら……!」


 楽天家のアシェリがここまで怒ってるのは初めて見た。そりゃそうだろう。やつらの鬼畜振りは想像以上だった……。


「うぬぅ……最早人間ではない、やつらは……」


 リリムの言いたいことはわかる。やつらを見ているとモンスターのほうがまだマシに思えてくるほどだ。


「私、悪人と屑の区別がつかなかったんですけど、今つきました……」


 ティアが独り言のように呟いている。悪人と屑の境界線、それは手段を選ぶかどうかだろう。クエスには職人気質のようなものを感じたが、やつらにはない。これじゃただのゴミクズだ……。


「馬鹿につける薬はないわね……」


 錬金術士のアローネが言うと説得力あるな……。あの連中にはもう毒薬じゃないと響かないだろう。俺は大体知ってたが、仲間からしてみたらやつらの本性がここまで醜いとは思わなかったはずだ。


「……自分は……リーダー失格であります……」


 グリフが大粒の涙を流している。これほど汚らしい涙は初めて見た。とっくに失格だろうお前は。


「グリフ、あんた失格どころの話じゃないよ。あいつらの中じゃマシだって思ってたのに、ほんと情けないよ……」

「……う、うぅ……」


 共闘していたアシェリに呆れられたのがまた応えたのか、グリフがうずくまってしまった。


「……あ……」


 ラユルがセリスのメモリーフォンを覗き込んで驚いたような声を上げた。


「どうした、ラユル? なんか手がかりでも残してたのか?」

「い、いえ師匠ぉ。これ見てください……」

「どうした? あ……」


 セリスのメモリーフォンを見ると、俺は思わず言葉を詰まらせてしまった。似顔絵が描かれていたからだ。それも、みんなの……。大雑把だが特徴を掴んでいてよく似ている。


 みんなも何事かと次々と覗き込んできて、やはり声を失ってしまった。ラユルなんてもう泣いてしまっている。やばいな、こっちまで貰い泣きしそうだ。なんとか踏みとどまったが……。いつまでも悲しんでる場合じゃないからな。グリフがやったことを思い知らさなければならない……。


「グリフ、これを見ろ」

「……え……」


 グリフにセリスが描いたみんなの似顔絵を見せてやる。その最後にはこいつの姿も描かれていたからだ。


「セリスはな、ルファスに蹴られてたお前のことを可哀想だって言ってたんだ。それで似顔絵まで描いてくれたのに、そんな思いやりのある子をお前は……」

「……あ、あ……」

「最後まで流されるのかお前は……」

「……あ、あ、うがああああああぁぁっ!」


 グリフが狂ったように叫びながら床に自分の頭を打ち付け始めた。血が噴き出して周りから悲鳴が上がる頃、仲間の誰かに通報されたのか管理局の警備兵がやってきて連れられて行った……。

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