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百十九段 どこまで屑なんだこいつらは


「さて、そろそろ行ってくるよ、ラユル」


 あとはルファス、エルジェ、ビレント、グリフの四人を始末するだけだ。


「師匠ぉ、私も行きたいです……!」

「ラユルはそこで見守っててくれ。俺一人でやりたいんだ」

「……はい。シギルさん……」

「……」


 一瞬ドキッとしてしまった。ラユルが妙に大人っぽい表情を浮かべたからだ。見た目は幼女なのに哀愁が漂っているというか……。よく考えたらこれでも15歳だし、クエスの死で一皮剥けたのかな……。


「へっくしょん! ……えへへ。風邪でしょうか!」

「……そんな露出の多い恰好してるからだ」


 またすぐに幼女に戻ってしまった。顔もほんのりと赤いし風邪気味なんだろうな。ラユルはずっとへそと尻が丸出しの服装をしてるし、常温とはいえトイレの個室なんかで寝てるんだからいずれこうなるのは目に見えていた。


「お尻は私のアピールポイントですから! あはん……あうっ……」


 わざわざ尻を見せつけてくるラユルのおでこをチョップする。さあ師匠と弟子の儀式は終わった。ビーチを【ディバインクロス】の墓場に変えてやろう……。


 ……って、あれ? なんだあいつら。ルファス、エルジェ、ビレントの三人しかいない。しかも全員赤線の外に出ている。おいおい、話が違うぞ……。砂を蹴りつつ自分の存在を示すように《微小転移》で近寄るが、やつらは一向に赤線の中に入る気配がなかった。


「――おい、どういうことだ……」


 赤線の外にいるルファスたちの近くまで行って鋭い視線を投げかけるも、一様に涼しい顔で返されてしまった。


「まさか、お前ら逃げるのか……?」

「……ああ?」


 お、ルファスが反応して眉間に皺を寄せた。さあ来い。赤線の中に。一瞬で剥製に変えてやる……。


 だが、期待も虚しくやつは苛立った顔を浮かべただけで中に入ってくることはなかった。何故だ……。


「逃げるのかってアホかこいつ……。先に逃げたのはどっちだよ、なあお前ら」

「ほんっと。自分のこと棚に上げて、よくそんなことが言えるわよねえ。あのときあんたが逃げなきゃクエスさんが勝ってたのに、こんなのにやられて本当に可哀想……」

「だね……。先に逃げたことも忘れちゃうなんて、もしかしてシギル先輩、自分の脳みその一部をテレポートで飛ばしちゃったの?」

「「あははっ!」」

「……」


 何故だ。何故こんなゴミどもに俺は笑われている。とっくに殺せてるはずなのに。とっくに……。いや、冷静になれ。とにかくこいつらをなんとかして赤線の中に入れるんだ。


「謝る。前回のことは本当に謝るから俺と戦ってくれ……」

「謝ればいいのか? お前が勝手に謝ってるだけで、クエスは許したみたいだけどよ、俺たちは許しちゃいないぜ。だからこっちも同じように戦いを回避した。これでようやくチャラだろ?」

「……チャラなら、ここからもう一度やればいいだけだろう」

「俺たちは応じる気満々だったのに、お前が逃げたことで気持ちが切れたからな。やる気を取り戻すのには時間がかかると思うぜ?」

「……」


 悔しいが言い返せない。やつらの言い分も一理あるからだ……。おそらく俺とクエスの戦闘を見て、やり合うのはまずいと考えたんだろう。それだけの強さを見せたわけだからな。


 だが、このままで終われるわけがない。じゃなきゃなんのために俺たちはここまで頑張ってきたのかわからなくなる……。ここは挑発だ。それしかない。


「散々俺を見下しておいて、いざやり合うとなれば勝ち目はないと思ったのか。弱虫だな、お前ら……」

「先に逃げたチキンのお前が言ってもなあ」

「「プハッ!」」

「……」


 どんなに挑発してもこういう返し方をされたら終わってしまう。畜生。どうすりゃいいんだ、どうすりゃ……。


「なあ、大人になれよシギル。戦うだけが全てじゃねえだろ?」

「……」


 こいつ……ルファスにだけは言われたくない台詞だった……。


「ほんっと、ガキよね。だからあんな子供を好きになるんじゃないの? 変質者のシギルさん?」

「「ププッ……」」

「……」


 俺は顔を上げることができなかった。ただでさえ屈辱的な状況なのに、やつらの得意げな顔を見たら気が狂ってしまいそうだからだ……。


「なあシギル、そんなに怒るなよ」

「怒っちゃだめでしゅよー」

「《ヒール》! 大人になろうよ、シギル先輩っ……」

「……」


 気が動転している。俺は一体どうすればいいんだ……。


「シギル、お前がその気ならよ、【ディバインクロス】に戻ってきてもいいんだぜ?」

「……何?」

「そんなに睨むなよ。冗談じゃなくて本気だ。なあ、エルジェ、ビレント」

「あたしは凄く嫌だったけどね、しょうがないじゃない。それだけ強いんだし」

「うんうん。僕は嬉しいな。シギル先輩をまた弄れる日々が戻ってくるし……」


 一体どういうつもりだこいつら……。まさか、グリフの代わりに俺を入れるつもりじゃないだろうな。


「俺が受けると思うか?」

「……受けるに決まってんだろ」


 ルファスが凄みのある笑みを浮かべた。なんだ? こいつの自信に満ちた言い草は……。


「ねえねえ、そこの汚物……い、いえっ、シギルさん、グリフがいないのもう気付いてるわよね?」

「……え?」

「「「あはは!」」」


 俺の驚いた顔がよほど面白かったのかやつらが一斉に笑い出す。


「グリフがいないのは知ってるが、それがどうしたっていうんだ……?」


 なんとも嫌な空気だ。こいつらグリフに一体何を……。


「シギル先輩のちっちゃい脳みそじゃわかんないかな? わっ、睨まれた。怖いよ、先輩……」


 ビレントがエルジェの後ろに隠れておどけるように笑っている。一方でルファスやエルジェもずっとニヤニヤしてるし本当に胸糞悪い。


「お前さ、エルジェの言う通りガキが好みなんだろ?」

「……何が言いたい?」

「またまたあ。しらばくれちゃってえ。汚物……いえっ、シギルさんの幼女コレクションのうちの一人、今頃どこにいるのかなあって……」

「……ま、まさか……」


 セリス……あの子に何かしたというのか……。それにグリフがいないということは……。


「おい見ろよ。やっとわかったみたいだ。こいつの顔、真っ青だぜ」

「きもっ! 目も焦点合ってないし正真正銘の変質者ね……」

「シギル先輩、可哀想っ。プププッ……」

「……」


 どう考えたってグリフにセリスをさらうように命じたんだろう……。それで俺をとことん利用しようってか。どこまで屑なんだこいつらは……。

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