表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/140

百十八段 なんとも複雑な気持ちだった


「あのとき、お前はレイドに何か言おうとしていただろう。それが知りたい」


 確かこの男は、リセスの義父が大事なものを盗んだから殺したとか言っていた。それがずっと気になっていたんだ。


「……あぁ、あれねえ……。あの女の義理の父親はな、とにかく凄いものを盗んだんだ。何を盗んだと思う? フヒヒッ……魂よ」

「魂だと……?」

「そうよ。あいつの固有スキルによって、魂を盗んだんだよお。それもよ、王様の一人娘の魂を……」

「……な、なんだと……」


 クエスの言ってることは俄かに信じがたいことだったが、今まで見てきた奇妙な夢やリセスの話の内容を顧みると辻褄が合うことだった。しかも、彼女の義理の父親は転移術士だ。《憑依》という固有スキルがリセスにあるんだから、魂を盗めるようなスキルがあってもおかしくない。


「確か《遷移》とかいう魂を移せるスキルだったはずだ。それを使ったわけよ……」

「《遷移》か。確かに転移術士の固有スキルっぽいが、なんで王様の娘なんかを……」

「その前に……ダンジョン管理局は王族から相当なバックアップを受けている。何故だかわかるかぁ?」

「いや、関係が深いという噂だけは聞いてるが……」

「王様はな、かつて冒険者だったんだよお。やんちゃな王子で、身分を隠してダンジョンに潜ってたってわけよ……」

「……」


 言葉が出なかった。これはまたとんでもない衝撃的事実だ。民衆たちを束ねる王様がかつて冒険者だったなんて……。


「ダンジョンなんて命が幾つあっても足りないような場所なのに、立場的によく周りが許したもんだな……」

「そりゃもう、たまに城を抜け出して、お忍びで行ってたってことだ。ダンジョンが大好きで、剣士としての腕も相当なもんだったらしいしな。んでそれを助けていたのが例の転移術士でなあ……」

「……まさか、その転移術士がリセスの義理の父親? 王様とパーティーを組んでたっていうのか……?」

「……そうよ。それも親友だったらしいぜえ。表向きは王様と召使いだが……グホッ、ゲホォッ……おっと、わりいな……。もうあまり持たなそうだから簡潔に話すぜぇ……」

「ああ、頼む」


 クエスの声は明らかに弱々しくなっていた。息絶えるのはもう時間の問題だろう。


「……当時は街中でもテレポートが許されていたから、転移術士の助けがあれば王子でも抜け出すことができた……。二人はお互いに身分はまったく違っていたが、とにかく馬が合ったって話だ。そんな彼らが同じ女を好きになるのはある意味運命だったのかもなあ……」

「……王様が恋敵になってしまったのか」

「そういうわけよ。どっちもその女にぞっこんだったが、転移術士と彼女は既に相思相愛でなあ……。いくら相手が王様でも引くわけにはいかなかった……だから憎み合うのも時間の問題だった……」

「……結局王様に奪われたってわけか」

「そりゃそうよ……。だが、王様に嫁いだ女も娘を産んだが、まもなく病気で死んでしまった。望んだ結婚じゃなかったから、精神的にもかなり参ってたって話だ……」

「……なるほど。それでその転移術士は復讐として《遷移》で娘の魂を自分の体に移し、さらに別の子に移したってわけか……?」

「……そういうこった……。憎い王様の血が入った肉体ではなく、純粋な魂を望んだ……。それがのちの殺し屋レイドになったってわけよお……」

「……」


 リセスが自分は二重人格じゃないかと疑っていたが、それは本当の体じゃなかったからなんだな……。


「じゃあクエス、お前は王様に殺しを依頼されたのか……?」

「……」

「クエス?」

「……おう。ちょっと意識が飛びやがったが、まだ……もう少しくらいなら大丈夫、だ……。もちろん依頼された……。破格の報酬でな……」

「娘の魂を取り返すようには言われなかったのか?」

「……最早……娘は死んだものとして扱ってるらしい……ぜ……。何故なら……憎い……転移術士に育てられてる可能性が高いわけだからなあ……」

「……なるほど」


 王様の中では転移術士に対する印象は最悪なものになってたんだろうな。街中でテレポートができなくなった本当の理由がわかった気がする。


 王様がクエスに娘の魂を取り返すように言わなかったのは、この話を世間に知られたくなかったからでもあるんだろう。逝去扱いされている娘が今になって現れるようなことになれば騒ぎになるのは目に見えてるだろうしな。そこからボロが出て王様の知られたくない過去が暴かれてしまうなんてこともあるかもしれないわけだし……。


「――師匠ぉ……」

「あ……ラユル、なんで来たんだ?」


 いつのまにか、ラユルが涙を浮かべながら俺のすぐ横に立っていた。


「……ご、ごめんなさい。せめて、お別れしたくて……!」

「こいつにか?」

「はい。クエスさん、私を守ってくれたんです! それに、優しくて。だから……」

「……ラ、ユル……へへっ……二人とも、元気でな……」

「ああ……」

「はい! 夫婦で頑張ります!」


 ラユルが涙を拭って元気よく返すと、クエスは少しだけ笑ったように見えたがもう何も言わなくなった。こんな清々しい別れ方ができるのも彼女らしい。


 しかし俺としては、憎んでいたやつの内の一人をやっとこの手で殺せたというのになんとも複雑な気持ちだった。ラユルがお別れを言ったことが原因ではなく、俺自身がクエスに憎しみよりも親しみみたいなものを感じ始めていたからかもしれない……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらの投票もよろしくお願いします。
小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=83299067&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ