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百十六段 本当にわけがわからない


「シギルを【ディバインクロス】に呼び戻そうと思う……」

「……そ、そんな……嫌よ。冗談でしょ、ルファス……」

「さすがに冗談だよね? ルファス……」

「……冗談ならよかったんだけどな」


 ルファスの言葉はあまりにも衝撃的で、エルジェとビレントが顔面蒼白になっていた。


「仕方ねえだろ。認めたくなかったけど、やつはそれだけ強くなってるんだ。一人で百十階層のボスを軽々と倒してたしな……」

「でも……あたしは嫌よ、あんな汚物と組むなんてえぇ……」


 自分の手で殺した弟のことが脳裏に浮かび、頭を抱えるエルジェ。シギルは弟に性格だけでなく顔も似ていて、憎たらしさは増すばかりだった。


「《ヒール》! エルジェ、しっかりして……」

「……ありがと、ビレント。なんか吐き気までしてきちゃって……」

「……おえっぷ。なんか僕まで催してきちゃった……」


 胃酸が喉まで駆け上がってきて口を押さえるビレント。


「……おいおい、ゲロ吐き大会はやめろよ。でもエルジェだって間近で見たんだろ。あいつの力を……」

「……うえっぷ。そうだけど、クエスさんが今度こそシギってくれるって……」

「……それが一番いいんだけどよ、もしクエスのほうがやられたらどうするんだ?」

「……そ、それは……」


 言葉を詰まらせるエルジェ。モンスターに対してシギルが使っていたスキルの威力は尋常ではなかったわけで、クエスがやられてしまう可能性もありえないわけじゃないと思い始めたのだ。


「く、クエスさんがやってくれるよ。ですよね……?」


 ビレントがおそるおそるクエスのほうを見やると、いつものように穏やかな笑顔で返されて心底安堵した。


「やれるよって言いたいところだけど、やつも手強くなってきてるから正直五分五分ってところかなあ……」

「え……うぷっ……」


 一度は消えた不安が吐き気とともに蘇ってきて、ビレントは堪らず口を押さえた。


「おいビレント、もしこんなところで本当に吐きやがったらボコボコにしてやるからな」

「だ、大丈夫……」

「ルファス、なんでそんな酷いこと言うの? そもそもあんたが変なこと言うからでしょ!」


 エルジェが立ち上がってルファスを睨みつけた。


「……おいエルジェ、お前何怒ってんだよ。そんなにシギルと組むのが嫌なら、クエスが負けたら出ていけばいいだろ」

「……そんなの嫌よ。【ディバインクロス】に愛着あるし……。もし万が一そうなったら……我慢するしかないじゃない……うぅ……ひっく……」

「それくらいで泣くなよ……。そんなに鬱陶しいならあいつと会話しなきゃいいだけだ」

「っていうか、ルファス。シギル先輩のほうがここに入るのを嫌がるんじゃ?」


 ビレントの言葉でエルジェがはっとする。


「……そ、そうよ。肝心なこと忘れてたわ。ビレントの言う通り、そもそもあいつが入るわけないじゃない。あたしたちを目の敵にしてるのに……」

「いや、クエスに勝った場合あいつは間違いなく【ディバインクロス】に入ることになるだろうよ」

「「ど、どういうこと……?」」

「……俺にいい考えがある」


 呆然とするエルジェとビレントに向かって、ルファスは不敵な笑みを浮かべてみせた。






 ◆◆◆






 午前十時を知らせる鐘の音がしてまもなく、ホール一階にある【ディバインクロス】の溜まり場が見えてきたわけだが、やはり髭面の殺し屋を含めて全員揃っていた。あいつらも俺たちが来るのを待っていたんだろう。今日こそは全てを終わらせてやろう。


 ……ん、挙って睨みつけてくるかと思いきや、ルファスたちはこっちのほうを見ても一切表情を変えなかった。変だな……。


 ぼんやりと突っ立っているグリフはともかく、明後日のほうを見やったりメモリーフォンに目を通したり……妙に大人しい。まるで昔に戻ったみたいだ。あいつらまさか寝ぼけてるんじゃないだろうな。もしそうなら舐められたもんだ。それでも昨日ことがあるし礼儀はちゃんと通さないとな……。


「――昨日は本当に済まなかった。申し訳ない」


 俺たちは一定の距離を置いてやつらの前で止まると、俺だけ一歩前に出て深々と頭を下げた。


「だから今日、改めて決着をつけにきた。場所は昨日と同じ、六十階層だ」

「おう。シギルさん、待ってたぜえ。んじゃ行くとしようか……」

「ああ……って、あれ?」


 俺たちとクエスがダンジョンに向かって歩き出したのに、【ディバインクロス】のメンバーは立ったままのグリフを除いてみんなベンチに座って談笑しているのがわかった。なんだ……? と思ったら一斉に立ち上がってこっちに近付いてきたし、本当にわけがわからない。やる気あるのかあいつら……。


「……」


 しかも、すぐ近くまで来たというのに一様に俺から目を背けている。妙だな。一体何を考えてるんだか……。これもこっちを苛立たせるための作戦なんだろうか。


 こんなときにリセスがいれば何かわかったかもしれないが、いないんだからどうしようもない。今はとにかく自分の力でクエスに勝つことだけを考えよう。やつは迷いを抱えながら戦って勝てるような相手じゃないからな……。

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