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百十五段 今度こそカタをつけてやる


「あー、もう、むしゃくしゃするうぅぅ!」


 翌日の午前九時、溜まり場のベンチに座っていたエルジェが溜息をつくと堪らず立ち上がった。


「クエスさん、今度こそあいつをぶっ殺……じゃなくて、シギってください」

「わかったわかった、早いうちにやるさ。まあ向こうから来るだろうよ」


 クエスは苦笑いで返しつつ確信していた。必ず転移術士のシギルは自分から再戦を求めるためにここに来ると……。


「《ヒール》! エルジェ、悔しいのは僕も一緒だよ。でももう少しの辛抱だから……」


 ビレントが回復魔法で支援してもエルジェの表情は冴えないままだった。


「わかってるんだけど、あいつの得意顔を思い出しただけでもう心がシギれそうになるほどイライラするのよ。クエスさんに負けそうになったからって仲間に《無作為転移》ってのを使わせるとかさ……本当にどうしようもない卑怯者よ!」

「うん、僕もそう思うよ……。でもそれだけシギル先輩をシギったときの快感は上がると思うから……」

「その瞬間、頭の中バラ色になりそうよね。シギル、見てなさい……最後に勝つのは正義なんだから!」


 両手に握り拳を作るエルジェ。脳裏には自分たちの勝利した姿が、目には感動の涙が浮かんでいた。


「なんか僕までジーンとしてきちゃった……。《無作為転移》ってのも使えないようになったし、今度こそクエスさんがやっつけてくれるよ」

「……うん」


 エルジェが涙を拭って微笑んでみせた。


「ほらグリフ、あんたもなんか言いなさいよ。そんな調子じゃまたルファスに蹴られちゃうわよ?」

「は、はいであります、シギルを殺してほしいのでありますっ……」

「グリフ、そこはシギるって言わないとルファスにダメだしされちゃうと思うな、僕はっ……」

「し、シギルをシギってほしいのでありまあああす!」

「「ぷはっ!」」


 グリフの言い方があまりにハイテンションだったので、エルジェとビレントが堪らず噴き出した。


「……あー、もうグリフのバカァ。あんまり笑わせないでよ……」

「ひー……。グリフ最高……って、あれ? ルファス……?」


 違う意味で涙を流すビレントだったが、さっきからルファスがまったく笑っていないことに気付いた。ベンチで大の字になり天井を見上げるいつものスタイルだったが、眠っているわけでもなく目を開けていたので尚更不可解だった。


「ルファス、どうしたの? ぼーっとしちゃって……」


 エルジェもそれに気付いて笑うのをすっかり止めてしまった。


「いや、考えをまとめてたんだ。もう結論は出たしこれからお前たちにあることを話そうと思ってる」

「え、何よ、急に改まっちゃって……」

「《ヒール》! なんかルファスらしくないよ……」

「いいから聞けって……」






 ◆◆◆






「えー!? いいのぉ……?」

「ああ、いつも見送ってもらってたからな。プレゼントだ」


 溜まり場に来たセリスに、メモリーフォンから取り出したばかりの包装箱を渡す。中身は開けてからのお楽しみ。黒猫ミミルへのプレゼントは新鮮なマグロの缶詰だ。


「ありがとおー! 何かな何かなぁ――……わあぁ! 最新式のメモリーフォンだあっ!」

「ウニャアー」


 みんなが笑う中、セリスはミミルを抱えて楽しそうに踊り出した。俺も含めて全員購入したからセリスにも買ってやったんだ。彼女も立派な仲間だからな……ん? ふと我に返ったように真顔でこっちを見てきた。どうしたんだろう?


「……こんなに凄いものをプレゼントしてくれて本当にありがとう。でもね、シギルお兄ちゃんやリセスお姉ちゃん、それにアローネお姉さん、ラユルちゃん、ティアさん、リリムさんが無事に帰ってきてくれたことのほうが何より嬉しいよ……」

「……そうか」


 少し感動してしまった。セリス、こんなに小さいのに泣かせることを言うじゃないか……。


「うぅ、セリスお姉さん、私泣いちゃうでしゅ……」

「ラユルちゃん、ママの胸で泣きなさい……」

「はぁい……」


 ラユルのやつ、すっかりアローネに手懐けられてしまった様子。


「ぐすっ。泣かせるねえ……って、セリスちゃん、あたしを忘れてないかい!?」

「あっ……アシェリさん、ごめんなさい!」

「「ププッ」」


 リリムとティアが噴き出している。ま、まあ悪気はなかったんだし……。それより、リセスのことを言うべきか迷う。義理とはいえリセスとセリスの二人は姉妹の関係だからな。ただ、言ってしまうと折角喜んでくれてるところに水を差してしまう形になるだろうしな……。


 ……よし、やめとくか。仲間に対しても、俺が自分で殺したくなったから途中でレイドに交代してもらったって説明しちゃったからな。それにあいつが完全にいなくなったなんて俺も思ってないし。きっと一時的に眠ってるだけなんだ……。


「そろそろ行くか」


 俺はみんなと顔を見合わせてうなずいた。午前十時の鐘がもうそろそろ鳴る頃だからな。それまでにあいつらの溜まり場に行かないと。


「え、みんなもうダンジョンに行くの?」

「ああ。セリスはそのメモリーフォンでお絵描きでもしててくれ」

「うん! ……でもその前にミミルと一緒にお見送りに行くよ!」

「い、いや、今日は大丈夫だ。ちょっと様子を見に行くだけですぐ戻るからな」

「そっかあ。じゃあここで待ってるね!」


 まだ決闘は終わってない、なんてとてもじゃないが言えないからな。結果が伴えば俺たち全員誰も傷つかない優しい嘘だと言えるだろう。さあ、今度こそカタをつけてやる……。

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