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百十四段 この件にはあまり首を突っ込まないほうが良さそうだ


「……」


 あれだけ溜まっていた眠気もすっかり吹き飛んでしまっていた。


 ホール並にだだっ広い空間――ダンジョン管理局の執務室――に俺たちはいた。最早広さが無駄に感じられるレベルのはずだが、それを感じなせないほど存在感のある銀髪の少女が中央のテーブルに座っていた。彼女こそダンジョン管理局の執務官なのだ。


 縦ロールといういかにも高貴そうな髪型と凛々しい顔がなんともマッチしていて、ティアくらい背が低いのにまったくそれを感じさせないほどの風格がこの子にはあった。何より彼女が着ている服は管理局でも上の立場であることを示す白を基調とした赤い縁取りのゆったりしたトーガであり、威厳も備わっていた。


 彼女の両隣には、聖騎士顔負けの分厚い鎧を着た屈強そうな警備兵が二人、片手槍を携えた状態で立っている。一見すると普通のプレートアーマーだが、彼らの鎧は特殊な素材でできているらしくとても軽くて丈夫だと聞いたことがある。


「えー、【シギルとレイド】及び同盟パーティーの方々、こんな時間なので単刀直入に言います。百十階層で不可解なものを目撃したと思うのですが、絶対に他言しないようにしてください。以上です」


 ……ここまで呼んでおいてそれだけかよ……。例の人影の正体を教えてくれる雰囲気じゃないとは思っていたが門前払い食らったみたいでがっかりだな。


 彼女はもうこっちに興味がないとばかり涼しい顔で書類に目を通し始めたし、無礼を通り越して恐ろしくマイペースな子に思えてくる。


「……執務官、一つだけいいですか?」


 俺は前に出たが、執務官の少女は俺に視線をくれることもなく無言でうなずいた。これでも俺、最高到達者レジェンドなんだけどなあ……。


「他言しない代わりに、その不可解なものの正体を教えてもらいたいのですが」

「……詳しくはですね、えー、私の立場としても言えないんですよ。大雑把に言うとですね、バグみたいなもんです、はい」

「……バグ……」


 何かのエラーが生じた結果白髪頭の男が出てきたってことなら、その正体は人間どころか生物ですらないということか。


「執務官、私からも質問があります……」


 アローネが前に出てきて俺の隣に立った。かなり緊張した様子で青ざめてるのがわかる。百十階層ですら見たことのない顔だった。俺はそこまで詳しくないんだが、それだけ管理局の権力がやばいってことなんだろう……。


「あの人は元局長のアルゴスさんなんですか?」

「……あのですね、詳しいことは言えないというのはお聞きになりましたよね? その質問はもう受け付けません。以上です」

「……アルゴスさんが冒険者を助けるためのシステムを密かに開発していて、それが作動したとか……?」

「……」


 ほんの一瞬だが、今のアローネの発言で執務官の顔色が変わった気がした。ってことは正解に近かったのかもな。管理局が躍起になって口封じをしようとしてるところを見ると、どうやらそのシステム自体知られてなかったみたいだ。局内でもどろどろとした人間模様があるのかもしれない……。


「……えー、まー想像するのは自由です。ですが、そういったことを口に出すとですね、ろくなことがないと思いますので、どうか自重なさってください。そうそう、一つ重大なことを言うのを忘れていました。ラユルという名前の方がいますよね。前に出てきてください」

「あ、はい!」


 ラユル、前に出ようとしてやっぱり転倒してしまった。こういう空気なのでさすがに笑い声は上がらないが……。


「えー、ラユルさん、あなたのですね、《無作為転移》というスキルに制限を加えさせてもらいました。正確にはダンジョン側に、ですが。まず一カ月以上は使用できません。それとですね、復活しても最大で十階層までしか上下移動ができなくなります。冷却時間クールタイムは丸一日です」

「は、はいです。あうぅ……」

「いや、執務官、いくらなんでもそれは酷すぎますよ……」


 さすがにこれは管理局側のやることが一方的すぎるし、俺としても抗議せざるを得なかった。


「えっとですね……まずダンジョンは現時点でまだ百二十階層までしかないということがありますし、あと抗議の声もちらほら出ているんですよね。そこはお察しください」


 ……なるほど。打ち止めが近いなら階層の攻略が早まれば早まるほど今回みたいな不都合も色々出てくるだろうし、それまでの最高到達者からしてみても俺たちの異常な躍進具合は不可解かつ面白くないんだろうな。けど、ここまで制限するのはやりすぎな気がするんだが、我慢するしかないのか……。


「あ、それとですね、口止め料として一人一人にいくらばかりかお金を振り込んであります。なのでくれぐれも他言は禁物ですよ。厳守できないのであればこちらでなんらかの処置を取らなくてはなりません。以上です」

「……」


 あまり期待せずにメモリーフォンの所持金欄をチラ見したんだが、その額の跳ね上がり具合に驚いた。7580ジュエルから57580ジュエルになってる……。最新式のメモリーフォンが20000ジュエルで買えるわけだからこりゃ相当なもんだ。つまり俺たちは相当やばいものを見てしまったってことなんだな。気になるがこの件にはあまり首を突っ込まないほうが良さそうだ……。

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