表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/140

百十三段 師匠の背中は大きくないといけない


『百十階層を攻略した【シギルとレイド】及びその同盟パーティーの方々は至急ダンジョン管理局の執務室のほうまでお越しください。繰り返します――』


 深夜二時の薄暗いホールに足を踏み入れた途端、アナウンスが鳴り響いた。ダンジョン管理局からお呼びがかかるなんて珍しいな……。


 俺の本音としては一刻も早く眠りたいんだが、冒険者は管理局を無視するようなことは絶対にできないんだ。外で暮らすならともかく、ダンジョンを利用する冒険者である以上、彼らに逆らうことは許されない。何故なら、魔法も含めたあらゆるスキルに彼らは手を加えることができるからだ。極端な話、その気になれば管理局の人間だけ街中で攻撃スキルを使用することだってできる。王族とも深いつながりがあるみたいだし相当の権力があるということだ。


「一体なんの用事だろうな……」

「師匠ぉ、私たち最高到達者レジェンドだから、よくやったって褒められるかもしれませんよ……!」

「……ラユルはポジティブだな」

「ですよー! アグレッシブともいいます! えへへ……」

「なるほど……」


 確かによく考えると今の溜まり場もラユルが開拓したようなもんなんだよな。それに、《無作為転移》という固有スキルを持つ彼女がいなかったら最高到達者になるのにもっと時間がかかっていたのは明白だし……。


『繰り返します。百十階層を攻略した【シギルとレイド】及びその同盟パーティーの方々は……』


 現在進行形で狂ったようにしつこくアナウンスされている。そういや、冒険者が管理局の意向を何度も無視すれば強制的に警備兵に執務室まで連れていかれるって聞いたことあるな。しかも罰金まで支払わないといけないらしく、抵抗すれば監獄行きだとか。罰金に関してはもう結構貯まってるからそこまで痛くないにしても、監獄は精神的にきつそうだ。


「あー、なんだいなんだいこんなときに……。お布団が遠ざかっちゃうじゃないか……」

「アシェリどの、ここで寝たら放置ということでよろしいか……」

「えっ……」

「リリム、それいいですね。変な人から襲われる可能性もありますが、そこは仕方ないでしょう……」

「……お、脅かすんじゃないよ、二人とも……! ふわぁ……」


 アシェリのやつ、リリムとティアの言葉に青ざめつつも凄く眠そうだ。さすがにここに一人置いていくわけにもいかないし、もし寝てしまったら引き摺ってでも連れていくけどな。


「シギルさん、多分だけどあの件のことでしょうね」

「……まあ大方そうだろうな」


 アローネの言わんとすることはなんとなくわかる。元局長のアルゴスに似ているとかいう例の白髪頭の男のことだろう。ただ、そうだとしてもそれが一体なんなのか、またそれについて何を言われるのかまではまったく予想できなかった。


 ――っと、あいつらもホールに来たっぽいな……。


 嫌な気配を感じて振り返ると、やはり髭面の殺し屋クエスを筆頭に【ディバインクロス】のメンバーが勢揃いしていた。穏やかな顔のクエスと怯んだ様子のグリフを除いてみんな怖い顔でこっちを見ているのがわかる。


 ……眠いし謝罪は明日にしようとも思っていたが、この際だから謝っとくか。


「みんな、迷惑をかけて済まなかった……」


 やつらに対し、深々と頭を下げてやる。こっちが全面的に悪いんだし仕方ない。


「し、師匠ぉ、私のせいなのに……」

「いや、ラユル、お前のせいじゃない。俺が《無作為転移》をお前に使わせるくらい心配させるような戦い方をしたのが悪いんだ。わかってくれ……」

「……は、はぁい……」


 ラユル、涙目で前に出てきたが、俺の言葉を理解してくれたのか引き下がってくれた。師匠の背中を見て弟子は育つんだ。俺の師匠がそうだったように、師匠の背中は大きくないといけない。いつか彼女が師匠という立場になったら俺の意志を受け継いでくれるはずだ。


「いやいや、謝らなくても。おいらは面白かったし別に……」

「責任感じてるなら土下座くらいしなさいよ! ほら、早く!」

「……」


 クエスもエルジェも大体予想通りの反応だった。土下座か、仕方ないな……。


「いや、シギル。土下座はしなくていい」

「……」


 ルファスの言葉に一瞬驚かされるが、多分もっと酷いことをさせる気なんだろうな……。


「……ルファス、じゃあ俺は何をすればいいんだ?」


 どうせあれだろう。全裸で土下座しろとか。こいつなら言いそうなことだ。もちろんそこまではしないが……。


「何もしなくていい」

「……え……?」


 さすがにそれは予想していなかった。エルジェもビレントも驚いた様子でルファスを見上げている。


「る、ルファス、どうしたのよ……」

「……そうだよ、ルファスらしくないよ。最低でも土下座くらいさせたらいいのに……」

「……いいからお前らは黙ってろ。シギル、俺たちも疲れてるし話の続きは明日にしよう。管理局にも呼ばれてるしな」

「……あ、ああ」


 ……ルファスのやつ、一体何を考えてるんだか。こいつがそう簡単に大人しくなるわけもないし、言葉通りただ単に疲れているだけだとは思うが……不気味だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらの投票もよろしくお願いします。
小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=83299067&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ