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百十段 お前たちもいずれこうなる運命なのだ


「それじゃ、そういうことで」

「しょ、承知したのであります……」


 同盟を組んだ【ディバインクロス】のリーダー、グリフが俺から離れて仲間の元へと歩いていく。やつの背中に担がれた十字盾クロスシールドがやたらと小さく感じた。グリフがあそこで立場をなくしているのはわかるが、それでも同情できない。俺としては憎いやつらの一人にすぎないからな。


 ただ、敵同士とはいえ強力なモンスターがうようよする場所でやり合うのだけは避けたい。それだとボスの出現も相俟って双方全滅という最悪の事態もありうるからだ。


 というわけで俺たちはここから出るために一時的に協力し合うことにして、パーティーは三つに分かれた。俺の単独パーティー【シギルとレイド】、アシェリ、リリム、ティア、ラユル、アローネの【スターライト】、それにグリフ、ルファス、エルジェ、ビレント、クエスの【ディバインクロス】、この三つのパーティーで同盟を組んだというわけだ。


 同盟は最大で三つまで組むことができ、その場合各パーティーの金銭獲得設定等が共有されることはない。それでも、ボスを倒した場合討伐に関わらなかった同盟パーティーもその場にいればクリアしたとみなされるのである。ただし、最上級階層だった場合は倒したパーティーのみが最高到達者レジェンドとして巨大掲示板でクローズアップされるため、実力のあるパーティー同士がボスを倒すために協力し合うことは滅多にないらしい。


「――さあ、行くわよ……!」


 打ち合わせ通り、みんなでせっせと山のように枝を集めてこの空間の中央に置くと、エルジェが《ヒートピラー》を放った。天にも届きそうなほどに勢いよく燃え上がっている。こりゃ最高に目立つな。さあ、これからいよいよモンスターの解体ショーが開催されるってわけだ。


 ただ、それは化け物どもにとっても同じことらしい。人間の踊り食いを始めようと、続々と周りに集まってきているのがわかる。うわ、凄い数だなこれは……。


 この階層のモンスター、目玉猿には色んな性格、属性があるわけだが何度も戦うことで見えてきた最大の特徴は仲間同士で協力し合うことなんだ。なので数がいればいるほど厄介な敵になる。だから俺たちも結束することが重要になるだろう。【ディバインクロス】のやつらと協力し合うのは癪だが、こうなったは原因は俺のほうにあるし文句は言えない。弟子の責任は俺の責任だからな。


 ――無限を感じるほどの重い静寂のあと、周囲が漆黒に包まれた。目玉猿たちが四方から一斉に飛び掛かってきたためだ。


「《テレキネシス》!」


 ラユルの無属性魔法が暗黒を打ち破る。


 ……相変わらず凄まじい威力だ。飛び掛かってきたモンスターたちは跡形もなく消滅してしまっていた。【ディバインクロス】のところにいるモンスターまで吹き飛ばしてて笑ってしまう。俺の仲間だけじゃなく、あいつらも苦笑を浮かべるクエスを除いて一様に呆然としてるのが面白かった。


 ただ、周りにはまだうじゃうじゃいるから油断できない。もう少し魔法の威力をセーブしてくれたらいいんだがこれこそがラユルだからな。早速眠そうに座り込んじゃってるし、超短期決戦向きなんだ。火も枝も今ので消し飛んでしまったので、またみんなで枝を集めてエルジェが点け直す格好になった。


 それからしばらくして、目玉の怪物どもがさっきと同じようにあっちこっちから飛び出してきた。そこでエルジェの《ウォータークラッシュ》が炸裂し、ほとんど俺たちに近付くことなく倒れていった。火を焚いている状況でこれをやるってことは相当腕に自信があるんだろう。ある意味ラユルに対しての嫌味とも取れるな……。


 それでも上手く掻い潜って近寄ってくるモンスターはルファスがきっちり仕留めていた。やつに飛び掛かる目玉猿たちが一撃で肉塊になってしまうほど桁外れの強さだ。しかもあいつ、攻撃するときくらいしか動いてないな。昔はいちいち走り回ってた印象だったが、それだけ成長したんだろう。《ラッシュアタック》の必要性すら感じなかった。


 ビレントも術の切れ目を見計らうかのようにきっちりと味方に支援を重ね続けている。ティアが忘れた頃に支援を掛けてくる状況とは大違いだ。しかもその合間を縫うように上位の聖属性魔法である《サンクチュアリ》をやっているのも見逃せない。あれは周囲にいる味方の体力を回復しつつ、敵を著しく弱らせていく範囲魔法なんだ。要注意だな……。


 さらにグリフが《ホーリーガード》をするタイミングも秀逸で、エルジェが魔法を唱えた直後にやっているのがわかる。魔法を唱えたあとが一番隙が出来るためだが、あれをほぼ同時にやると味方の体も硬直してしまって魔法の発動が遅れてしまうことがあるんだ。それで昔エルジェによく叱られていたのを思い出す。


 殺し屋クエスは出番すらなくて眠そうに欠伸してるが、それでも隙はまったく感じなかった。そういうときが一番狙い目であり危ないんだという殺し屋としての経験が生きてるからなんだろう。


 一方で俺たちはというと、ラユルが火を消してしまって《テレキネシス》の使用を遠慮してからは、遠くにいるのはリリムが《ブーメランアックス》で処理してくれていたし、上手く掻い潜って近寄ってくるようなのはホムのメシュヘルが俺のほうに誘導してくれていた。万が一漏れてもアシェリが《ホーリーガード》してくれてるし安心だ。


 そのおかげで俺はエルジェたちの様子を見ながら、近づいてくる目玉猿を一切振り返らずことごとく剥製に変えることができていた。あいつらに見せつけてやってるんだ。お前たちもいずれこうなる運命なのだと……。


 あと、これは死角にいる敵でもこうして確実に仕留めるための練習でもある。目玉猿は予想しない動きをすることもあるのでいい練習になる。たまにヒヤリとすることもあるが、死角に入るだけじゃなく攻撃も兼ねるクエスのあの独特の《ステップ》に対抗するにはこうするしかないだろう。


 ――視界が揺れて魔法陣が現れたのはそれからしばらく経ってからのことだった。もう俺たちが倒したものだけでも目玉猿の討伐数は軽く五千匹を超えちゃってると思う。これだけ倒してようやくボスのご登場だからな。さすがは百十階層だ……。

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