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百九段 偶然ではありえないタイミングだ


「……」


 ぽっかりと空いた空間に迫るにつれ、俺はすぐにわかった。まだ姿は見えなくても、その周辺に誰がいるのかを……。このなんともいえない独特の空気を放てるのはあいつしかいない。髭面の殺し屋だ。


「――お、シギルさん、エルジェさん、生きてたかあ」

「く、クエスさあぁぁん!」


 エルジェが俺の手を強引に振り解き、空間の真ん中に出てきた男に颯爽と駆け寄っていく。やはりあいつがクエス、か……。殺し屋だけに仮名だろうけどまさかクエスションから取ったんじゃないだろうな。すなわち謎の男ってわけか。適当すぎる命名だがダラダラした感じのあいつならやりかねん……って、あいつが背負ってるのはラユルじゃないか……。


「シギルさん、これ返すぜ!」

「ちょっ……」


 クエスが俺に向かって《ステップ》しつつラユルを放り投げてきた。おいおい、ボールじゃないんだぞ。しかも全然届いてないし……。《微小転移》でぎりぎり間に合って抱えたが、なんてことをするんだあいつ。悪びれる様子もなく舌を出しておどけるように笑ってやがる……。


「ん……師匠ぉ、おはようです……」

「……」


 ラユルもラユルで異次元だった。おはようじゃないだろ。慌ててるのは俺だけかよ。


「――ぜぇ、はぁ……」

「ほらほら、もう少しだよ、急ぐんだよグリフ!」


 おおっ……この声は、アシェリ、それにグリフだった……。


「――エルジェ! どこだ!?」

「エルジェ、どこー!?」

「ルファス、ビレント! ここよ!」

「「エルジェ!」」


 ルファスとビレントもこの空間に姿を見せるや否やエルジェの元に走り寄っていく。感動の再会ってか。俺にとってはただ胸糞悪いだけだがな。やつらは一体感があるようで、リーダーのグリフだけ一人離れたところでうずくまって肩で息をしている有様だった。どうでもいいが少しはやつのことも気にかけてやればいいのに……って、ティアもいたのか。偉く青白い顔だが無事みたいでよかった。ルファスたちと一緒でよく何事もなかったな。疲れた様子でアシェリと何やら一言二言話したあと、二人でこっちに向かって歩いてくる。


「よく生きてたな、ラユル、アシェリ、ティア……」

「はいっ。クエスさんに手伝ってもらったんですよ!」


 ……あいつが? 見ると、やつはこっちに向かって愛想よく笑いながら手を振ってきやがった。クエスもラユルに手伝ってもらった形なんだろうが、最終的に背負われてたところを見るとやはり殺し屋のほうが頼りがいがあったらしい。


「あたしもグリフって人に手伝ってもらったよ。ちょっと情けなかったけどねえ。あんなにたくましい体つきしてんのに。あはは!」

「そ、そうか……」


 それでも生き残れたんだし、アシェリとグリフは意外と相性がいいのかもしれないな。


「私もルファスさんとビレントさんに手伝ってもらいました。はあ……」

「ティア、さっきから溜息ばっかりだな……」

「それはもう、色々な経験をして疲れましたから……」

「あいつらに何かされたんじゃないだろうな」

「いえ、安心してください。処女はなんとか保ってます。なんとか……」

「……」


 そんなことは聞いてないが、なんせ暴力野郎のルファスやナンパ者のビレントがいるから何事もなくてよかった。まもなくリリムとアローネも合流してきてこの空間に全員揃うことになった。


 ……それにしても、みんななんでここに集まってきてたんだろう? それもほぼ同時だからな。偶然ではありえないタイミングだ……。


「みんな、なんでここを目指したんだ?」

「師匠ぉ、私は気絶してたのでわかりません……!」

「……偉そうに言うことじゃないぞ、ラユル」

「えへへ……」

「それがさあ、白髪頭の男が見えて、それで追いかけてたら……」

「あ、アシェリ、それ私たちも見ました」

「ティアも!?」

「……白髪頭の男だって……?」


 まさか、俺が追いかけていたあの人影もそうだったんだろうか。……あ、じゃあもしかして……。


「リリムとアローネも見たのか? その白髪頭の男を」

「「はい」」

「……」


 じゃああの髭面の男もそれを追いかけてここに来た可能性が高いな……。


「なんなんだ、その白髪頭の男ってのは……」

「……多分ダンジョン管理局の人だと思う」

「アローネ、知ってるのか?」

「ええ……」


 なんだ、アローネのやつ妙に言いにくそうだな。目も泳いじゃってるし……。


「……ダンジョン管理局の元局長でアルゴスっていう人なんだけど……」

「元局長……?」


 そんな重鎮が何故ここに……。


「あの人、たまにダンジョンのどこかに現れては辻支援とかしてたから一部の冒険者の間じゃ有名なのよ。でも、一月くらい前に心臓発作で亡くなってて……」

「……」


 なるほど。アローネとリリムが言うのをためらっていた理由がよくわかった。いないはずの人間がいたってことだからな。それも色んなやつに目撃されているという状況。一体どういうことだろう。幽霊……とは考えにくい。何か仕掛けがありそうだ。とはいえ考えてもわかりそうにないし、今はここから出ることだけ考えることにしよう。

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