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百八段 もちろん高度な嫌がらせだ


 歩いても歩いても俺たちの仲間は誰も彼も見付からない……。とにかくマップが広いんだ。それに周囲が真っ暗になったことでエルジェの《フレイムリング》がより目立つのか、道中何度も目玉猿の襲撃を受けてテンポも遅くなった。


 当然、ことごとく《イリーガルスペル》と《微小転移》のセットで一蹴してやったが。それも、モンスターだけでなく隣にいる悪女に見せつけためになるべく惨たらしく。そのたびにつないだエルジェの手に力がこもるのがわかって心地よかった。気持ち悪いのに気持ちいいという妙な感覚だ。


 ……とはいえ、仲間のことが心配で既に気持ち悪さのほうが上回ってきた。今頃みんなどうしているのか。ラユル、アシェリ、ティア……。特にラユルとアシェリがパーティー【スターライト】を抜けたことが気懸りだ。誰かと一緒に俺たちを探してくれているならいいが、そうでない場合は……。


「……」


 いかんいかん。俺は次から次へと暗闇から飛び込んでくるマイナス思考を打ち消すのに必死だった。ある意味モンスターよりも厄介だ、これは……。


 それにしても、アローネとリリムはどうやって俺たちを探し当てたんだろう……? もしメシュヘルのおかげなら、今一緒にいるわけだし俺たちも同じように誰かを見つけてもおかしくないはずなんだがな……。


「リリム、アローネ。俺たちを探し当てることができたのは本当にメシュヘルだけのおかげなのか?」

「「……」」


 振り返って話しかけてみたんだが、なんだ今の明らかに痛いところを突かれたと言わんばかりの顔は。しかも二人ともだしどう考えても偶然じゃないなこれは……。あ、そういやあのとき、何かを言いかけてたような。言いにくいのかと思ってこっちも遠慮してたがそれどころじゃないな。


「頼む、リリム、アローネ……手がかりになりそうなことならなんでも話してくれ」

「あたしからもお願いするわ。早く汚物さんたちとおさらばしたいし……」


 エルジェ、実感がこもってるな……。


「おい、エルジェとやら、汚物は貴様のことだろう?」

「リリム、もう可哀想な子は放置で」

「合点」

「……はっ。何かといえば可哀想可哀想って……。よっぽど可哀想って言葉にトラウマでもあるんじゃない? たとえば、子供の頃にみんなから無視されていじめられた、とか……」

「あなたこそ、汚物に何かトラウマでもあるのかしら?」

「鸚鵡返ししかできないの? 少ない脳みその限界?」

「早くおさらばしたいならこんなくだらない喧嘩こそ止めるべきじゃない? 言い出しっぺさん」

「……まあいいわ。いつか絶対惨めに殺してやる。生きてるのを後悔するくらいに……。ねえ知ってる? あたしたちね、こういうとき、シギるって言ってたの。錬金術士アルケミストさん、あたしがあんたを絶対シギってやるから覚えてなさい……」

「はいはい。そういう変な造語を作って遊ぶのは子供みたいだからもうそろそろ卒業したほうがいいわよ。みっともなさすぎるもの」

「きゃー、かっこいい……」

「ありがと」


 アローネとエルジェ、凄い形相で睨み合ってる。女の喧嘩は怖いな……。


「リリム、アローネ、そろそろ……」

「あ……申し訳ない」

「脱線しちゃったわね。誰かさんのせいで。えっとね……って、あそこに誰か……」

「「……え?」」


 アローネが指差す方向を向いたエルジェと俺の声が被る。あれは明らかに人影だ。モンスターではない。なのに感知能力の高いメシュヘルが発見できなかったのは何故だ? 生物ですらないというのか……? いや、そんなことを考えてる場合じゃない。早くあとを追いかけないと……。


「みんな、急いで追いかけるぞ!」

「「「了解!」」」

『ウイイッス!』


 ――あれ……?


 どんなに追いかけても背中すら見えてこない状況が続いていた。確かあの人影はこっちに向かったはずなんだがな……《微小転移》によって木々の合間を縫うように猛スピードで追いかけてるというのに。これより速く動けるものなんだろうか……。


「ちょ、ちょっと、もう少し慎重に行きなさいよ!」


 ……なんか隣から苦情が聞こえてきたが気のせいだろう。一応ギリギリで障害物に当たらないようにはしてるんだからそんな贅沢は言えないはずだ。


「シギルさん、お願いよ……! 吐きそう……オエッ……!」

「……」


 こんなときだけ汚物じゃなくて名前呼びとはな。それで心変わりするとでも思ってるならバカにするのにもほどがある。仕方ない。もう少し速く……って、なんだあの空間は……。


 百一階層で見たような、そこだけぽっかりと空いた場所がここから真っすぐ向かった先に見えた。百一階層のものより狭くて湖もない。意味深な空間だな。人影はあそこに向かったんだろうか? お、メシュヘルが追い付いてきた。


『――アニキ、アソコニダレカイルッ』

「「ええっ?」」


 俺の上げた素っ頓狂な声がエルジェと被った。お互いに驚きつつも期待を含んだような弾む声だったな。


「エルジェ……もしかしたら俺たち相性がいいのかもなあ」

「……気持ち悪っ……」


 もちろん高度な嫌がらせだ。エルジェは二重の気持ち悪さに吐き気も倍増だろう。

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