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百七段 寛大な心で行こう


「いてっ……」


 ビレントが頭を押さえてうずくまる。ただでさえ濃い森の暗さが日没とともにさらに深刻になってきたため、こうして枝にぶつかるようなことも多くなってきたのだ。


「《ヒール》! 大丈夫ですか? ビレントさん……」

「だ、大丈夫だよ、ティアちゃん……」

「……あ、あの、ちゃん付けは止めてください。ぶっちゃけきもいです……」

「ごめん、ティアちゃん……」

「……」


 生理的な悪寒というものをティアはビレントのいやらしい目線から強く感じていた。


「障害物なんてこうしてぶった切りゃいいんだよ!」

「ひっ……」


 ルファスがアイスソードを振り回し、枝が四散するもパーティーメンバーでないティアにとっては恐怖でしかなく、咄嗟にうずくまった。暗い上に彼の特徴である《双性剣ツインエッジ》がとにかく強力で、彼が一振りするたびにまるでもう一つの青い刃が追いかけて来るかのように逆方向から出現してくるから恐ろしくてしょうがなかったのだ。


「……ふう。こんなもんでいいか」


 暗がりの中であるにもかかわらず周囲に張り巡らされていた枝が一瞬でなくなってしまったことからもわかるように、ルファスはとにかく強かった。最早見ていてモンスターが可哀想にすら思えるほどの猛威を振るっていたのである。


「ちくしょう、エルジェ、グリフ、どこにいやがるんだ……」


 ルファスがメモリーフォンを確認する。近くにいればフレンドやパーティーメンバーはマークで表示されるのだが、やはり今回も見ることができなかった。


「……って、あれ。グリフのやつ、シギルの仲間を入れてやがる……」

「「ええっ!?」」


 ビレントとティアが声を合わせる。


「あの野郎、リーダーのくせにプライドがないのは知ってたけどよー。いっぺん、顔の形が変わるくらいは殴ってやらないとな……。なあ、ビレント」

「そ、そうだね。やっつけちゃえ!」


 リーダーに対して容赦のない発言をするルファスと、それに同調するビレントにティアが驚く。


「あ、あの……」

「あ? なんだよティア」

「どうしたの? ティアちゃん……」

「ルファスさん、いちいち睨まないでください。首が取れそうです。ビレントさんも流し目で見ないでください。背中から汗が出そうです。お二人の視線は両極端なんです……」

「お前、ふざけてんのか!?」

「ふざけてるの?」

「……それくらいで怒らないでください。短気すぎます。私たちのかつてのリーダーは、朝寝坊して待ち合わせの時間に遅刻するなんて当たり前だったんですよ。それでも許してましたけどね……」

「ええ……? もしそれがグリフだったらとっくにルファスに殺されてそう……」

「そんなの当たり前だろうが、ビレント。っていうかティア、お前よくそいつを見捨てなかったな?」

「ほんと、僕もそう思う……。優しいのかな、ティアちゃんは……」

「いやいや、私は優しくはありませんから。不甲斐ない人を許すコツ、それはズバリ寛大な心なんです。そうすると少しはイライラも収まりますよ。あのシギルさんも寛大な心で行こうって言ってましたね」

「「……」」


 ルファスとビレントが呆然とするほど力説するティア。それくらい彼女の言葉には熱がこもっていた。


「寛大、ねえ……。はいそうですかって納得するって思ってんのか?」

「ま、まあティアちゃんの言うことも一理あるかな?」


 ビレントがルファスの顔色を見つつ言う。


「ビレント、お前……」

「あ、ごめん。逆らうつもりじゃ……」


 ルファスの怒りをぼかすかのように特大の溜息がティアの口から零れ出る。


「そんな些細なことでいらついていたら、この森はいつまでも抜けられませんよ」


「……ちっ。まあいいや。確かにティアの言う通りだ。……でもな、お前の命は俺の手中にある。それだけは理解しとけ」

「は、はい。それはわかってます」

「あ、あのさ、ティアちゃん……」

「へ?」


 もじもじするビレントを見て、ティアはどうしようもない嫌悪感を覚えるとともにひたすら嫌な予感も覚えていた。


「言いにくいけどさ、ティアちゃんはエッチなこととか興味ないかなって……」

「おいビレント、お前そんなことする余裕なんてねえだろ!」

「そ、そうですよビレントさん、ヤってる間にモンスターに襲われちゃいますよ、さすがに……」


 暴力的なルファスを諌めるような立場にいたティアも、このときばかりは全力で彼に同意した。


「僕もう、限界なんだよ……」

「……ちっ! じゃあやれ!」

「よっしゃー!」

「……え? わ、私の同意は……?」


 ティアの声が震える。どう考えても最悪の状況だった。


「ああ? ティア、お前自分の立場本当にわかってんのか? それにさっき言ったよな。寛大な心って」

「……う……」


 まさか自分の言葉によって論破されるとはティアも思っていなかった。


「正直、ピンク髪の子のほうがよかったけどね、僕としては」

「な、なんですかその妥協してやるみたいな酷い物言いは……」

「あーごめんごめん、嫉妬しちゃった? んじゃしようか」

「そ、そんな、ちょっとトイレするみたいな言い方……あ! あそこに人影が!」


 ビレントの背後を指差すティア。逃げるチャンスは今しかないと思った。


「……またまたあ。そんなこと言って逃げるつもりじゃ……」

「……ほ、本当に……」

「「は?」」


 嘘を言ったつもりのティアだったが、嘘が誠になった現状を前にその顔は驚愕に包まれていた。

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