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7.再会

 そして新しい朝が来た。


「…………」


 大欠伸をしつつ、ぎしぎしと痛む体に鞭打って宿の出入り口へ続く階段を下りてゆく、と。

 後ろをのそのそついてくるキンピカ甲冑付き半透明大男も大きな口を開けて欠伸をした。

 話は結局ドウドウメグリ。

 ディンの話を呑み野郎についていくか、はたまた野郎と敵対するリスクを承知で話を蹴るか。どうしたって、結論なんて出なかった。

 そりゃ、そうだ。ディンに関してはまだ、判らない事が多すぎるのだ。

 それなら当面は……奴の思惑が判明するまでは共に行動してみようということになった。

 意見が一致したのは明け方。

 二時間、眠れたかどうかだ。

 普段なら起きる時間なんて何時だっていい。目が覚めた時に起きて、眠くなった時に寝ている。

 だが、昨日別れ際に、ディンが言った一言。


『明日朝八時に聖堂に来い。やってもらいたい事がある』


 ……なんだそうで。


「なんだろうな……やってもらいたいことって」

『しかもまた聖堂かよ……俺様出来ればパスしたいんだが。つうか。まだ寝たい』

「わざわざ俺にやらせるんだから。おまえが居ないと成立しないんだろ、きっと。諦めろ」

『ちぇー』


 寝不足の為か、すっかり気が緩んでいたんだろう。

 あてがわれた個室を出た時点でここは公共の場だというのに、人の目を全く気にしていなかった。

 挙句。


「~うわ……!」

「きゃあ!」


 段を降りきって最初の曲がり角で思いっきり人にぶつかってしまった。

 思い出したかのように鮮明に蘇った昨日の痛みをなんとか堪える。

 見れば、相手はその場にしりもちをついていた。

 同じく痛みを堪えているのか、しりもちを付いた状態のまま頭を下げ、片手で腰を摩っている。

 小さな体――子供か。


「……ったぁ……っ」


 まだ幼さの残る舌足らずの声が、ようやく耳に届く。


「~す、すみません、大丈夫ですか……」


 助け起こそうと手を差し伸べた。

 と、鼻腔をくすぐる黒髪の香りに思わず目を見開く。


「…………キミは」


 俺の声に、相手は顔を上げた。

 あどけなさの残るその顔立ちは随分愛らしかった。

 透明な白肌。吸い込まれてしまいそうな程大きな黒瞳。小首を傾げると、動きに応じて艶やかな黒い糸が流れた。

 顔に見覚えはないが、鼻腔を擽るこの香りには覚えがある。

 昨日道具屋でぶつかった、フードを深く被った少女だ。


「…………」


 呆然と、俺の顔を見上げる少女。

 無理も無い。

 はじめてみる他人が、己を見て意味深な言葉を漏らしたのだから。

 そう。昨日の俺は、瓶底眼鏡に黒ボサ頭だった。

 金髪(自分で刈っている為ザンバラだが)と、赤い目はこの上なく目立つ。よって、特に大きな街に入る時は用心して変装するようにしている。故に昨日はまるで浮浪者のような格好をしていた訳だ。

 それにしてもこんな所で会うなんて。

 よほど、縁があるのだろうか。


「…………あの……?」


 少女の声で我に返った。


「~ぁ……っ ご、ごめん、怪我無い?」


 固まっていた右手を、ようやく動かして少女を助け起こす。


「――あ、ありがとうございます」


 透き通った高い声。

 少女は微笑むと、ぶつかった拍子にとれたのだろう、首の後ろのフードを昨日と同じように深々と被りなおした。

 ……ちょっと……どころじゃない。顔を隠してしまうフードはすんごく勿体無い気がするんだが。


「旅の人かい? 女の子がこんな安宿に泊まるなんて。あのベット、体痛かっただろ?」


 ゆったりした白のズボンをぱんぱんと叩いて埃を落としていた少女はぴょこんと顔を上げた。


「旅人ではないけど……でも仕方ないわ。今日はお祭りだから、どこも部屋が空いてなかったんですもの」

「あぁ……王様の誕生日だったっけ。キミもそれで入国したの?」

「いいえ。元々わたしはここの国の人間。訳あって別の土地に住んでるんだけど……」


 言って彼女は再び小首を傾げた。


「どうしたの?」

「この数日間ね? ここに泊り込んでいて。探し物をね、しているのよ。どうしても見つからなくて」

「探し物?」

「えぇ……って、そういえば、貴方昨日入国したのよね?」

「……? ……そうだけど。なんで知って……」


 言うだけ言って、俺の言葉を聞いていない模様。少女は背負っていた小さなリュックをその場に下ろして、なにやらごそごそと捜し始めた。

 困って、後ろに居たエンペラーと顔を見合わせようと振り返る…………が、エンペラーの奴、どこか様子がおかしい。目を丸くして、呆然と少女を見ているではないか。


(……どうしたんだよ?)


 口パクで訊いてみたが……駄目だ、俺を見ていない。

 完全に固まってしまっていた。


「……こういう動物みなかった?」

「え!? あぁ……」


 声にそちらを見遣ると、少女が一枚の紙切れを俺に差し出していた。

 受け取り、目を通す。ボロボロに擦り切れたそれには動物の絵が描いてあった。


「…………ねずみ?」


 赤い目。金に近い茶色の毛に覆われた小さな体。風貌は鼠そのものだ。

 ただし、毛は長く、目と耳とシッポが異様にデカイ。

 と、発した声に、少女が「えぇ!?」と顔を真っ赤にして反論する。


「違うわ! 鼠じゃなくて、それは猫よ!」

「~ねこぉ?」


 訝しげに声をあげれば、少女、余程俺の言動が気に入らなかったのか、俺の持っていた紙を引っ手繰って、ぷいっと横を向いてしまう。


「そうよ。クレイドゥル国近辺の森に生息するモリネコ。昔はたくさん居たんだけれど、最近は……全然見ないの」


 段々と声が陰る。


「ここ数日間、……友達と二人で探し回ってるんだけれど、モリネコは小さいし、この辺広いから。全然見つからないのよね……。ね? 貴方見てない?」


 両手を胸の前で組んで、懇願するように俺を見上げるが、

 しかし、期待する情報を俺は持ち合わせていない。


「……残念だけど」

「…………そっかぁ……」


 がっくりと肩を落とし、明らかに落胆の色を見せる少女。

 その様子があまりにも不憫で、なんか、ワルイコトなんてしていないのにこっちがオロオロしてしまった。


「……その、今日も探すのか?」

「そのつもり。友達は先に行ってるし……、……まぁ、それも今日まで、だけれど」

「……?」

「~なんでもないっ 話聞いてくれてありがとう! じゃあ、急ぐから!」


 言って少女は俺の横をすり抜けた。

 出入り口に向かって走っていく少女を目で追う。と、少女は唐突に、くるりと俺を振り返った。


「やっぱりその方がいいわ。貴方の髪も瞳も、とてもキレイな色をしているもの! わたし、好きよ。モリネコみたい!」


 言って、ドアを開け、朝日が差し込む外界へと飛び出していった。


「………………ねこ。かよ」


 一瞬、ドキっとさせられた。

 女の子……しかもなかなかかわいかった……に、「好き」と言われて心臓が飛び跳ねない野郎はいないだろう。

 しかし、最後にガクっと落された。


「……変な女。って…………、……あれ」


 ふと、過ぎる違和感。

 ……なんか、さっきあの娘、妙な事言ってなかったっけか……?


『……驚いた。偶然にしちゃ出来すぎてる』


 背後の声に我に返る。

 振り返れば、エンペラーが憮然とした表情で出入り口の方を見ていた。


「どうした? ……つかおまえ、なんかさっき変だったぞ」

『なにぃ? エビルおまえ俺様に向かって変とはなんだ変とは!』

「いちいちムキになるなよっ 様子がおかしかったっつったんだ」

『そりゃあ……おまえ。おかしくもなるさ』


 言って、むぅと唸るエンペラー。


「だから、どうしたんだよ? さっきの女の子がどうかしたか?」

『どうかするもなにも』


 言って、一呼吸置くと、奴はようやく俺の目を直視した。


『テンパレンス。連れてるのはおそらく、あの女だぜ?』

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