俺と甲賀5
《竜殺し》の荼毘 雅亮、《龍退治》の蛇穴 夜叉は、能力名だけを見れば、中学生が好みそうな非常に痛々しいネーミングに思われることだろう。実際、名は体を表すと言うことで、この能力は竜(龍)をも凌駕できる強大な能力で、この世に存在する異能力の中でも上級の能力とされる。
しかし、強大な能力に恵まれる者が、強大であるとは限らない。この荼毘、蛇穴の両名は、自分たちの能力が龍(竜)を打倒するためだけの能力だと思っていた。
「待っ……待て! 話せば分かる……」
九頭竜は立ちはだかる二人の挑戦者を見て、戸惑った様子で慌てふためく。
「俺たちは十分あんたを待ってたんだ! 右手に龍を持つ男、お前をな!」
「待て待て、これは仮面ラ〇ダー 龍〇の変身セットだ! ほら今からやるからな! 見といてくれ!」
左手をまっすぐ前に突き出し、そして、その手を入れかえる様にして右手を上方左斜め上にピンと掲げて一言。
「――変身!」
大きな声でそう叫んだ後、右手をベルトの辺りに下ろし、その後両手を腰の辺りに持ってくる。
「っしゃ!」
荼毘と蛇穴はその場で拍手喝采、そして、こう付け加えた。
「ドラゴンライ〇ーキックも見てみたい!」
「そうだ! ファイ〇ルベントしてくれ!」
やはりドラゴンは男の子のロマン、小学生男子は裁縫セットもナップザックもドラゴン柄のものを選びがちだ。それくらい、遺伝子にドラゴンが染みついているのだ。
「仕方ないなあ……みんなには内緒だぞ……」
九頭竜は右手の竜の中におにぎりを買った時のレシートを無理矢理詰め込んで、宙に舞い上がった。
「これホンモノじゃん!」
「うおーカッコイイ!」
先ほどまで殺意むき出しで参るとか覚悟とか言っていた人間とは思えない豹変ぶりだったが、やっぱりカッコいいものを見ると無条件で良いと感じてしまうのはどの世代だって同じなのだろう。
「話を……聞く気になったか?」
爽やか笑顔でそう言った九頭竜だったが、内心は小っ恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。どうして良い年したオッサンが仮面ライダーのモノマネしないといけないんだ、そう言う気持ちがあった。
――でもやっぱり、カッコイイよなあ。
まあ、その気持ちがゼロだったわけでもない。
「九頭竜さん……良かった。ちょっと俺ハラハラしたぜ……」
俺はまた命がけの死闘が始まってしまうことを覚悟した。こう言う場合、ボスを倒さない限り延々と戦闘が続くものとばかり思っていた。
二人と話をして、《隠遁翼竜》を退治するまで力になってもらう交渉を行った。二人は九頭竜が本当に仮面ライ〇ーだと思っているようで、尊敬の念を抱いているようだった。
「へぇー《隠遁翼竜》か……俺たちにぴったりの相手だな……」
「でも、俺たちが言われたのは、《双截龍》ってやつじゃなかったっけ……」
まあ、こまけーことは良いんだよと言って、自分の能力から注意を逸らそうと試みる九頭竜。
「それもそうですね」
「九頭竜さんが言うならそうです」
あの一発のラ〇ダーキックで二人の青年の心を掴んだ九頭竜、《隠遁翼竜》がどんな能力なのかわからない以上、味方が増えるのはありがたいことだ。
「昨日の敵は今日の友ッスね……これからよろしくッス」
そう言って、虎走が二人に向けて手を出すと……
「はぁ? 俺たちがついて行くのは九頭竜さんだけだ」
「他の人間は、今すぐにでもこの《竜殺し》で蹴散らしてやる!」
両手を固く握り、その拳をバシバシと胸の前でぶつける荼毘。虎走は、自分もこの二人に認めてもらわないと駄目だと言うことを瞬時に悟った。
「でも、雅亮、《竜殺し》はドラゴンにしか使えないぞ」
「夜叉、だから今から俺たちが活躍できる場所があるんじゃないか! 《隠遁翼竜》だぞ! 絶対強いぞ!」
明確な目的ができたようでイキイキとしている二人。この二人の力は一体どのようなものなのか、それは能力を持つ本人たちにも分からないのであった。
《無尽蔵暴走二輪車》の虎走彪騎、《双截龍》の九頭竜龍華、《竜殺し》の荼毘雅亮、《龍退治》の蛇穴夜叉、そして、《獄炎の射手》の火威赤夜、これだけの戦力が集まった今、邪魔するものは何もない!
と言いたいところだが、火属性の多さや龍属性の多さが目立ち、非常にアンバランスな点が懸念事項である。
「ぐががッ! 能力者だって《隠遁翼竜》にかかれば……」
影で豪傑に笑う人物、それこそ忍海 将影、火威が捜し求めた《隠遁翼竜》である。
これで味方パーティは完成