惑星リビア
駆け寄ってくる足音と人の話し声でふと目覚め、外を見ると宇宙ステーションのロゴが目に入った。リビアと書かれている。どうやら気を失っていたようだ。無我夢中だったので、どうやってリビアまでたどり着いたのか全く覚えていない。隣ではナナがすーっと寝息を立てて眠っている。安心感に襲われて、レオンは意識が再び暗い闇の底へ落ちていくのを感じた。
何時間そうしていたのだろう、病院のベットでずっと宙を見つめていた。俺がナナとスピカを守らなければ、ただその一心に突き動かされなんとかリビアにたどり着いた。二人の安全が確保された今、レオンは糸が切れたように無気力になっていた。そしてとても心細かった。はやくナナとスピカに会いたい。一週間の病院生活も終わり、明日退院して二人に会えることになっている。二人ともどうしているだろう。入院してからはサラさんというきれいな銀髪の女の人がこまめにお見舞いに来てくれて、俺達のことを気にかけてくれている。フィルの知り合いだろうか—そんな事をぼーっと考えていたら、日が落ちかけて薄暗くなった窓の外に、人影が見えたような気がした。ベットから降りて外を覗いてみると、大男二人が小さな子供を抱きかかえて走っている。子供は両手首を縛られ、口を布で塞がれ、目隠しをされている。肩まで垂らしたさらさらな銀髪に色鮮やかな衣装をまとって、とても目立つ格好をしている。銀髪にきれいな衣装に、どこかサラさんを匂わせる雰囲気があった。
(サラさんの知り合いかな?だったら放っとくわけにはいかないな。)
レオンは窓を開け外に飛び出し大男の後を追い右側の大男の膝に後ろから蹴りを入れる。
「うわああっ」
「な、何だ?!」
そのままスピードを落とさずに大男の横を走り抜け、宙に放り出された子供をお姫様抱っこでキャッチする。
「おい、大丈夫か!?」
「んーんー!」
「あ、そうか、これを外さないとな!はっはっはっ…うわっ!」
もう一人の大男が殴り掛かってきた。すっと腰をかがめ、男の脇下に入り込み、腰にさしてある短剣を抜き取る。
「なっ、こいつう!」
「こっちだ!」
子供の手を取り引っ張る。
「んーーーーー!!」
目隠しをして誰かに引っ張られながら走る恐怖に、子供はずっと叫んでいる。
「うわあ」
追ってきていた大男が突然倒れ、膝をつく。
「レオン!」
「ナナ!」
隣の病室にいたナナが気づいて追いかけてきたようだ。
「こいつらは?!」
「たぶん悪いやつ!」
「おっけー!」
「よし、今のうちに」
ナナが大男達の相手をしている隙に、大男から取った短剣で子供の手首の紐を切り、口の布と目隠しを取ってやる。現われたのは、整った輪郭にすっと引き締まった唇、透き通った青い瞳には髪の毛と同じ銀色のまつ毛がかかっていて、要するに美人の顔だった。
「お前、男女か?」
「誰が男女だ!私はれっきとした男だ!貴様、この私に向かってなんという口の利き方だ!ひっ、ひいいっ」
ナナの攻撃をすり抜けた大男がレオンと少年の頭上に拳を振り下ろす。レオンは少年と大男の間にすっと入り込み、その拳を手のひらで受け止める。
「ちっ」
突然男は間合いを取り、ぴゅっと指笛を鳴らした。
「何だ」
大男が二人ともにやっと笑っている。
「お、大男の笑顔ってのは不気味だな。」
「あ、ああそうだな。」
どこからともなく人影が現れ、三十人ほどの敵がじわじわと間合いをつめてくる。
「ナナ」
「う、うん」
「一、二、三で逃げよう」
「一、二、三!」
「うわわわーーーーー」
三人とも叫びながら全力で逃走する。
病院の庭を抜けてどこかの草むらに出たようだ。病院の外灯も無く、どこを走っているのか全く分からない。突然背後から冷たい空気を感じた。目を凝らしてみると、どうやら川があるようだ。近くに小舟もある。
「ナナ、あの小舟で逃げるぞ!」
「うん!」
「ま、待て!待ってくれ~」
少年がぎりぎりで小舟に飛び込み、猛スピードでオールを漕いで岸から遠ざかる。岸では男たちが悔しそうに唸っている。
「ここまで来ればもう大丈夫だろ。」
三人はふぅーと一息つき、オールを漕ぐ手を緩めた。
「ナナ、久しぶり」
切ない表情でナナの方を振り向く。
「うん。」
レオンの方を向いたナナは今にも泣き出しそうだった。
レオンとナナはお互いの身体に手を回し、しばらくの間抱きしめ合って悲しみと寂しさと孤独を分け合った。銀髪の少年はどうしていいか分からずにその様子をじっと見つめていた。




