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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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番外編 国際野球ワールドカップ 10

 イエーイ、イエーイとダブルピースをするあまねがベンチ陣に帽子で叩かれまくるのを見ながら、網走極はバットを肩に担いではぁと深い溜息を吐く。アレは一種の才能だ。ムードメーカーと一口に括るには、権藤あまねが行う人心掌握術は優れ過ぎている。今も2点ビハインドで投手陣も壊滅状態だというのに、ベンチの中には暗い空気が一切ないのだ。本人はただおちゃらけているだけだと言っているが、そんなものな訳がない。


 球数制限が無ければこの試合、権藤あまねを先発させていれば勝っていただろう。それはチームの誰しもが分かっている。プロ級と言われる今大会の日本ナショナルチームでも、明らかに投手としての能力は田中兄とみっつ、それに権藤あまねが飛びぬけている。そんな事はチームの誰しもが分かっていて、だが、社会人で長年揉まれてきていた男たちにはそれが認められない。理屈じゃない、野球で一線に居続けたという自負とプライドの問題だ。


 だから、チームに合流した当初、社会人の先輩たちからの俺達高校生組への対応は冷淡なものだった。これも当然だ。去年の予選には俺たちは一切関与していないのに今大会で急に本戦だけ5人も参加してきたのだから。逆の立場だったら俺だってブチギレる。


 だが、そんな社会人の先輩たちも、合流から1週間も経たずに権藤あまねの毒牙によって骨抜きになった。今ではその余波で俺達高校生組にも親身に話に乗ってくれたりするくらいには、彼らの懐に入る事が出来ている。まぁキャッチャーである田中弟は、流石にまだまだ信頼関係の構築に四苦八苦しているが。



「網走、俺とお前で最低1点は返すぞ」

「勝負されたらな」

「違いない」



 その田中弟からの簡素な言葉にそう応えると、田中弟は極に視線も向けずバッターボックスへと向かっていった。代わりにネクストバッターズサークルに入り、打席をのんびりと眺める。


 打つだろうな。そういう雰囲気がある。これは極にとってもあやふやなものだが、野球というものには流れという良く分からない力学が存在する。極はそれを見ることは出来ないが、長く野球をやっているとなんとなく今はこうだ、今はこうじゃないというものを感じる事がある。


 今。田中弟から感じるそれは、もしかしたらこの一瞬だけならこの全会場の全てのバッターよりも上回るのではないかという熱量だ。ああ、これは打つな。そう確信できるものが、今の田中弟からは感じられる。


 高校3年間どころか中学の頃から戦い続けたチームの3番で、正捕手だった男。


 そして、恐らく。多分だが、もっと大事なものを奪い合っている男。


 網走極は彼の幼馴染たちを除けば、恐らく最も田中コータという男をよく知っている。だからこそ分かった。


 彼が今、同点弾を打つことを。





 9回裏。1点リードの場面でアナウンスが流れる。ピッチャーゴンドー。背番号は510。今大会ではたった一人しか身に着けてない3桁数字の背番号だが、お金に目がくらんだ大会運営をブライアン伯父さんが上手く乗せてこの背番号にしたらしい。関連グッズがもう近隣のお店で販売してるんだって。オリンピックみたいな事してるよね、ブライアン伯父さん。



「ピンチを抑えるのがファイアーウーマン(救援投手)の華なら、1点差をぴしりと抑えるのは守護神の華」



 ピッと親指で白球を弾いて、空中でそれをパシッと掴む。気合がむくむくと湧き上がってくるね。やっぱり最終回のマウンドは、何回立ってもいいものだ。マウンドに立った私の周囲に内野陣がやってくる。



「緊張はしてなさそうやな」

「もち。オリンピックの時のがきつかったもん」

「最終回にスチュワートか。中継見たわ。あれ燃えたなぁ!」



 今大会、女性でありながら結局本塁打王に輝いた怪物の事を思い浮かべて、内野陣の面々が。特に3年間、東のアンジー西の網走と呼ばれてた網走くんがしっぶい顔をする。最終打席、結局網走くんは敬遠されて、5番の先輩がヒットを打って逆転したからね。あそこで勝負してくれてたら網走くんも同率で本塁打王になってたかもしれないから色々複雑なんだろう。


 まぁ、それはもうそういう結果だから、仕方ない。また別の機会に切磋琢磨すればいいんだ。なんせ私たちはまだ高校生。今後も世界大会でアンジーと対戦する機会なんていっくらでもあるからね。


 それにアンジーを指名したいって日本の球団も結構いるから、アンジー次第ではこのまま日本で戦う可能性もあるだろうしね。アメリカは下部リーグが辛いらしいからね。そこを超えるために日本で実績を積んでメジャーかAAAってルートを狙うのも選択肢としてはアリでしょ。



「あ、あと胴上げはしてもいいけど変な所触ったら全世界に晒されるから気を付けてね!」

「絶対やらねー」

「粛々と監督がくるまで待つわ」



 私がそう言うと内野陣が一斉に私の頭にグローブを振り下ろしてくる。な、なんだこいつら! 国際大会で守護神様に暴力を振るうなんて! カメラは見たぞ決定的な瞬間を!


 なんてコントを挟みながら私はオランダのバッターと対峙する。そして理解した。彼ら、もう勝つ気が消えてる。なんというか、北埼玉デッドボールの試合で最終回に私が出てきたときの相手チームと皆同じ顔をしているのだ。


 言葉で例えるなら『うわ始球式に憧れのスーパースターが出てくるぞ! 俺ファンなんだよなぁ後でサイン貰っちゃお!』という顔だ。顔にそう書いてあるから間違いない。


 えぇ……やる気満々で出てきたのに、相手側がそのやる気がないってどういう所存なんだよぉ。不完全燃焼にも程があるじゃん。


 とはいえ仕事に手を抜くのは日本人としての血が許さない。そこで賢い私は考えた。これはもう北埼玉デッドボールの試合だと思えばいいんだ。あれにはもう一連の流れというかお約束が存在するから、それを見た観客からのウケも狙えるぞ!


 コーちゃんにサインでそれを伝えると、すっごい渋々だけど了承のサインが来る。1点差とは思えないゆるい空気の中最初に投げたボールはど真ん中ストレート。え、嘘って感じで相手のバッターが表情を崩し、思わず手が出るんだけどそこに一つの仕掛けが。通常のストレートではなく緩く浮き上がる飛球ストレートを投げたため、よっぽどの怪力でもなければフライになってしまうのだ。ちゃんと冷静に見てればそれも分かったんだろうけど、あまりに絶好球過ぎると驚いちゃうんだよね。これが何故か。


 次のバッターは最初の人よりも若干気合を入れなおしてバッターボックスに立ってきた。うん、良いね。でも一度切れた糸を張りなおすってのは結構大変なんだよ?


 最初に投げたのは、浮かび上がるような飛球ストレートだ。ストライクゾーンよりわずかに高めに入ったそれをオランダ選手の視線に焼き付けた後、今度は若干低めにストレート。ただし今度は通常のストレートだ。


 飛球ストレートの軌道が頭に入った状態で普通のストレートを打つとゴロになる。なんどか対戦してるチームの子。例えば網走くんなんかには通じないコンビネーションだけど、初見のオランダ選手にはこれが抜群に効いたね。セカンドが捌いて二人目は二球で仕留め2アウト。


 さて、最後のバッターだ。ここで打てなければ試合が終わる段階で、それでもまだ相手バッターは少し浮ついてる。前の回の逆転打がチーム全体の士気を落としちゃったんだね。うんうん気持ちはわかるよ。じゃ、やろうか(無慈悲)



『権藤あまねさん。権藤あまねさん』

「あ、はい女神様。なにか御用でしょうか」



 さて最後にきっちり仕留めるか、と気合を入れた段階で世界から色が消える。今日の試合用にチケットも使ってるから最後の打席までは特に用事はない筈なんだけどもどうしたんだろう。


 私の問いかけに女神様からの返答はなく、色が消えた世界にいきなり映画館のスクリーンめいたものが出てきた。お、おう。いきなりすぎてびっくりしたが相変わらずやろうと思えば無法するなぁ女神様。そのスクリーンでなにを見せたいのかと思っていると、画面の中でいきなりバイオなハザードとしっぶい声が響き渡り、唐突にゲームが開始された。


 う、うん?


 バイオなハザードは5作目くらいの奴で協力プレイが出来る奴で、あんまり怖くないから女神様もずっとプレイしてるみたい。グレプロは選手作成モードやりすぎると飽きちゃうから女神様は結構色々なゲームしてるみたいだけどもこれがお気に入りらしく、プレイの内容もかなりやり込んでるのが分かる。



『どう、でしょうか権藤あまねさん』

「バイオなハザードボールは絶対に投げませんよ?」

『ああん』



 ぼへーっと見てたら最初のステージらしきものをクリアしてムービーが発生した。女神様とゲームした時以来の長さだったけどこの世界だと立っててもあんまり疲れないからまぁ良いんだけどね。それより試合中にいきなりゲームプレイを見せられたせいで頭がオフにならないように気合を入れるのが大変だったくらいか。


 もしかして女神様、甲子園で私が投げるって目標を達成しちゃったから暇になったのかなぁ。だからこういうある種テロみたいな事をやりたがってるならどげんかせんといかんのだけども。あ、そうだ。



「そういえば女神様。随分とゲームをやりこんでるみたいですしアレやってみます? 実況プレイ」

『じっきょう?』

「ですです。ゲームをやりながらそれを見てる人とインターネット越しにやりとりするっていう楽しみ方がありまして。私もやった事があるんですけど普通に一人で黙々ゲームやってるよりは騒がしくできて面白かったですよ」

『ほう? ほうほうほう。権藤あまねさんは女神がただならぬゲームに造詣深い女神だとご承知のようですね?』

「それはもう重々ジュージュー承知のすけですよ」



 よし、最大の関門である女神様のご機嫌とりが完了だね! 上手い事乗せる事ができたから後はこの打席を3球で仕留めれば無事終了だ。そしてそれはもう成ってると言っても過言ではない。何故ならば3人目は3球まで使っていいからね!


 1球目は夢飛球。この回初の夢飛球を相手バッターは上手く捉えることが出来ずに空振りで1ストライク。特に右バッターには夢飛球はえっぐいボールだ。胸元に分身しながら飛んできていきなりストライクゾーンに落ちていくからね。


 次はグローブを右手に変えて外角低め一杯にストレート。夢飛球で胸元に飛んできたせいで踏み込みが甘くなると単純なストレートでもバットが届かなくなる。これで2ストライク。


 さてさて、これで舞台は整った。球場中の期待と、味方チームの声援と、相手チームの絶望を一身に浴びながらマウンド上で振り被る。ピッチャー最高の瞬間。勝負を決める一投。


 落ちてきた雷を全身に浴び、そのエネルギーを体からボールへと伝達。雷鳴を纏いながらボールを投げる! 手から離れたボールは雷のエネルギーを抑えきれず右に左にと稲妻のように跳ねながら真っすぐにキャッチャーミットへと向かい、到着。爆音を立てながらキャッチャーミットに着弾した。



「真・サンダーイナズマボール。相手は死ぬ」

『ああ! 取っちゃダメです!!』



 呟くように口にすると女神様からの抗議の声が耳に響く。あ、ついつい言っちゃった。ごめんね女神様。いっつも言われてたからつい口に出ちゃったよ。


 静まりかえった球場の中ビリビリと放電しながらコーちゃんが立ち上がり未だにバチバチ電気を放っているボールを審判に見せる。その動作に審判が試合中であることを思い出して、大きな声をあげて腕を振り上げた。



『スットライイク! バッターアウッ!』



ワアアアアアアアアッ!!!



 その瞬間、世界が音を取り戻したかのように轟音のような大歓声が球場中を包み込む。ああ、これだよ。これこれ。何回やっても良いよね。優勝って奴は。一斉にチームメイトたちやベンチ陣がマウンドに向かって走ってくる。おっと優勝した瞬間の投手の特権。胴上げタイムがやってきたね。まぁ仕方ないから多少のお触りは許してあげましょーかね。


 なんて思っていたらコーちゃんと網走くんに両脇を掴まれ、連行される宇宙人のような体勢を取らされた。あれ? ワッツハプン? 今から胴上げじゃ……



「あほ。魔球だとしってるが雷当たってんだぞ。精密検査に決まってんだろ」

「何回やっても毎回同じことになるんやからいい加減覚えときぃや」

「嘘だろ君ら!!?」



 まさか優勝の瞬間マウンドから引きずり下ろす気か!? と頑張って抵抗しようとするも、自分より体格が上な男の子ふたりには勝てなかったよ……とズルズル引きずられながら監督の胴上げを眺めることになる。いいじゃん! 毎回やってて毎回問題なしって言われてるんだから! そんな問題じゃないって! それはそうかもだけどさ!


 やっぱり、1人だけ魔球投げれるのも意外としんどい!



To Be Continued


これにて今回の番外編は終了となります。面白かったと思われた方、良ければ☆評価よろしくお願いします!

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