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【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい  作者: ぱちぱち


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144/158

第144話 甲子園決勝 浪速通天閣大付属⑦

 まず最初に雷がマウンドに落ちた。ほぼ時間差なくドゴォォォンと音が鳴り響き、衝撃波が球場を駆け抜ける。



「真……サンダァァァスパアアアアク!」



 僕はそんな阿鼻叫喚の中、全身を駆け巡る雷光を右手に集めるように振り被り。



「サンダァァァアアアイナズマァアアアアアボォオオオオル!!」



 僕の右手から放たれたボールは雷を纏い、不規則な軌道でミットに飛び込んでいった。集めきれなかった電気が僕の全身を数度駆け巡り、そして霧散する。



【真!サンダーイナズマボール! 束ねられた電光によってエネルギーを与えられたボールは雷の如くキャッチャーミットに飛び込み相手は死ぬ!】


――まだ1ストライクです



 女神様の勘違いを優しくただして、僕はコーちゃんから投げ返されたボールを受け取る。うん、コーちゃんにもダメージはなし。ちゃんとボールにだけ変化を加えられてるね、ヨシ!


 さて次の球を、と投球モーションに入ろうとすると慌てたように主審がタイムを取り、僕の方へドコドコと走ってきた。あれ、どうしたのかなと思ったら担架を持った白衣のおじさんまで走り込んできた。



「だ、大丈夫か権藤くん! お、おい担架早く!」


「あ、大丈夫ですよ。今の雷は無害なんで」


「無害な雷なんてあるかぁ!!」



 至極もっともな叫び声をあげる球審さんを説得する事5分。その場で逆立ちして「い、いのちをだいじに!」と叫ぶことで健康をアピールしなんとか許しを得た僕は、再び(ふたつ)さんに相対する。

あーもう、5分も時間つかっちゃったから(ふたつ)さんのやる気ゲージ無くなっちゃってるじゃん。せっかくいい勝負が出来ると思ったのに!


 まぁ、それはそれ。勝負である以上そっちのやる気はこっちには関係ないからね。恨むなら審判を恨んでもらうということで、いくぞ!



「てやー!」


「っ! 魔球じゃない!?」



 僕の投じた直球に(ふたつ)さん遅まきながらもバットを振ったけど、流石に間に合う訳がない。そのままミットに納まったボールをコーちゃんが「ナイスボール! バッタービビってるよー!」としっかり煽って投げ返してきた。鬼畜外道師匠に影響されてコーちゃんも囁き戦術を使うようになっちゃってまぁ。(ふたつ)さん顔が引くついてるじゃん。


 まぁ(ふたつ)さんの気持ちも分からないではない。なんせ僕が初球から魔球を出したのは公式戦だと初めてだからね。魔球チャレンジとかならバリバリ初球から投げ込むんだけどアレは幾らでもキャッチャー(芸人)が居るから出来る事だ。今までのように1球受けたらキャッチャーが大ダメージって球じゃ初球から投げることは出来ないからね。


 だが今は違う!(ギュッ)



「真……!」



 僕の叫び声に呼応するように、体中から炎のオーラが吹き上がる。熱はない。ただただ赤く燃え上がるオーラを右腕に集中させ、僕は第三球を投げた。



「ファイヤアアアアアボォォォオオオル!!」



 焔を纏ったボールは真っすぐにキャッチャーミットに飛んでいき、(ふたつ)さんは黙ってボールを見送った。



【真・ファイヤーボール! 炎を纏った白球の威容に相手は手が出ずに死ぬ!】


――――はい、1アウトですね。女神様



 アウトの宣告を受けた(ふたつ)さんがこっちに視線を向け、流石にこれは無法では? と口パクで訴えかけてくる。うん、またなんだ申し訳ない。仏の顔もって言うし謝るつもりも本当はかけらもないけどね。1打席二度目の魔球は初めて見せたから驚いちゃったかな? でもこれ勝負だから(無慈悲)


 まぁでも今の打席、割と危なかったんだけどね。結果だけみれば三球三振だけど二球目はただのストレートだし三球目の真ファイヤーボールも炎が出たりするだけのボールだ。バットを適当に振ったらもしかしたらワンチャンホームランされてたかもしれないけど、まぁ何故か(ふたつ)さんは手を出してこなかったからな。儲け儲け。



「いやー流石に初球のアレ見たら手ぇだせんぞフツー」


「えぇ、でも(ふたつ)さんだよ? 単に炎が出る球なんて余裕で打てると思うんだけどなぁ」


「目の前に雷落ちたら誰でもビビるわ。なんでお前元気にピンピンしてんだよ」



 1打席目が終わった瞬間に主審からタイムが言い渡され、何故か試合が中断されてしまったためベンチに戻ってきた僕はまず星監督に拳骨を貰った。いくらなんでもやり過ぎだと怒られたけど仕方ないじゃないか! 女神様がもうノリノリなんだから!


 とはいえ流石に1打席に二度の魔球はコーちゃんが厳しかったみたいだからね。魔球をセーブするのには大賛成だ。



――というわけでして女神様。キャッチャーが耐えられないので魔球はこの辺で


【分かりました。一人に一回ですね】


――っス。それでもう、お願いします



 まぁ残り二人で僕が投げられるかって問題はあるけど、試合中に関しては僕は問題ないと踏んでる。なんせ球場内が試合中断してからずぅっと「魔球コール」で埋め尽くされてるからね。この状態で僕を無理やり降ろしたらどうなるか分かんないから、審判さん達と高野連のお偉いさんがずっとグラウンドであーだこーだ会議してるのだ。


 やるなって言われてることをやったからね。仕方ないよね。でも中断できないよね。自主的に交代してくれないかって事も言われたけど「網走くんとの勝負が終わったら交代します魔球だけ禁止なんて事したからその反動だ」って言ってやったら、高野連の職員さんも頭を抱えてたね。予選からこっち投球機会を奪われてたんだからこれくらいは言っていいでしょ。僕は嘘は言ってないよ。嘘はね。


 それに多分いま甲子園を見てる人たちはみぃんな僕と網走くんの戦いを見たがってるんだから、それを見せないのはショービジネスに身を置くものとしてどうかと思うんだよね。高野連はショービジネスじゃないって? 甲子園ほど大掛かりなショービジネスは世界中を見渡してもそうそうないでしょ。メジャーのワールドシリーズより見ごたえあると思ってるよ。個人的な意見だけど。


 そうこうしているうちにコーちゃんの休憩に丁度いい緊急会議も終わり、続けるしかないという判断で主審たちが試合再開を宣言。マウンドに戻った僕を浪速通天閣大付属の3番さんがヒッジョーに良い笑顔で出迎えてくれた。おお、流石は超強豪校の3番打者。魔球解禁状況でもぜんっぜんやる気満々だね!


 そんな3番さんの為に優しく飛球ストレートをど真ん中に放り込んだ。打つ気満々の所にど真ん中ストレート。手を出しちゃうでしょ? でもそれ普通のストレートと違ってまっすぐミットまで飛ぶんだよね。思わず絶好球と思った球を頭上に打ち上げて、3番さんが「やっべ」みたいな顔をしてる。ふふっ、僕の手のひらの上でころころしちゃったね? ふんすふんす。


 1球で終わっちゃったから魔球が発動しなかったけど、まぁ本番は次だからね。それは女神様も分かってるから、何も言ってこない。



「や。待たせてごめんね?」


「構わんよ」



 ネクストバッターズサークルからゆっくりとした足取りで、網走くんが打席に入ってくる。そんな彼に向けていった僕の言葉に、彼の口が動くのが見えた。ざわめきに声がかき消されて、僕の言葉も網走くんの言葉も互いには届かない。けれど間違いなく成立した会話を交わして、僕と網走くんの勝負は始まった。



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