第1話 前編
竜の魔王アザレムは、眼下に並ぶ人間を一望する。
荒野で陣形を組む彼らは、決死の面持ちで武器を構えていた。
鼻を鳴らしたアザレムは地鳴りのような声で告げる。
「下等な人間どもが……我が領域に踏み込んだ罪を味わえ」
アザレムが紅蓮の炎を吐き出す。
刹那、戦士達は一斉に防御態勢を取った。
指揮官の男があらん限りの声で叫ぶ。
「焼き殺されるぞ! ありったけの結界を張れェッ!」
無数の結界が炎を阻むように展開される。
ところが炎は結界をあっけなく粉砕し、その先にいた戦士達へと炸裂する。
超高熱の爆発が戦士達を一瞬で消し炭に変えて、精鋭揃いの部隊は壊滅した。
しかし、たった一人だけ無傷で立っている者いた。
その男は光り輝く剣を掲げていた。
感心した様子のアザレムが男に問いかける。
「ほう、我が息吹で死なぬ人間がいるとは……名乗れ」
「ナキ。勇者ナキだ」
剣を下ろした男ナキが答える。
その肉体は尋常ならざる魔力を纏っていた。
執念に憑かれた眼差しは、微塵の揺るぎもなくアザレムを見据えている。
仲間の死すら厭わず、射殺すような圧力を込めて睨んでいた。
アザレムは納得した様子で頷く。
「勇者ナキか。知っているぞ。人類最強の剣士であり、神器使いの魔王殺し。ついに我が命を奪いに来たわけだな」
「そうだ」
「――驕るなよ、人間如きがッ!」
激昂したアザレムが再び炎を吐き出した。
ナキは疾走し、真っ向から炎を切り裂いて突き進む。
彼は加速しながら跳躍し、剣を振りかぶってアザレムの首を狙う。
狙いを察したアザレムはしかし、その場から動かなかった。
竜の魔王としてのプライドが、飛行による逃亡を許せなかったのだ。
アザレムは全力の魔力を爪に込めてナキへと叩き込む。
「死ねぇいッ!」
破滅的な威力を宿した爪は空を切った。
ナキの操る剣に受け流されたのだ。
覆しようのない体格差が理不尽に否定された瞬間、アザレムの双眸が驚愕に歪む。
「ッ!?」
「終わりだ」
翻されたナキの剣がアザレムの首を刎ねた。
宙を舞う頭部が微かに声を発する。
「そんな……我が人間などに……」
土砂降りのような鮮血を降らせながら、アザレムの胴体が崩れ落ちた。
音もなく着地したナキは剣を鞘に収める。
世界最強と名高い魔王を殺した彼は、失望に近い感情を以て竜の死骸を眺めていた。




